第15週「泣いたらあかん」第80回 1月8日(月)放送より。
脚本:吉田智子 演出:川野秀昭
80話はこんな話
大正12年(1923年)、日本中に笑いを広めるため、藤吉(松坂桃李)は東京進出を目論む。
キースは東京にいた
大正12年の夏のおわり(立秋)は妙に蒸し暑かったと不穏なナレーション(小野文惠)。
小野文惠は微妙な声の調子で不穏感を醸して、プロフェッショナルだなと思う。
藤吉は東京でキース(大野拓朗)に再会するが、おりしも関東大震災が起こる。
藤吉は難を逃れ大阪に戻ってきたがキースが心配・・・というシリアス展開な月曜日。
ねずみがたくさんねずみ捕りにかかるとか、暑いとか、リアリティーある台詞や、電灯が揺れて、鳥や動物が騒がしく鳴くという演出で、大阪における関東大震災が描かれた。
東京に行った藤吉は大丈夫か、と一瞬不安にさせながら、藤吉が戻ってきて、ホッとさせる。
これは次回に引っ張ると不安な気分になり過ぎるという配慮だろうか。
でもキースならいいのか。
そのキースを演じている大野拓朗は、1月14日まで東京芸術劇場で「池袋ウエストゲートパーク SONG&DANCE」に出演中。「わろてんか」のために大阪に引っ越したほどの大野が、現在、東京に出張しているのだ。
ちょうど東京で稽古、本番の期間、「わろてんか」ではアメリカ、東京と席を外しているのだろう。
1月19日~21日までは兵庫県立芸術文化センター 中ホールで公演がある。キースが完全復活するとしたら、「わろてんか」の終盤だろうか。
キースが忘れられないアサリ
アサリ(前野朋哉)は、キースとコンビ解散して2年、どんな相方と組んでもうまくいかない。
やっぱりキースがいいのではと、皆にからわかれても意地を張っている。
キースもアサリを気にしているものの、アメリカに行くと豪語した手前、東京で一旗上げないと会えないと意地を張っている。
アサリとキースは別れたカップルみたい。
79話は、ほかにもカップル問題がいろいろ。
おトキ(徳永えり)は、休みの日、風太(濱田岳)とボーリングに行こうとしたが、仕事ですっぽかされて
静かに責める。にこにこ笑顔で責めるのはこわい。
「あんたらほんまに煮えきらんなあ」とてん(葵わかな)。
おトキと風太はいつになったらうまくいくのか。
吉蔵(藤井隆)と歌子(枝元萌)は、夫婦仲もコンビとしてもうまくいっている。が、東京向きの新ネタが
歌子に却下されてしまう。
「だめ亭主が恋女房にどつかれる」ところが受けているのだという歌子。
これが「わろてんか」の本筋だったらよかったのに。
てんが藤吉をどつきまくるドラマが見たかった。
チャリティーさん
栞(高橋一生)とリリコ(広瀬アリス)は、ビジネスパートナーとしてうまくやっている。
栞がチャリティーに励むことを、難しいことはわからないながら本能で理解する。
栞とリリコが孤独な者同士共感し合っている様子だ。
リリコは当初、風太と傷を舐め合う同士だったのが、すっかり風太がトキのほうへ向かってしまったため、
栞に鞍替えしてしまっている。
こういうふうに、自分の心の傷を治す方向でなく、そのままでいられる相手に次々渡り歩く人っている。
吉田智子の筆は、こういう人物像を描くと、冴えを見せる。
例えば、これがTBSの火曜10時のドラマだったら、食いつく人も多かったと思うぞ。
そして、79話で浅草12階と通天閣のことを台詞に書いた吉田智子先生には、倉持知子の「東京パフェ」という漫画を映画化かドラマ化してほしい。映画監督志望のヒロインが、売れないお笑い芸人とつきあって 、やがて彼が売れっ子になって距離ができてしまうというラブストーリー。田舎から出てきたヒロインのモチベーションは東京タワーだ。
倉持知子はくらもちふさこの妹で姉妹漫画家として活躍。「東京パフェ」は90年に単行本が発売されたかなり昔の漫画(連載は「ヤングユー」)だが、ものづくりという同じ夢をもったふたりのすれ違いは普遍的で、いまでも共感を得ると思う。
(木俣冬)