「私たち大人が覚えていればいいんです。勇介くんは、1歳半になるまで、ちょっと高い塀のおうちで6人のママに育てられました。
ね? ひとりひとりが胸に刻めばそれでいい」

宮藤官九郎脚本、小泉今日子主演の火曜ドラマ『監獄のお姫さま』。折り返しにさしかかって加速度的に面白さが増している感がある。笑ったり泣いたりで感情のアップダウンが忙しい! 視聴率は少し上がって8.0%だけど、もっとたくさんの人に観てもらいたいドラマだ。

先週放送された第5話は、“姫”ことしのぶ(夏帆)とイケメン社長・板橋吾郎(伊勢谷友介)の子・勇介を馬場カヨ(小泉今日子)、“財テク”こと千夏(菅野美穂)、“女優”こと洋子(坂井真紀)、“姐御”こと明美(森下愛子)ら、おばさんたちが総出で面倒を見る“獄中育児”の様子が描かれた。“先生”こと刑務官のふたば(満島ひかり)も獄中育児の実現に尽力してくれた。
「監獄のお姫さま」おばさんたちの獄中育児「地獄で仏っていうか、刑務所でおばさん」号泣から憤怒へ5話
イラスト/まつもとりえこ

「税金高い高いごっこしよ」今週も炸裂するパンチライン!


第5話もパンチライン満載。ピックアップするだけで記事が1本できそうだ。


「なんだっけ? 有名なスケベ?」(リン)
「母性よ、馬場カヨの溜まっていた母性がドバドバ出ているのよ」(姐御)
「例え話だろうが、アバズレが」(女優)
「労働基準法に触れるわ! 休み取りたいわ! 休み取ってジェラート食べたいわ!」(先生)
「(小声で)せーの、ジンジンジンジンジンギスカン♪」(姐御&女優)
「新潟の一流なんだっけほら、一流サイコパスじゃなくて!」(姐御)「パティシエ! ぜんぜん違う!」(先生)
「肉食なんすよ! いきなりステーキなんすよ!」(女優)「立ち食いなんすよー」(財テク)
「ごめん、初音ミク的なのしか聴こえないんだけど!」(検事の長谷川/塚本高史)
「てんけーん!」(勇介)
「ついカッとなって、ついカッとなって、女も悪い~」(ざんげ体操第二)
「おいで~、勇介。税金高い高いごっこしよ」(財テク)

笑っている間にさりげなく名ゼリフもぶっこまれるから油断ならない。

「赤ちゃんは私たちを色メガネで見ない。差別しないし、蔑まないし、同情もしない」(女優)
「地獄で仏っていうか、刑務所でおばさんっていうか」(姫)
「私たちは子どもの記憶に残ることも許されないんですか!」(馬場カヨ)

冒頭に掲げた護摩はじめ所長(池田成志)の言葉も良い。高い塀に囲まれたおうちで6人のママに囲まれて育つ男の子。まるで寓話のようだ。

クドカンらしいセリフだけでなく、出演者たちの無言の表情もそれぞれ印象深い。

仮釈放されたが誰も迎えに来ない小しゃぶ(猫背椿)。
息子がいじめに遭っていると夫から聞いているときの馬場カヨ。
勇介へのクリスマスケーキを受け取る新人刑務官の沙也加(大幡しえり)。
いずれもキャラクターや喜怒哀楽の枠に収まらない複雑な表情を表現している。
誰よりも印象的な無言の表情を見せるのは、先生ことふたばだ。
ふたばは受刑者たちを律する立場でありながら、みんなの言葉を聞く立場にもある。
「誰かのしい姉ちゃんに私もなります」と馬場カヨの言葉を聞いたときの少し嬉しそうな表情。勇介の「てんけーん!」を聞いたときに思わずこぼれた笑顔。真実を母親(筒井真理子)に告げるしのぶを見つめる複雑な表情、そしてラストの表情。
こうやって受刑者たちの想いを受け止めてきたからこそ、ふたばは馬場カヨたちの一味に加わったのだろう。全員の言葉と行動を知り尽くしているので、司令塔として振る舞うことも可能になる。


我が子との別れのシーン、こんなの泣いちゃうよ


おばさんたちのチームワークで“獄中育児”はスムーズに進んでいく。『監獄のお姫さま』の隣のスタジオで撮影されている『コウノドリ』では、出産したお母さんの孤立と精神状態の悪化がテーマとして扱われていたが、シャバより刑務所のほうが育児しやすい環境というのは何とも皮肉である。お節介という名のセーフティネットは、いまやシャバより女子刑務所に存在する。

赤ちゃんを抱っこして「可愛くて涙が出る」と語った馬場カヨの気持ちは、子を持つ親の筆者もよくわかる。吾郎からは“母親ごっこ”と揶揄されたが、女囚たちの行き場を失った溢れ出る母性を一身に浴びて、勇介はすくすくと育っていく。クリスマスイブに「申し出」の札が一斉に出て、みんながクリスマスケーキを勇介にプレゼントするシーンもすごく良い。

そして、やってくる1歳半になった我が子との別れ。
ママと別れたくないと泣く勇介を抱きしめるしのぶ。それを無言で見つめる馬場カヨと財テク。こんなの泣いちゃうよ。

そこへ(悪い意味で)颯爽と登場する板橋吾郎! しのぶの母親を味方に引き入れ、勇介を奪い取る! 悪のクズ男オーラ全開! 泣き叫びながら我が子を追いかけるしのぶ、がっくりとうなだれる馬場カヨ、悔しそうな財テク、悲しみに暮れる姐御、呆然としたままの女優……全員の無言の表情が印象的だ。しのぶを止めなければいけない、ふたばの表情も胸に迫る。

誘拐の被害者である吾郎が、ラストで誘拐する側にまわる展開は鮮やかの一言。
本編が終わった直後の予告編では、全員の無念を晴らすかのようにハイキックを吾郎に決めるふたばの姿がいきなり映し出されてしまうのも笑ってしまう。繰り返しになるが、泣いたり笑ったり感情が忙しいドラマだ。

誘拐だから「勇介」


最後に、読めば『監獄のお姫さま』が2倍面白くなる『週刊文春』のクドカンコラムをチェック(本人が毎週ドラマの解説を書いている!)。何でも深読みしすぎのドラマ視聴者に「意味がなければないほど良いと思っています」と牽制を入れつつ、「勇介」命名秘話を披露している。意味がある名前は“狙ってる”感じがイヤだから何でも良かった。結局、誘拐だから「勇介(ゆうかい)」と命名したのだとか。

ところが後から命名のシーンが必要とわかり、必死に頭を絞って考えだしたのが「皆さんの勇気と介抱のおかげで」。60点ぐらいのデキだとわかりつつ、時間切れでそのまま進めたが、第2話の撮影を見学したときに聞いた坂井真紀のセリフ「泉ピン子のドラマと違うって思ったでしょ」から「泉ピン子=お節介ババア(女囚の世話を焼く役なので)」というフレーズを連想して、あの名セリフ「みなさんの勇気とお節介のおかげで」が生まれたのだという。

「もし先に考えていたら、“狙い過ぎ”でアウトだったな」と振り返るクドカン。ギリギリで思いついたから生まれたミラクルだ。作家ってすごい。
(大山くまお)