8月に入ってから、スポーツ新聞でよくそんなフレーズを目にするようになった。
今季も残り30試合前後、中日の京田陽太と西武の源田壮亮の両遊撃手が新人王レースのトップをひた走っている。最近はさすがに両者とも疲れが見え始めているが、京田は112試合で119安打を放ち打率.272、3本、28点、21盗。源田は112試合で117安打、率.261、3本、45点、29盗(成績は24日現在)。
驚くべきことに1年目からこれだけの成績を残しながら、2人ともドラ1指名ではない(京田2位、源田3位)。いつの時代もドラフト会議は一寸先はハプニング。当たり年もあれば、揃いも揃って外れる時だってある。
ハイレベルすぎる1998年の新人王争い
例えば、98年のセ・リーグは異常な新人の当たり年でいまだに語り継がれるハイレベルな新人王争いが展開された。
川上 憲伸(中日1位)26試合 14勝6敗 防2.57
高橋 由伸(巨人1位)126試合 率.300 19本 75点 OPS.852
小林 幹英(広島4位)54試合 9勝6敗18S 防2.87
坪井 智哉(阪神4位)123試合 率.327 2本 21点 OPS.797
抜群の安定度だった川上憲伸
川上は同僚の野口茂樹と並んでチーム最多の14勝を挙げ、その野口に次ぐリーグ2位の防御率2.57と抜群の安定度。7月初旬の巨人戦では初完封をやってのけ、明治大学の先輩・星野仙一監督の信頼を勝ち取ると、若き左右の二本柱としてローテの中心を担う。
巨人の若きスーパースター高橋由伸
そんな川上と六大学時代から凌ぎを削ってきたのが巨人の若きスーパースター高橋由伸だ。
いきなり打率3割をクリア、19本塁打、新人安打数歴代5位の140安打を記録(平成以降の入団では1位)。強肩で捕殺数もリーグ最多タイの12。ついでに爽やかスマイルと瞬く間に1つ年上の松井秀喜との新世代二枚看板で球界トップクラスの人気者となる。
今季すでに11度の猛打賞を重ねている京田が119安打ということも考えても、23歳由伸の126試合で140安打の凄さを実感する。
ドラフト4位でも大活躍した坪井、小林
しかし、打率でさらにそれを上回って見せたのが振り子打法でヒットを量産した阪神の坪井だ。「.327」は2リーグ誕生以後の新人最高打率である。
ちなみにこの年のセ打率ランキングは1位鈴木尚典(横浜).337、2位前田智徳(広島).335、3位が坪井で.327、4位緒方孝市(広島).326、5位ローズ(横浜).325と“マシンガン打線”&“ビックレッドマシン”の面々に挟まれ、24歳のルーキーが堂々3位にランクインしているのも痛快だ。
もちろん広島の小林もセットアッパーやクローザーの重役を担い、27SP(9勝18S)と手薄なブルペンを救う獅子奮迅の活躍ぶり。坪井も小林もドラフト4位入団というところに新人スカウトの難しさと面白さが見て取れる。
結果は? 1998年新人王レース
激戦が予想された新人王レースは、川上111票、由伸65票、坪井12票、小林5票で決着(賞を逃した3名もセ・リーグ会長特別表彰を受けた)。最終的に直接対決で川上が由伸を22打数1安打と完璧に抑えたことも影響したと言われる。
この時の由伸は「憲伸だと思っていた」なんつって今の監督談話を彷彿とさせるあっさり塩コメントを残しているのも興味深い。ちなみに2017年に京田が新人王を獲れば、中日ではこの98年の川上以来19年ぶりの栄冠となる。
意外なことに、今季953登板(成績は24日現在)でNPB最多記録を樹立した岩瀬仁紀は1年目の99年に65試合、10勝2敗、防御率1.57という素晴らしい成績を残しながら新人王は逃している。なぜなら、同じ年にいきなり20勝を挙げて巨人のエースに名乗りを上げた上原浩治がいたからだ。
一生に一度しか取れない賞を争った同世代のライバルの存在は、年を重ねるごとにその重みが増す。
なお岩瀬が今月6日の巨人戦(東京ドーム)で最多登板記録を更新した直後、遠くアメリカでプレーする上原は「岩瀬さん、凄いです!!」と祝福のツイートを送っている。
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(参考資料)
『週刊プロ野球 セ・パ誕生60年 1998年』(ベースボール・マガジン社)
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※文中の画像はamazonより横浜ベイスターズ1998ライブラリー