今年もパ・リーグが強い。
5月29日から始まったプロ野球の日本生命セ・パ交流戦。
そのヒントを横浜DeNAベイスターズ監督を務めるアレックス・ラミレスの著書『CHANGE! 人とチームを強くする、ラミレス思考』(KADOKAWA)の中に見つけた。自身もヤクルト、巨人、横浜と在京セ球団で活躍した経験を踏まえ「セ・リーグの打者は内角球に弱い」と分析するラミちゃん。セ投手は内角攻めが非常に甘い。多くが外へ逃げるフォークボールや変化球に頼りがち。時にキャッチャーもベンチも臆病になり“集団内角恐怖症”に陥ってしまう。こうなると打者もいつまで経っても内角打ちは上達しない。この特徴はセ・リーグのみで、しかも内角攻めに加えてパ投手は平均球速が速い。同時に本の後半ではパ・リーグの弱点や攻略法にも触れている。
「ラミちゃん」がパフォーマンスをし続けて気づいた変化
現役時代の明るく楽しいラミちゃんイメージは、監督就任後に一変した。指揮官になるとベンチの中でメモをとり、イニング毎の投手の球数や最高球速を記録する。すべての思考は監督室の入念な準備から組み立てるという。
あの「アイーン」や「ラミちゃんペッ」といったベタすぎるパフォーマンスも、来日当初にチームメイトたちに薦められ、何が面白いのか理解不能なまま片言の日本語で真似してみせたら周囲にウケまくる。球場の少年ファンたちも嬉しそうだ。そこで、元メジャーリーガーのオレを馬鹿にするな……ではなく、ちょっとした行為でみんなが喜んでくれるならとラミレスはパフォーマンスを続ける。やがて、「アイーン」はチームメイトやファンとのコミュニケーションツールの役割を担うようになった。
2年目からは、お笑い芸人たちから自薦で自分のギャグを使ってくれとDVDが届くようになり、ラミレスはそれを見ながらあることに気が付く。来日当初は日本人の笑いのセンスを理解できなかった自分が、1年後にはこのギャグが日本のファンにウケるかもと冷静に分析しているのだ。「人は1年でこんなに変われるものなのか」と自分自身の変化に驚いたという。
チャレンジし続けるラミレス思考
ラミレスの長所はその環境適応能力の高さと明るい性格だ。メジャーリーグで将来を期待される若手時代から、日本人スカウトを見かけると気さくに挨拶。そんなラミレスの裏表ない性格に惚れ込んだのが、元ヤクルト国際スカウト中島国章氏だった。自分の可能性を限定せず、あらゆるものにチャレンジする。ヤクルト時代のラミレスは同僚のキャッチャー古田敦也に日本のバッテリー攻略法を質問攻め。
郷に入れば郷に従え。日本という文化に、日本球界という慣れない世界に適応し、あらゆるものから学び、さすがに無理では……と思われたNPBでの監督就任の夢も実現させた。そしてラミレスは言うのだ。
「チャレンジし続ければ道は拓ける」と。
本書で興味深いのはDeNA監督選考の際に、ラミレスがフロントに対して行ったプレゼンだ。具体的かつ、ロジカルにチームを強くするためのプランを説明。話題先行の人気やキャラ重視の抜擢ではなかったことがよく分かるエピソードの数々が紹介されている。
最近、大学アメフト界の指導者がニュースになっているが、日本特有の“根性論”について、ラミレス監督は「調子が悪いときこそ、しっかり休んで気分を一新してもらう方法を選択する」という。
我々も新しい世界へ踏み出した時、どうしても以前の環境と比較しがち。転職先で前職の良さを語ったり、新しい恋人に昔付き合っていたおネエちゃんの残像を重ねたり……。
こんな時代だからこそ、いつも心にラミちゃんを。
【『プロ野球から学ぶ社会人サバイバル術』からのお知らせ】
今回が『スマダン』連載は最終回。6月からエンタメ情報メディア『SPICE』上に移行して本連載は続きます。いつも心にラミちゃんを。
(死亡遊戯)