データで働き方改革? 職場での行動やコミュニケーションを可視化してわかったこと
センサーデバイスを持って説明するリクルートワークス研究所の城倉亮氏

リクルートワークス研究所は、2017年6月にDeNA Games Osaka(現DeNA)とセンサーデバイスを使用した共同実証実験を行った結果を先日発表した。音・動き・場所の情報から、職場でどのような交流やコミュニケーションが行われているか可視化することを試み、結果、被験者が認識していた自分の行動・会話のスタイルと、センサーデバイスで得られたデータに1/3以上のズレが生じていることが明らかになった。

同研究所によると、客観的に取得されたデータから導かれる検証により、多くの企業が認識している課題である「働き方改革」「人材配置・育成」に活用が可能だという。


時間配分やコミュニケーションの割合を可視化


今回の実験では、監視・管理されているという認識を与えないように、丁寧に説明会を行い、口頭・書面で同意を得て、全社員の7割である約50名が参加。行動データを取得する前に、自身の行動内容やリーダーシップのタイプについて25問のアンケートを実施。センサーデバイスで得られた情報と照会し、自己認識と実際の行動との差を検証した。

実験で明らかになったことは主に以下の3点。

(1)1日のオフィス内勤務における平均時間配分の可視化
同研究所所属で発表者の城倉亮氏が「基本的にはゲーム会社の社員はパソコンに向き合うイメージがありましたが、会議が多かった」と話したように、長時間・短時間会議が多くの割合を占めていた。働く時間の内容が可視化されたことで、働く時間の「量」だけではなく、「質」を意識した働き方改革の取り組みが可能になる。

データで働き方改革? 職場での行動やコミュニケーションを可視化してわかったこと

「働く時間をどのように使うか、チームや個人で振り返るために、このデータは使えます。想定以上に会議が多ければ、会議の内容や時間配分を考え直す一つのキッカケになればいい」(城倉氏)

(2)マネージャーと部下とのコミュニケーションの割合の可視化
マネージャーが、本人はまんべんなく部下とコミュニケーションを取っていると認識しつつも、偏りがあることも可視化された。
データで働き方改革? 職場での行動やコミュニケーションを可視化してわかったこと
※データはサンプル

実際に実証実験に参加したデザイン部の社員は「いろいろなメンバーと話しているかなと思っていました。でも実際のデータを見てみると、特定の人とばかりと話していたことに気がつきました」と話したという。

今回の実証実験では、対面でコミュニケーションを行っている時の状態をセンサーデバイスで可視化したが、現在、さまざまな職場でテレワークやチャットツールでのコミュニケーションも広がっている。「対面のコミュニケーションならではの部分はもちろん重要だが、今後は、リアルとネットのコミュニケーション両方の状態を分析していく必要がある」と、城倉氏は分析している。


(3)アンケート結果と行動データの一致割合
会話については35.4%、行動については43.1%、事前にアンケートを行った結果(自己認知)と、センサーデバイスによるデータ取得の結果にずれがあった。客観的なデータと自己認知のズレに目を向けることで実効性があり、理想的な人材育成が今後可能になっていくことも示された。
データで働き方改革? 職場での行動やコミュニケーションを可視化してわかったこと

フィードバックを受けた社員からは、「実際に行動を変えました」との意見も寄せられた。また、「もう一度実証実験を実施するのであれば参加したい」という声も高かったという。

「客観的なデータを活用することで、自身の行動や会話のスタイルを変えることが可能になります。たとえば、自分はあまり話さないタイプだと考えていても、実際には、自分の認識以上に会話量が多かったという方も今回の実験でいらっしゃいました」(城倉氏)


主観と客観をうまく融合して大きな気づきを与えられるように


こうした行動・会話データをもとに、社員に対してリアルタイムに近いフィードバックを行なうことで、より大きな気づきも与えられるようになっていく可能性がある。
ただし、客観的なデータだけに依存するのではなく、主観的なデータも維持しつつ、「両方のデータをうまく融合することが大切」と白倉氏は見解を示した。

それでは、社員は行動やコミュニケーションを可視化されることにより、どのようなメリットがあるのか。
「ご自身の働き方や様子が見えるようになっていきます。しかし、認知している状態と異なるのであれば、改善し、若い社員であれば、よりスピーディーに成長できるチャンスを得られるツールになっていくのではないでしょうか」(城倉氏)

一人ひとりが生き生きと働ける次世代社会の創造に向けて、今後センサーデバイスを活用したコミュニケーション可視化が広がっていきそうだ。
(長井雄一朗)