2018年1月8日。R-1ぐらんぷり1回戦の4日前、斎藤工は自ら考えた芸名をくっきーに報告していた。


斎藤工「僕ら安室世代じゃないですか。なので……『フェイス・ザ・チャンス』」
くっきー「いや、めちゃめちゃダサないですか!? 言えよ先!大反対やわ!」
斎藤工「でもこれでエントリーしちゃったんで……」

俳優・斎藤工が野性爆弾くっきーと組み、覆面&匿名で芸人を目指す『MASKMEN』(テレビ東京系)。ついにR-1ぐらんぷり1回戦の日がやってくる。第10話のタイトルは「挑戦」。
「MASKMEN」10話。R-1敗退の斎藤工に永野「自意識過剰かもしれない」
イラスト/まつもとりえこ

R-1 1回戦、待ち受ける非情な結果


2018年1月12日。R-1ぐらんぷり1回戦当日。斎藤工は、よしもと幕張イオンモール劇場にいた。
フェイス・ザ・チャンスのエントリー番号は3465番。顔を覆うマスクにサングラスをかけ、一人でロケバスを降りて会場に入ってゆく。

この日のために作り上げたネタは、冴えないサラリーマンが自身の顔を変えてくれと神様に頼むも、次々と変な顔にされてしまうというもの。NON STYLE石田が設定を作り、くっきーがネタを仕上げ、斎藤工がツッコミを練り上げた。そんな「チームMASKMEN」渾身のネタだったが……。

斎藤「お客さんの返りを期待しすぎないような、シミュレーションではいたんですけど……。」

出番を終え、斎藤工はロケバスの中で出来を振り返る。
放送ではネタがノーカットで流れたが、客席の反応はいまひとつ。懸念していた制限時間2分にネタは収まったものの、タイムアップを恐れるあまり「間」を取ることがほとんど無かったようにも見えた。

翌1月13日。スタッフにうながされ、斎藤工は結果を確認する。出場者121名のうち合格者は21名。フェイス・ザ・チャンスの名前は……無い。
(※参考:1月12日の出場者と合格者

斎藤「でも……二代目の人印(ピットイン)が1回戦突破してるんですね……僕じゃなくて」

そう、合格者の中には人印がいた。くっきーが最初にプロデュースしたキャラで、初代の中身は斎藤工だった人印。R-1ぐらんぷりには、「二代目人印」として番組ディレクターの井上章一がマスクを被って出場していた。そっちが受かってしまった……!

後日、斎藤工は井上Dに「斎藤さんが入ってもバレないと思うんです」と提案されていた。1回戦の現場では誰にも正体がバレていない。その夜に『MASKMEN』第1話が放送され、人印(初代)の中身が斎藤工であることが知られている。
2回戦から中身が入れ替わっても、成立するのではないか。

だが、斎藤工は首を横に振る。

斎藤工「章一さんの人印が通過したんですよ。二代目とかではなく。ホントに努力されたと思ってますので、そのままの勢いで2回戦、3回戦、準決勝、そして決勝……マジで行ってほしいです」

第5話で斎藤工が人印を脱ぐ決心をしたとき、心を占めていたのは「人印は自分じゃなくてもいい」という諦めだった。人印というキャラになりきるほど、誰が中に入っても同じ結果になるのではと思い悩んだ。
この頃の考えのままだったら、2回戦から再び人印をかぶったかもしれない。

だが、新たに共同作業でネタを作る中で、斎藤工はマスクをかぶった姿にも「自分」を宿せることを知った。二代目人印が1回戦を通過したなら、それは中身の井上Dの手柄だ。いっそこのまま決勝まで……。

……が、1月20日に行われた2回戦で、人印は敗退してしまう(※:1月20日の出場者と合格者

『MASKMEN』は、行き先を見失ってしまった。

永野が考える「一番ダサいやつ」


芸人を続けるべきか。
辞めるべきか。2018年2月2日。斎藤工は親交のある芸人・永野に悩みを打ち明けていた。人印が所属する芸能事務所・グレープカンパニーの先輩でもある。

事情を知った永野が「最初から思ってることなんですけど」と前置きして、斎藤工にぶつけた疑問は「なんで素顔をさらさないんですか?」だった。

永野「人印だ、フェイス・ザ・チャンスだ、という以上の笑いを取る可能性を秘めてるんですよ、あなたは。なんで素顔をさらさないんですか? なんで消すんですか?」

斎藤工は言葉に詰まった。企画が始まった当初は「覆面でどこまでいけるか」がテーマだった。時を経てその目的は変わり、「笑いを取りたい」「爆笑がほしい」に変わってしまった。

マスクを取れば「斎藤工がお笑いをやっている」というギャップで笑いは取れるだろう。ただ、それが本当にネタで笑いを取ったことになるのか。斎藤工という看板を捨てなければいけないのではないか……。その逡巡を永野は「自意識過剰かもしれない」と真っ二つにする。

永野「一番ダサいのは……笑いを取ることより、尊敬されたり好かれたりする方を選ぶやつが、個人的に嫌なんですよ。正直カッコイイじゃないですか。斎藤工が番組の企画でマスクかぶってトライして、って……。単純に笑わせればいいと思うんです。あなた自身がおもしろいんで。そんなことやってる場合じゃないなと思いますよ」

永野は過去に芸能事務所を退所し、フリーの芸人だった時期がある。ひとりぼっちになった永野は「誰かっぽい芸人」になることを辞めた。自分の笑いは独特だ。自分の個性を裸にし「変えられない人」になれば、いつか売れるのではないか。

「自分の笑いをずっとやっていたら、こんな芸風になっちゃいましたよ」と言う永野。「孤高のカルト芸人」は、自分が持てるものを全て使った。自分の全てを笑いにぶつけた男には、使える武器があるのに使わない斎藤工が「自意識過剰」に見えても仕方が無いだろう。


永野との対話を終えた斎藤工は、ある決断をする。

場面は夜の川辺を歩く斎藤工の姿に切り替わる。斎藤工は川辺にしゃがみ、担いでいた荷物を下ろす。中に入っていたのは、人印とフェイス・ザ・チャンスのマスク。愛おしそうにマスクを撫で、そして、全てを川へ流した。

エンディングテーマのToshi「マスカレイド」をバックに、カメラは斎藤工の顔をアップにする。川下へ流れるマスクを追う両目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

このままでは終われない。だが、このままではいけない。マスクと決別した斎藤工の答えとは。今夜3月23日放送の最終話、タイトルは「芸人」。

『MASKMEN』(テレビ東京系)
TVerでは最新話に加え第1話〜第3話も配信中。
(井上マサキ)