水曜ドラマ「正義のセ」(夜10時~)が昨晩ついに最終回を迎えた。

このドラマではいままで、新米検事の竹村凛々子(吉高由里子)が横浜地検・港南支部に赴任してからというもの、さまざまな事件を担当しながら成長するさまが描かれてきた。
前回、第9週では、そんな彼女が一時は検事をやめようとまで思い詰めながら、家族や同僚の助けのおかげでどうにか立ち直れたばかり。最終回では、政治家がらみの大きな案件を担当することになる。
「正義のセ」最終回の問い「検事って何だと思いますか」ベタだが説得力あったドラマ。出演芸人総チェックも
イラスト/まつもとりえこ

被害者の恋人の願いが被疑者の心を動かす


最終回で凛々子が、すっかりよき相棒となった事務官の相原(安田顕)と取り組んだのは、政治家の息子が起こした殺人事件。被疑者で衆院議員・中条良成(宅間伸)の息子である秀成(落合モトキ)は、仕事から帰宅中、料理人の入江(佐藤祐基)からいきなり殴りかかられ、思わず、相手の持っていた包丁で刺してしまったという。あくまで正当防衛だったという秀成の主張を裏づけるように、事件の目撃者として検察に出頭した加納(飯田基祐)という男も、先に手を出したのは入江だと証言した。

一方、被害者の入江は過去に傷害事件を起こしていたものの、勤務先の料理屋の主人(小野了)によれば、店ではすっかり更生して熱心に働いていたという。同じ店で働いている入江の恋人の笑子(岡本玲)も、彼はカッとなるような人ではなかったと凛々子たちに話した。
このあと、報道で事件を知った女性(小松彩夏)が、事件当夜、秀成にからまれたところを入江が助けてくれたと証言し、ますます秀成への疑惑は深まる。

ドラマの世界では、政治家の子供が事件を起こすと、警察や司法関係者に頼んでもみ消すというパターンがよく見られる。「正義のセ」でもやはり、息子を釈放させるため、父親自ら地検まで赴いて検察上層部に圧力をかけてきたりと、各方面から手を回してきた。しかし支部長の梅宮(寺脇康文)は、担当である凛々子を守るべく頑なに突っぱねる。まあベタな展開ではあるけれど、ここ最近でも、都合の悪い事実を隠そうとしてバレるという事例が政界など各方面であいついでいるだけに、現実味は十分だ。

ただ、被疑者が正当防衛を主張している以上、凛々子は捜査にはあくまで慎重だった。
秀成の通っていた高校近くで聞き込みをしたりと、最終回でも徹底的に調べて回る。すると、学校近くの食堂で、秀成は高校時代に同級生に対し傷害事件を起こしたものの、父がカネを払って事を収めたという話を聞く。このあと、凛々子たちはさらに情報を集め、秀成がいままで何度となく事件を起こしながら父の力で表沙汰にせずにきたことを把握した。だが、それを取調べで聞かれた彼はむきになって反論し、自分は事件に巻き込まれた被害者だと強調する。

この取調べ後、先輩検事の大塚(三浦翔平)から、目撃者がじつは政治家と利害関係にある人物だったとの情報がもたらされる。とはいえ、たとえ目撃証言がウソだとわかっても、事件の目撃者は誰もいなかったということになるだけで、被疑者の主張がウソだと証明することにはならない。
真実をあきらかにするにはもう、被疑者から自白をとるしかないが、そのために一体どうすればいいのか……。

そこへ笑子が凛々子を訪ねてくる。じつは笑子は殺された入江と結婚を約束していた。できることなら、彼がどうやって死んでいったのか知りたいと懇願され、凛々子は感じるものがあった。

再度の取調べで、凛々子は秀成に、笑子からの疑問をぶつける。そこでようやく自分のやったことの重大さに気づいた秀成は、入江が最期に笑子の名前をつぶやいていたことを打ち明けると、犯行にいたる経緯を自白した。
入江から注意されて逆上した彼は、思わず手にした包丁で相手を刺してしまったのだった。これまで彼はどんなに罪を犯しても父親が揉み消してくれ、被害者に対し償うことをしてこなかった。だが、今回ばかりは人の命を奪ってしまったのだ。もう父の手を借りることはできない。彼はそのことを思い知り泣き崩れた。

その後、凛々子と相原は中条議員と面会すると、息子が自白したことを知らせ、ついに観念させる。
さらにその足で、笑子にも会いに行き、入江の最期の言葉が彼女の名前であったことを伝えた。

想像をかきたてた凛々子と相原の今後


こうして事件を解決したものの、凛々子は今回も自分は事件に冷静に対処できず、ダメダメだったと涙ぐむ。そんな彼女に相原が「竹村検事は、検事って何だと思いますか?」と問いかけた。戸惑いながらも「法と証拠にもとづいて罰すべき者を罰する仕事」と教科書的な回答を述べる凛々子に対し、相原の答えは「人間です」というものだった。

「検事は感情的になるな、いつも冷静でいろと言っていながら、ロボットには検事は務まらない。人間的な感情をたっぷり持っていなけりゃ優秀な検事になれないんです」

そう相原が言うとおり、人間を裁けるのはやはり人間だけなのだろう。これまたドラマでありがちな結論ではあるけれど、でも、「正義のセ」はそこに説得力を持たせるだけの話をここまでしっかりと積み上げてきたように思う。
当の相原が、あれほど凛々子に感情的になるなと言っていたにもかかわらず、彼女とずっと行動をともにするうちに、いつのまにか取調べ中に涙を流すなど誰よりも人間臭くなっていたのだから。

それにしても、最終回の冒頭で結婚式場の前を通りかかった凛々子と相原を、式場の人がカップルと間違えて呼び止めたとき、相原がまんざらでもなさそうなそぶりを見せていたのは何だったのか。まあ、彼も既婚者とはいえ現在は独身だし、いまや凛々子のよき理解者という立場なので、いずれくっついてもけっしておかしくはないとは思うが……。凛々子の妹・温子(広瀬アリス)は、最後の最後で、彼氏の公一(渡部秀)と一緒に家業の豆腐屋を継ぐことをようやく父・浩市(生瀬勝久)から認められたが、凛々子本人の将来についてはあれこれ想像をふくらませるラストとなった。

出演した芸人で一番インパクトを残したのは誰?


最後にもう一つ、「正義のセ」で私がいつも楽しみにしていたのは、折に触れて登場したお笑い芸人たちだった。凛々子の同僚検事・徳永役でレギュラー出演していた塚地武雅(ドランクドラゴン)以外にも、第1話では豊本明長(東京03)が交番の警官役を、第2話の冒頭では小沢一敬(スピードワゴン)が凛々子の取調べを受けるチャラい被疑者を、それぞれ一場面だけとはいえ演じていた。さらに第5話では、被疑者のアリバイづくりに協力する、いかにも調子のいい営業マンを木下隆行(TKO)が好演。また、第8話で近藤春菜(ハリセンボン)演じる主婦が事件解決のキーパーソンとなったことはまだ記憶に新しい。

しかしそれ以上に私に強烈なインパクトを残したのは、第6話で大学職員役で出てきた渡辺江里子(阿佐ヶ谷姉妹)だ。捜査のため大学に赴いた凛々子たちに対し、丁寧に接しながらも、事件について興味を隠せない俗っぽさが、いかにも「こんな人いそう!」と思わせた。渡辺はすでに今年3月にはテレビ朝日の「科捜研の女」に出演し、その演技力が注目されていたが、今後もバラエティだけでなくドラマで見られるのを楽しみにしたい。
(近藤正高)

【作品データ】
「正義のセ」最終回
原作:阿川佐和子『正義のセ』シリーズ(角川文庫)
脚本:梅田みか
音楽:得田真裕
主題歌:「失敗学」福山雅治(アミューズ/ユニバーサルJ)
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデュース:加藤正俊、鈴木香織
演出:南雲聖一

日テレ無料TADA!にて最終回配信中(6月20日21時59分まで)
Huluにて配信中
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