「(野性爆弾くっきーに)ムチャクチャにしてもらいたい」

本気で芸人になりたいと宣言したときに、斎藤工は確かにこう言った。くっきーが作ったマスクを身につけ、スクランブル交差点でネタを披露し、芸人「人印(ピットイン)」が誕生した。


……かのように見えたが、まだ足りないものがある。くっきーが人印を連れて訪れたのは、よしもとの養成所だった。『MASKMEN』(テレ東)の第3話。タイトルは「始動」。
「MASKMEN」3話「かっこいいお前が残ってんねん」俳優・斎藤工を消し去れと
イラスト/まつもとりえこ

「まだ斎藤工なんですよ、中身が」


第2話の渋谷スクランブル交差点から2週間後、人印は芸能事務所グレープカンパニーに所属していた。サンドウィッチマンや永野、カミナリ、東京ホテイソンらが並ぶタレント一覧の一番下に人印がいる。もちろん、中身が斎藤工だとは書かれていない。


さらに、グレープカンパニー主催のお笑いライブにも出演が決定。正体がバレないよう、ロケバスから人印の姿でライブハウスに入る。正体不明の新人にギョッとする芸人たち。初めて舞台の上でネタを披露した人印だったが、客席の反応は厳しいもの。ほぼ笑いが起きないまま、初舞台は幕を閉じた。

後日、斎藤工は初舞台の様子を収めた映像を、くっきーに見てもらった。


くっきー「”シュコー”弱くないですか?届いてませんよ”シュコー”が」
斎藤「それは、声の問題というより、心の問題……?」
くっきー「そりゃそうでしょう。人印になりきってないもん。まだ斎藤工なんですよ、中身が」

険しい顔で、人印の立ち姿にまだ「かっこよさ」が残っていると指摘するくっきー。「基礎習いに行きましょう」と提案したのは、よしもとの養成所「NSC」への一日体験だった。「厳しいですよ」「ほぼ軍隊ですよ」と言うくっきーに、斎藤工は不安な顔でつぶやく。

斎藤「僕、この年になって怒られるの嫌なんですけど……」

「そういうとこやわ!」と憤るくっきー。
芸人をゼロから志すということは、芸歴もゼロからリセットされるということ。「芸人・人印」を本気でやりきるには、「俳優・斎藤工」を消し去らなくてはならない。人印に足りないのは「ムチャクチャにされる」覚悟だった。

「自分で面白いと思ってやってんの?」


神保町のNSC東京校で、くっきーと人印を待っていたのは、講師の野々村友紀子(お笑いコンビ「2丁拳銃」の修二の嫁でもある)。マスクを取らず、挨拶もシュコーだけの人印にまずダメ出し。事情をくっきーから話すも、中身が斎藤工だと信じてくれない。しかたなくマスクを取り、ようやく「ホンマや……思ってたより斎藤工やわ……」と現実を受け入れてもらう。


一日体験では、NSC東京校23期生たちに混じって授業を受けることになった。1時間目は「ネタ見せ」。30組ほどの若手たちが、次々とネタを見せ、野々村先生がひとつひとつコメントする。

「家でやれっていうことやな」「自分で作った音に合ってない。ズレるんやったらもっとズレるとか」「どこで笑うん」「笑うタイミングどこなん?優しくないわ」「可愛いだけやな」「お笑いの間でやらんと(モノマネする相手に)失礼やで」

厳しくも、的を射た指摘が続く。そして「人印もやってみる?」との声。
立ち上がり、若手たちに一礼し、ネタを最後までやりきる人印。笑いはひとつも起きない。静まりかえった教室に、野々村先生が発した第一声は「なんや……怖い。お笑いっぽくない」だった。

野々村「まず長いな?これネタ尺何分でやってんの?……4分!? なんで若手の駆け出しで4分やんの? みんな2分やんな? だいたい大会とかの予選やったら2分やん」

『R-1ぐらんぷり』をはじめ、賞レースの予選は基本的に「ネタ時間:2分」と定められている。2分という短い時間で笑いを起こすため、ネタには緻密な編集が必要だ。
そのことを知らなかった人印は、教室内にいるくっきーの姿を探してキョロキョロする。責任は自分にない、と言わんばかりに。

野々村「なに見てんねん。自分でやってんねやろ? なんか、やらされてる感があんの? 自分でやってるんじゃないの? 自分で面白いと思ってやってんの? 自分で、ここを見てくださいここが面白いって、ちゃんと説明できんの?」

まだキョロキョロする人印。

野々村「どこが面白いかわかってて『ここが笑いどころですよ』って、しゃべらなくても表現力で笑わせるってのがプロやと思うねんけど。それがいまいち、やらされてる感があるというか。自分でわかってへんちゃうかな?」

斎藤工は初めてネタを聞いたとき「シュコーで笑いますかね?」と納得していなかった。渋谷のスクランブル交差点でも、グレープカンパニー主催のライブでも、全くウケなかった。どこが面白いか聞かれて、くっきーの姿を探した。マスクで顔を覆われていても、野々村先生は「やらされている感」を一発で見抜いたのだ。

思い返せば第2話で、くっきーは斎藤工にネタを渡すとき「あなたのネタですから」と声をかけていた。確かに作ったのはくっきーだが、これは「人印のネタ」だ。仏作って魂入れず。くっきーが作った仏に、斎藤工の魂が入っていない。

野々村「お笑いホンマにやろうと思ってんの? それやったらホンマあかんな、芸人なめたらあかんな。……芸人なめんなよ。笑い取るってことは、ホンマ難しいことだから。もっと頑張ってください」

人印、さらに進化を……?


ただ、斎藤工はまだ納得していなかった。「ネタ見せ」の授業後。廊下でくっきーに「ネタなんですけど……これでいいんですか……?」と申し出て、案の定「先生に言われましたやん」「かっこいいお前がまだ残ってんねん!」とどつかれてしまう。さっきの話聞いてた? という展開である。

一方、野々村先生は人印のネタを気にかけていた。放課後、くっきーだけを呼び出し「動きだけじゃなく、他の方法でも笑いを取るのを考えた方がいいと思う」「誰が見てもわかりやすいものが必要」と提案する。

斎藤工が「くっきーさんの世界観で」とオーダーしたこともあり、くっきーはネタに「(世界観を)フル満タンで入れた」という。「誰が見てもわかりやすい」と真逆のアプローチから始まっていたのだ。先生の言葉を受け、くっきーはネタを少し変えていくと人印に告げた。

人印「ありがとうございます。進化して、さらに高みを目指していきたいと思います」

マスクの外側からでも、少し安心した斎藤工が見えた。

2月2日放送の第4話は「修行」。予告ではバタフライナイフを回す斎藤工と、ロンドンの街に佇む人印の姿が。いったい何がどうなっているのか。『MASKMEN』(テレビ東京系)は深夜0時52分から。

(井上マサキ)