荒ぶるモンスターたちを巧みに統べるオーガナイザーとして、この夜その鮮やかな手腕と人徳がありまくる様子をいかんなく発揮していたのは、PENICILLINのギタリストとしてはもちろんのこと、ソロワークスやソロプロジェクトCrack6でも積極的な活動を続けている千聖その人、であった。

昨年はついにソロデビュー20周年を迎え、それを記念した『千聖~CHISATO~ 20th ANNIVERSARY BEST ALBUM「Can you Rock?!」』をリリースしたこともまだ記憶に新しいが、千聖といえば近年コンスタントに開催して来ている『Crazy Monsters』主催者としても、かなり有名なはず。
通称・クレモンとも呼ばれているこのイベントは、彼の豊富な人脈とセンスフルなアーティストとしての才覚を存分に活かしたもので、昨夏にはその内容をより拡大化しプレミアム化させた『MONSTERS OF NIGHT SHOW』が川崎クラブチッタにて行われ、これまた好評を博していたのだが、あまりのその反響の大きさから、なんとこのたびは続編となる『MONSTERS OF NIGHT SHOW ~Spring Fes 2018~』が渋谷TSUTAYA O-EASTへと場所を変え、さらなる華やかさをもってフェス化開催されることとなったわけである。

14時の開演後にまず一番手としてステージ上に現れたのは、もともとDASEINのヴォーカリストとしてデビューし、その後はTHE MICRO HEAD 4N'S初代ヴォーカリストとしても活躍した一方、現在はRIDER CHIPSの正式メンバーであるとともに、復活したDASEINやソロアーティストとしての活動を精力的に行っている、あのハイパーネオソロリストことRickyだ。キーボーディスト+マニピュレーター、それにダンサー×2というV系としては珍しい編成のチームを従え、今回のRickyはこの季節にぴったりな「春風、吹く日に…」や、4つ打ちのリズムが響くダンサブルな「Hi-Techono-Boy」、伸びやかな歌声を聴かせてくれた「R☆MY WORLD」などで、まだ早い時間にも関わらず本領を発揮してくれており、一気にその場を昼下がりの雰囲気からライヴモードへと染め替えてみせたあたりは、やはりさすが!としか言いようがない。

なお、タイムテーブルによるとこの次に控えていたのはS.U.Wなるシークレットゲストだったのだが……一体誰が出てくるのかと思えば、イベントのオーガナイザー千聖。そしてDr.yusuke(HERO)、B.ZERO(THE MICRO HEAD 4N'S)、G.KOJI(ALvino・La'cryma Christi)、そしてVo.神谷玲の面々。S.U.Wは略称で正式なバンド名はStrawberry Under World。
ロックでダイナミックな楽曲をたった1曲だけ演奏し、疾風のごとくその場を去ってしまったのはとても残念だったが、実は今年2月あたりからTwitterの公式アカウントが開設されていることを考えると、どうやらStrawberry Under Worldは“この先”もなにかしらのアクションを起こしてくれそうな気がする。

つまり、いろいろな意味で今回のイベントには話題性の強いアーティストが集っていたことになるのだが、そんな中でもこの日の“楽屋内”でしきりと高い評価を得ていたというのが、2014年にν[NEU]が解散したのち、ソロヴォーカリストとしてのキャリアをスタートさせたmitsuだという。たしかに、この日の彼は時にパワフルに、時にソウルフルに、と持ち前の少しハスキー寄りな歌声を的確に駆使したヴォーカリゼイションで聴き手を魅了することに成功しており、バンギャルのみならずオトナのリスナーをも惹きつけるだけのポテンシャル、というものを感じさせてくれていた気がする。

ちなみに、今回のイベントに出演していたアーティストたちはそれぞれに経歴や背景もさまざまであったのだが、ちょうど今年で始動から15周年を迎えることになったというのが、このあと独特なハッピーオーラとともに登場したアンティック-珈琲店-。来たる4月28日には15周年記念の日比谷野音公演も決定しているそうで、何度聴いてもインパクトのある往年の「スマイル一番イイ♀」では安定のハジけっぷりをみせつつ、今回のライブで披露してくれた最新シングル「願い事は1つさ」においては、15年を経てバンドとしての含蓄を得てきたところも、彼らは感じさせてくれた。

また、15周年といえば今年でメジャーデビュー15周年を迎えるのが、5番手というともすれば中だるみしがちなタイミングで、見事に勢いがありながらも地に足の着いた存在感を提示してくれたDだ。
そんなアニバーサリーイヤーを飾る、壮麗かつ重厚な新衣装をまとった彼らのステージングはその見た目以上に圧巻の一言で、かなり限られた時間ではあったものの、最後に「闇より暗い慟哭のアカペラと薔薇より赤い情熱のアリア」が貫録たっぷりに放たれたくだりは、あたかもワンマンライブのごとき迫力であったと言っていい。

そして、研ぎ澄まされたライブバンドとしての実力を持っている、という点ではクレモン常連でもあるTHE MICRO HEAD 4N'Sの存在も、間違いなくこのフェスを豊かに彩ってくれていた、と言って間違いないだろう。 百戦錬磨の頼もしい楽器隊と、Nimoが繰り広げてくれたひとときは、彼らのことを知っている者にとってはもちろんのこと、おそらく初見のオーディエンスにとっても説得力の溢れたものなっており、グラマラスで刺激的な「MONSTER'S ROAR」といい、ラストのドラマティックな「上弦の月のオーケストラ -Staella Note Magic-」といい、コンパクトな中にも“マイフォ”の魅力が凝縮されたその一幕はとても素晴らしかった。

こうしていよいよ『MONSTERS OF NIGHT SHOW ~Spring Fes 2018~』が佳境を迎えようとする中、ここでこの日にあっては唯一の新人(?)といえるバンドが颯爽と見参することに!  元SIAM SHADEのドラマーにして、近年はAcid Black Cherryなどの敏腕サポートとしても名を馳せている淳士。Rayflowerの一員としても活躍する一方、その超絶ハイテクニカルぶりからベーシスト界隈において一目も二目も置かれており、T.M.Revolutionらのステージでも異才を放っているIKUO。この鉄壁のリズム隊が土台となって2006年に結成されたBULL ZEICHEN 88が、先だって3月28日に『アルバム2』でメジャーデビューを果たしたため、便宜上ここでは新人として紹介することになったのだが(笑)、当然バンドとしては10年以上の歴史を持っているため、彼らの放つ音はどう考えても新人のキーワードには到底そぐわない、骨太で威風堂々としたものであるに決まっている。
ヴィジュアル系とスクリーモをかけあわせた“ビジュリーモ”、もしくは“ハッピーラウド”とも称される彼らの音は豪快かつキレッキレで、淳士とIKUOがそれぞれにバカテクを連発しつつ、フロントマンの栄二郎が吠えれば、ギタリストのsebastianも煽りながらギターを弾き倒す、というその構図はもはや良い意味でカオスに近かったかもしれない。極めて年季の入った大型新人だけに、きっと今後の全国ツアーでも“ブルハチ”は大旋風を巻き起こしていってくれそうだ。

さらに、このあとトリ前の場面では約四半世紀前にもなるインディーズ時代、今はなき高円寺のライブハウスLAZYWAYSでPENICILLINと何度かタイバンしたことがあるというSHAZNAもこの場に参戦し、昨年の再結成を機に男女6人となった新編成で代表曲「Melty Love」など、全6曲を聴かせてくれたことも大きなトピックスだったと言えよう。

あれよあれよという間に、気付けばもうかれこれ7時間近く。これだけ大充実したフェスを締めくくるべく満を持しての降臨となったのは、言うまでもなく今宵の主人公・千聖にほかならない。トレードマークのオリジナルVシェイプギターを駆りながら、いずれも昨年に発表されたベストアルバムと同様の最新アレンジで懐かしいソロ曲たちを次々と歌っていくさまは、いかにも鋭く尖ったロックスター然としていて、どうみてもアラフィフとは思えないやんちゃぶり。


「お待たせしました! 今回も本当に、素晴らしいバンドがいっぱい出てましたけどね。でも知ってますよ。みんな、結局はコレを観に来たんでしょ?(笑) 今日、渋谷に来たみんなは俺を観に来たんだよな!」

そうオーディエンスを焚きつけたうえで、ちょうどこの日は『千聖~CHISATO~ 20th ANNIVERSARY BEST ALBUM「Can you Rock?!」』のレコーディングに参加したメンバーが出演していたということもあり、「666 ~XX ver.~」ではBULL ZEICHEN 88のIKUO、「KICK! ~XX ver.~」ではRickyとアンカフェのみくを迎えての豪華な顔ぶれで、各楽曲を聴かせてくれたのだった。

しかも、千聖のステージが一旦終わったあとには恒例のアンコールがあり、千聖がそのために作ったという、その名も「Crazy Monsters」なる曲が各バンドからの代表者の集ったCrazy All Monstersと、このシーンに限っての特別ゲストとして「Crazy Monsters」のミュージックビデオにも参加しているギタリスト潤(ALvino)を交えて盛大にパフォーマンスにされ、『MONSTERS OF NIGHT SHOW ~Spring Fes 2018~』は大団円のまま幕を閉じるに至ったのである。

冒頭にも書いたことだが、これは何より千聖の人徳によるところが大きいのではなかろうか。長いキャリアに奢ることなく、各世代とも積極的に交流し、シーンを盛り上げ、自らの研鑽をも積んでゆく。
舞台上や表向きには微笑ましい俺サマぶりをアピールしながらも、その根底にはいつも彼の真摯かつ貪欲なアーティスト精神があるのだろう。

その千聖だが、6月6日に千聖ソロワークとソロプロジェクトCrack6のスプリットシングル『ジキルの空/MAD RIDER』を発売。さらには6月末から7月上旬にかけて「千聖/Crack6 ワンマンTOUR 2018 『ジキルとMAD RIDER』“破 ~千聖 < Crack6~”」が行われるそうだ。荒ぶるモンスターたちの頂点に立つ、希代のロックスターとして、千聖にはこれからも変わらず傍若無人であり続けてほしい。
(取材・文/杉江 由紀)

≪リリース情報≫
Split Single
千聖 / Crack6
『ジキルの空/MAD RIDER』
2018.06.06リリース

【初回盤A】CD+PHOTOBOOK
TKCA-74657 / ¥2,222(税抜)
[収録曲]
1. ジキルの空
2. MAD RIDER
3. ジキルの空(REMIX ver.)
4. ジキルの空(Instrumental)
5. MAD RIDER(Instrumental)

【初回盤B】CD+DVD
TKCA-74658 / ¥1,759(税抜)
[収録曲]
1. ジキルの空
2. MAD RIDER
<DVD>
内容未定

【通常盤】CD
TKCA-74657 / ¥1,204(税抜)
[収録曲]
1. ジキルの空
2. MAD RIDER
<Bonus Track>
3. 「千聖プロデュースイベント“MONSTERS OF ROCK NIGHT SHOW”」イメージテーマソング

≪インストアイベント情報≫
【「ジキルの空/MAD RIDER」リリース記念インストアイベント】
2018年6月5日(火)東京・池袋
2018年6月6日(水)東京・渋谷
2018年6月9日(土)東京・渋谷・新宿
2018年6月10日(日)東京・町田/神奈川・横浜
2018年6月30日(土)愛知・名古屋
2018年7月2日(月)大阪・難波
2018年8月19日(日)大阪・難波/大阪・梅田
2018年8月25日(土)東京・池袋

≪ライブ情報≫
【elements,H presents ~HAKUEIMAN VSライブシリーズ~“Amazing Vibration”】
2018年4月29日(日)東京・新宿ReNY
出演:HAKUEIMAN、千聖/Crack6

【千聖/Crack6 ワンマンTOUR 2018 『ジキルとMAD RIDER』“序 ~千聖 = Crack6~”】
2018年6月16日(土)東京・SHIBUYA REX 

※FC CLUB NEO 限定ライブ
2018年6月23日(土)埼玉・西川口 LIVE HOUSE Hearts
2018年6月30日(土)愛知・名古屋 ell SIZE
2018年7月1日(日)大阪・大阪 RUIDO
2018年7月8日(日)東京・渋谷 TSUTAYA O-WEST

【千聖/Crack6 ワンマンTOUR 2018 『ジキルとMAD RIDER』“究 ~千聖 > Crack6~”」
2018年8月10日(金)東京・恵比寿 LIQUIDROOM【千聖・ZIGGY 2マンライブ】
2018年8月18日(土)大阪・大阪 MUSE【究 ~千聖2018 ザ・セミファイナル~】
2018年8月24日(金)東京・新宿 ReNY【究 ~千聖2018 ザ・ファイナル~】

■千聖/Crack6 オフィシャルサイト