「発達障害」という言葉を目にする機会が、ここ何年かで多くなりました。
15人に1人が該当するとも言われている発達障害ですが、詳しい知識はまだまだ広く知られていないのが現状です。

そこで今回は発達が気になる子どもの家族のためのポータルサイト「LITALICO発達ナビ」の編集長、鈴木悠平さんにお話を伺ってきました。
発達障害に本人と周囲はどう向き合えばいい?「LITALICO発達ナビ」編集長に聞く

発達のデコボコと環境とのミスマッチ


――発達障害とはどのようなものなのでしょうか?

「噛み砕いていうと、先天的な脳機能の発達のアンバランスさ・でこぼこの大きさと、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチによって、社会生活に支障が出るような状態を、発達障害と呼んでいます」

――発達と環境とのミスマッチですか。

「脳にはいろいろな機能があります。その中での得意不得意や発達のスピードには先天的に個人差があります。集中力が長く続く人もいれば、短期集中の方が得意な人もいます。言葉を覚えるのが早い人もいれば、ゆっくりな人もいます。この得意不得意の差が極端であったり、全体的に発達がゆっくりであったりなど、先天的に発達のデコボコが大きい人が一定数います。
ただしデコボコが大きい人が、イコール生活に支障・障害があるかというと、必ずしもそうとも限りません。
たとえば、会話ができないということによって、他人に自分の意思を理解してもらえなかったり、それによってやりたいことができなくなったりすると、困ってしまいますよね。でも、言葉の発達・獲得がゆっくりな人や、大人になっても自分の言葉で話せないという人でも、ツールを用いたり、周囲にきちんと理解されていることで、意思の疎通が問題なく行えるという場合もあるわけです。これが、障害というのが、個人と環境のミスマッチによって起こるという考え方です」

――生活に支障が出るかどうかというところが、障害かどうかの境界線になっているということでしょうか。

「そうですね。とはいえ、先天的な発達のデコボコが大きいひとは、そうでない人と比べて集中力が持続せず仕事中に席に座っていられないとか、相手の話を言葉通りに受け取りすぎてしまって傷ついてしまうといったような、生きていく上での困り事に直面しやすい傾向があります。
学業や仕事、人間関係にすごく支障が出るという状態に陥りやすいのが、発達障害的特性を持っている人の中に多いと言えるでしょう。
ただし、障害は決して固定的なものではなく、個人の環境の相互作用によって、大きくなったりも小さくなったりもするものです。今ある困りごとに対して、個人のスキルアップを手伝う形での支援もあるし、周囲の家族や先生、道具、環境を変えるなど、デコボコと環境とのミスマッチをなくしていくことで解消できることもあります」

発達障害に本人と周囲はどう向き合えばいい?「LITALICO発達ナビ」編集長に聞く
発達障害の概念図 (C)LITALICO発達ナビ

発達障害は増えたのか


――発達障害という言葉を目にする機会がここ数年でずいぶん増えました。

「発達障害という概念が社会に普及したことによって、『自分もそうなのではないか』『わが子もそうなのではないか』と考え、ネットで検索や発信をしたり、専門機関に相談・受診したりする人は増えたのではないかと思います。一方で、発達障害を定義する要素のひとつである、先天的な脳機能のデコボコが大きい人の数自体が増えたかどうかというのは、いろいろな調査結果があって、はっきり分かっていません。ただし環境の方でいうと、産業構造や社会構造が大きく変化したので、それによって社会とのミスマッチを感じやすくなった人は増えたのではないでしょうか」

――産業構図の変化。

「第一次産業から第二次産業、第三次産業へと比重が移っていくにつれて、仕事をする上でもコミュニケーションが非常に重要視されるようになりました。
サービス業やチームで働く仕事、いろいろな職種や立場とか国籍といったものの関係性を理解していないと難しい仕事の割合が多くなったんですね。そういった環境の中だと、発達のデコボコが大きい人は困難に直面しやすく、相対的に不利になりやすいかもしれません」

――デコボコの大きい人には生きにくい世の中になっているのでしょうか?

「一概にそうだと断言するのは難しいですね……確かに、発達障害のある人にとって生きにくい部分もあるとは思いますが、昔よりも発達障害に対する支援の仕組みやアクセスは充実してきていると言えますし、発達障害の人が活躍しやすい仕事や職場も増えてきています。たとえば、特定の物事に対してものすごい興味関心や集中力を発揮するような人が、エンジニアやアナリストといった職種で活躍する場合もありますし、衝動性・多動性といったADHD的特性のある人は起業家の中に多いとも言われています」

――発達障害という概念が広がったことは、当人たちにとってどんな変化をもたらしたのでしょうか?

「当人たちにとって良かったのかどうかというのは、一人ひとりの境遇はさまざまですから、私がジャッジすることはできません。ですが『自分の困りごとについて、今までずっと自分の努力不足が原因だといわれてきたのだけど、そこに発達障害という名前が与えられたことで、ああ自分は努力してこなかったわけではないんだ、努力してきたけど先天的なデコボコがあるから困っていたんだということが分かって、ホッとした』というような声を聞くことは、少なくありません」

――発達障害という概念が自分自身を理解する上での助けになるケースですね。

「一方で、発達障害という名前自体の認知は広がりましたが、それを踏まえて世の中をより包括的に進化させていくという部分では、まだまだ課題があります。たとえば、仕事の現場において『あの人は発達障害だから』と変に距離を置かれたり仕事の期待値を下げられたりしてしまうと、発達障害のある当事者の方は『自分は理解されていない』『自分の力がまだ活かせていない』というモヤモヤを感じてしまいますし、職場全体としても生産性を十分に発揮することができないでしょう。
発達のデコボコが大きい人も当たり前に過ごせるような仕事の配分や学び方の多様化や、多様な感じ方・考え方を想定した上でコミュニケーションを工夫することが必要です」

発達障害に本人と周囲はどう向き合えばいい?「LITALICO発達ナビ」編集長に聞く
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本人やその家族が幸せになることが大切


――発達障害の人は、文部科学省が平成24年に取った統計によると15人にひとりぐらい。誰しも必ずどこかで関わりがあるといえる割合だと思います。私たちは発達障害という概念とどのように関わっていけば良いのでしょうか?

「先ほど説明したような発達障害という概念をどう定義し、整理するかという議論は、支援のための政策・制度設計や学術研究、医師による診断などにおいて、共通の土台を作る上では必要性がありますが、自身の発達のでこぼこについて悩んでいる本人やその周囲の人たちにとっては、概念や診断名自体より、具体的な困りごとにどう対応するかの方が大切だと思います。教育や就労の場で支援や配慮を受けるために、発達障害の診断が必ず必要なわけではありません。重要なのは、本人や周囲の人々がどんなことに困っていて、その原因は何か、どうなれば幸せで、そのために何ができるのかということを、ひとりひとりに合わせて具体的に考えていくことです」

(辺川 銀)