今年4月に待望の日本公演を開催したブルーノ・マーズ。世界的大ヒットアルバム『24K Magic』を引っ提げたステージはアメリカのポップミュージックの歴史を総括するような素晴らしい内容だったが、一方でこんなニュースも報じられた。
“ブルーノ・マーズ、ライブ中に自撮りしていた観客を指さして激怒”
最前列の客がブルーノをバックに自撮りを続け、それを見たかねたブルーノが撮影をやめるようにアピール。しかし客は自撮りをやめず、ついにブルーノが激怒というのが事の顛末だ。筆者もこの公演を観たが、“ライブを観に来たのか写真を撮りに来たのかわからない”という客は確かに多く、“そのスマホを下ろせ! ステージが見えないだろ!”と何度も心のなかで叫んだ。直接は言えなかったが。
■海外アーティストの来日ライブは基本的に"撮影OK"
“海外アーティストのライブは基本、撮影OK”という認識を持っているオーディエンスは多いのではないだろうか。実際筆者も好きなアーティストの来日公演に行ったときは、2~3枚写真を撮る。それはあくまでも記念写真的なものであり、ほかの観客もほとんど同じような感じだと思う。だが、1曲まるごと動画撮影をしたり、(ブルーノ・マーズの一件のように)自撮りしている客を見ると、正直、引く。要するにこれはマナーの問題であり、まわりに迷惑がかからない程度に撮るのはOKというのが、アーティスト側、オーディエンス側の一般的な共通認識だろう。
日本のアーティストはいまも”撮影は全面的にNG”がほとんどだ。コンサート会場では“開演前、開演中に関わらず撮影は一切禁止”、“撮影しているのを発見したときはデータの消去、機材の没収、場合によっては退場していただく”というアナウンスが行われているが、「そんなに強く言わなくてもいいじゃないか」とか「開演前のステージくらい撮ってもいいだろ」と思わなくもない。客は楽しみたくて来ているのだから、ライブがスムーズに行われる限り、規制は少ないほうがいいに決まってる。
■一方、日本のアーティストは……?
そんな状況のなか、例外的にいち早く“ライブ中の撮影OK”を打ち出しているのがSEKAI NO OWARI(筆者の知る限り、2013年の野外ライブ『炎と森のカーニバル』からは完全に撮影OKだった)。当時の取材でボーカルのFukaseは「ディズニーランドに行ったら、みんな写真を撮るじゃないですか。それと同じで、写真を撮って記念にしてほしいんですよね。ライブに来られなかった友達に見せたり」みたいな話をしていて、「確かにそうだけど、いままでそんなこと堂々と言うアーティストいなかったな」と驚いた記憶があるが、”セカオワライブは撮影OK”はすっかり浸透し、ライブ前には“スタッフがステージをバックにお客さんの写真を撮ってあげる”という場面も見られる。現在セカオワは野外ツアー『INSOMNIA TRAIN』の真っ最中だが、列車をモチーフにした壮大なステージセットを見ると「こんなすごいもの見たら、絶対に写真撮りたいよな」と思う。ぜひ“#INSOMINA TRAIN”で検索してみてほしい。セカオワのライブってこんなすごいことになってるのか! と驚いてもらえるはずだ。
ところが、問題点もある。セカオワは公式サイト上で“商用利用を除いて、写真撮影はOK。フラッシュを使用した撮影、動画の撮影、録音は禁止”と明記しているのだが、動画を撮影し、SNS上にアップする観客が後を絶たないのだ。セカオワはライブ中に未発表の新曲も演奏しているので、“リリースより先にSNSで曲が聴けてしまう”という事案が発生。発表のタイミング、“どんな形で聴いてもらうか”を慎重にプランニングしているアーティストにとっては、これは看過できない事態だろう。
ライブを観ている限り大きなトラブルは見受けられないし、何をよりもセカオワの壮大なステージを写真に収めることはファンにとって楽しみのひとつ。写真撮影OKを続けるためには、禁止事項を地道にアナウンスし、マナーを周知させるしかないだろう。
■「ライブ中の撮影」考えうるメリットとデメリットとは
そもそも、なぜ日本ではライブ中の撮影が許可されないのか? ひとつは著作権の問題。簡単に言うと“ライブ中に撮った写真を商品にして売られると困る”ということで、これに反対する理由はないだろう。もうひとつは(これは音楽系のカメラマンに聞いた話ですが)“事務所が管理できない写真を世に出したくない”ということ。観客が撮った写真は、プロが撮り、事務所がチェックした写真と違い、とんでもない表情で写っていることも多い。アーティストのイメージを大事にするマネージメント側に立てば、これも納得できる。あとは観客同士のトラブルを防ぎたいということもあるだろう。
写真撮影を許可することのメリットもある。その最たるものはSNSなどでの拡散効果。ライブ中の写真がファンによって拡散されることは、アーティストの現状を伝え、結果的にプロモーションにもつながる。
そんな潮目の変化を察知するように、撮影OKを打ち出すアーティストも少しずつ増えている。まずは“ゆず”。ここ数年のツアーに続き、現在行われている全国アリーナツアー『YUZU ARENA TOUR 2018 BIG YELL』でも"ライブ全編スマートフォンでの撮影可"を打ち出している。毎回終演後には“#BIGYELL”で写真付きのSNS投稿が数多く見られ、ファン以外の音楽ファンへのアピールにもつながっているようだ。また、最新アルバム『ENSEMBLE』がヒットし、本格的ブレイクが近づいているMrs.GREEN APPLEはデビュー当初から“ライブ撮影OK”。セカオワ同様、エンターテインメント志向が強いバンドだけに、“自分たちのライブの魅力をファン以外の人たちにも伝えたい”という思いがあるのかもしれない。
Twitter、インスタグラムをはじめ、個人がメディアを持つ時代において、アーティスト側がリスナーに対して”発信したくなる素材“を提供することが求められるようになるはず。ライブ中の写真撮影を解禁するかどうかは、その重要なポイントになりそうだ。
文/森朋之