あのネットフリックスがヤクザ映画を作ったよ! そう言われては拝見しないわけにはいかないでしょう……。『アウトサイダー』は、ヤクザ・ミーツ・ラストサムライな、少し不思議アンド暴力な味わいでありました。

「アウトサイダー」はまるでヤクザ版ラストサムライ、Netflixがまたやってくれた

不良米兵ジャレット・レト、大阪でヤクザになる


日本とアメリカという異なる文化が混ざり合った、戦後の混乱期。民主主義の導入や農地改革などなど教科書に載るような事柄の他、アンダーグラウンドな方面での異文化交流も進んだ。不良米兵によるヤミ物資やヤミドルの取引にはブレーキのかけようがなく、詐欺師や外国人娼婦、自称ロビイストやCIAのパイロット、麻薬密売人に各国のスパイといった怪しげな人たちが、日本の至る所で元気に活動していたのである。中にはナイトクラブやハンバーガーショップなどを開店してそのまま日本に居ついてしまう人もいた。戦後日本の闇社会は"ガイジン"にとってもビッグチャンスを掴める場所だったのだ。

『アウトサイダー』はそんな時代を背景にした作品だ。時代設定は1954年。
終戦から10年も経ってない時期である。刑務所に収監されていた元アメリカ兵ニック・ローウェルは、同じ監房にいたヤクザの清と知り合う。自ら腹を切ってムショから病院に移り、そのまま脱走するという清の計画を助けたことから、ニックは清の所属する大阪のヤクザ白松組の世話になることに。

米軍からの銃密売取引で下手を打ったものの指を詰めて詫びたことで認められ、白松組の盃を受けて晴れてヤクザとなったニック。しかし、白松組は神戸の勢津会と一触即発の状態にあった。清の幼馴染で白松組幹部であるオロチが手打ちに動くが、組長の白松秋弘はそれを拒否。
白松組と勢津会の全面抗争に、ニックも巻き込まれていく。

前編日本ロケで主演以外はほぼ日本人キャストという、「アメリカ人が撮ったVシネ」みたいなムードの『アウトサイダー』。1954年の大阪を再現するためのロケと美術に相当手間がかかっているあたり、さすがネットフリックスという感じである。ロケのシチュエーションも「古い洋装店」とか「中規模のキャバレー」とかちょっと探してくるのに難易度が高そうな場所ばっかりで、「こんな所がまだあったのか!」と見入ってしまった。

そんな手間がかかったロケーションで展開されるのが、コテコテのヤクザ映画的ストーリーである。主人公ニックはムショで得た清との信頼と、その後の恩義のために体を張る。
最初はただの根無し草の不良米兵だったニックが「組」という疑似家族関係の中に居場所を見つけ、日本的な親分子分の関係を受け入れていくというストーリーは、日本のヤクザのシステムをリサーチしたんだろうな……と感心した。さらに清が脱獄のためにジギリをかけるシーンは、完全に『仁義なき戦い』の梅宮辰夫と菅原文太のあの刑務所のシーン! 「盃がないけえ、これ啜ろうや」と互いの血をすするくだりはなかったけど、ちゃんと東映実録路線への目配りもあって嬉しくなる。さらに言えば悪役が「神戸の巨大組織」であるところも、当時の京阪神のヤクザ地図を意識した部分だと思う。付け焼き刃っぽく感じられる部分がほとんどない。

役者陣もいい。顔つきと体格がシャープなので暴力シーンが様になるニック役のジャレット・レト、どこで英語を覚えたのかだけが巨大な謎として残る清役の浅野忠信、『アウトレイジ』以来の本格ヤクザ役が嬉しいオロチ役の椎名桔平、髪型と服装のおかげでちゃんと「昭和顔の美人」に見える忽那汐里と、主要キャストはいずれもいい仕事。
しかし、最大の拾い物が安田大サーカスのHIROである。HIROは白松組の組員サトルとして登場、親分の乗った車を運転したり銭湯で敵対組織の組員を絞殺したりと、案外細かく登場する。HIROは元から黙って立ってればけっこう怖い顔な上、ダイエットに成功して体型が一般人っぽくなったことで一気に暴力の匂いがする男になっていた。HIRO本人ならびに「HIROにヤクザやらせたらどうでしょ?」と思いついた人も殊勲賞もの。今後もガンガン暴力を振るう姿を見せて欲しい。

それでもやっぱり、ヤクザに夢を見たいんだ!


ジャパニーズ・ヤクザは、欧米の観客にとって日本に残る最後のファンタジーである。
今の日本にサムライもニンジャもいないことはさすがに彼らも知っている(はず)。しかしヤクザは実在する。さらにバブル期に海外進出した日本企業の悪印象も相まって、「日本の金持ち=ヤクザ=戦国の世からの秘伝を受け継ぐニンジャ暗殺集団」的なイメージはまだまだ根強い。21世紀に入ってからも、日本のヤクザはスクリーンの中でウルヴァリンやプレデターと元気に戦っている。

『アウトサイダー』にはそんなヤクザに関するオリエンタリズムと、取材に基づく「リアル・ヤクザ」的な実録路線が絶妙に混ざっている。前述のようにリサーチ自体は行き届いているのだが、その反面「指を詰める」という行為に妙にこだわったり、日本刀に対する思い入れがなんだか過剰だったり、なぜか屋外で親子の盃を交わしたりと、「いや、間違ってはいないんだけど……」とついつい口を挟みたくなってしまうディテールがあるのだ。


しかし、この作品のタイトルは『アウトサイダー』だ。社会的なアウトサイダーであるヤクザの世界に、国籍的にもアウトサイダーであるニックが飛び込み、最後にはその精神性を獲得する。いわばヤクザ版『ラストサムライ』である。そんなニックの立場からすると、ヤクザの世界は奇怪に映って当然だ。そのニックと同じアウトサイダーである製作陣から見たヤクザ像が「リアルっぽいけどやっぱりなんかちょっと変」なのは、メタ的な面白さがある。

思えば、『ラストサムライ』も細かいところはけっこう変だった。が、大事なのは心意気である。日本のトラディショナルなヤクザ映画へのリスペクトとしっかりしたリサーチ、そして「それでもヤクザという存在に夢を見たいんだよ!」という気持ちを感じさせる『アウトサイダー』には、その心意気があった。
(しげる)

【作品データ】
「アウトサイダー」公式サイト
監督 マーチン・サントフリート
出演 ジャレット・レト 浅野忠信 椎名桔平 忽那汐里 大森南朋 ほか
ネットフリックスにて配信中

STORY
刑務所に収監されていた元アメリカ兵のニックは、同じ房内で知り合った清の伝手で、大阪のヤクザ白松組の世話になる。その後白松組の構成員になったニックは、神戸の組織である勢津会との抗争に巻き込まれていく。