清水翔太の作家性が今までにないほど高レベルで剥き出しになったアルバム『WHITE』/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

清水翔太/6月27日にアルバム『WHITE』をリリース


「My Boo」のヒットを機に以前よりも強く自我を打ち出し、新たなる覚醒をみせた濃密かつスタイリッシュな楽曲群でネクストステージを鮮やかに駆け上がってきた清水翔太が、1年ぶりとなるニューアルバム『WHITE』を完成させた。先行シングル「Friday」のリリース時に、本作について「実験的でありながら究極のカタチ」「自分のオリジナリティーの最終形態」と予告していたが、その言葉通り、本作ではワードセンスやサウンドメイクにおいて、清水翔太の作家性が今までにないほど高レベルで剥き出しになっている。
今後、清水翔太の歴史を振り返ったときに明らかに分水嶺となるだろう重要作。アルバムの隅々にまで込められた彼の思いにしっかりじっくり向き合うべき一枚だ。
(取材・文/猪又 孝)

この10年間ひたすら追い求めていたことが形になった

――『WHITE』は、翔太くんの歌詞にある叙情性と、生み出すサウンドの先進性、ルーツにあるR&B/ヒップホップ感が見事なバランスで共存したアルバムだと思いました。まずは仕上がりについての感想から教えてください。

翔太:メチャクチャいいものが出来たなと思ってます。この10年間ひたすら追い求めていた、自分の理想とする日本語の歌詞表現と、自分が作る音/メロディーをどちらも同じクオリティーでひとつの楽曲の中でやるということ……今まではどっちかがどっちかに引っ張られたり、歩み寄ったりしてたんですけど、それができた気がしてます。

――どちらも妥協することなく最高のカタチで作れた。

翔太:そうです。どうして両立できないんだろう?ってずっと悩みながらやってきたので。それが本当に納得いくカタチで解決していて嬉しい。

――以前、取材したときに「次のアルバムは難解なものになりそうだ」と話していましたが、その点についてはどう思っていますか?

翔太:自分の表現を突き詰めていった結果、ちょっと難解になっているような気がします。でも、それは音楽性という意味じゃなくて。
伝えたいことがどこまで伝わるかっていうことにおいて、ほぼ伝わらない気がしてる。

――たしかに説明的な歌詞ではないですよね。たとえばラブソングということはわかるけど、誰についての気持ちなんだろうとか、いつのことなんだろうとか、そういう説明はあまりしてない。

翔太:そう。でも、そういう歌詞に対して「ここはこういうことなのかもしれない」とか「ここでこう言っていて、ここでこう言うということは、時系列はこうかもしれない」とか想像して「だからこそ、これはいいよね。ずっと長く聞けるよね」っていうふうに思ってもらえるといいんだけど。

清水翔太の作家性が今までにないほど高レベルで剥き出しになったアルバム『WHITE』/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

――そうやって考察する楽しみ方も音楽にはありますからね。そうすると、その曲がより深く味わえたりするし。

翔太:そう、考察。僕はそれをあまりしてもらえなかったんですよね。ネットとかで「誰々の新曲の本当の意味とは?」みたいな解説記事を見るけど、すごくうらやましいんですよ(笑)。俺もそうしてもらいたいなって。


――じゃあ、今日は歌詞に込めた本当の意味を解き明かしていきましょうよ。

翔太:いや、解き明かしたくないの。それをリスナーにやってもらいたくて。それをすっごい楽しみにしてるんだけど、『PROUD』のときもなくて。ただ、ひとつ、Twitterでファンの方から「清水翔太さんの『PROUD』の全曲レビューを書きました」っていうリプが来て、「お!」と思って見に行ったんです。そしたらすごくて。かなり長いんですよ、1曲1曲のレビューが。

――細かく考察されていた。

翔太:もうハンパなくて。それが嬉しかったし、どれも結構いい線を突いていて、思わず「いいね」したんです。で、『FLY』を出したときに、「『FLY』も全曲するつもりです」ってことだったんだけど、4曲くらいで終わってたから、そこまで考察する深さに至ってないのか!と思って、それはそれで悔しかったんですけど(笑)。だから今回は、その人までいかなくても、みんなそれぞれに曲に向き合ってもらいたいんですよね。


――ということは、今作はリスナーに向けた謎解き挑戦状でもあるのかもしれませんね。

翔太:ですね。

――今回サウンド面ではどんなことを心がけていましたか?

翔太:今回は作品性を最優先に考えたんです。以前までは結構ライブを意識していて、その1年をどういうアーティストとして、どう過ごしていくかっていう感覚で作っていたんです。こういうのが今やりたい方向で、こういうライブをして……ということは、こういう曲を作って、っていう組み立て方だった。

――ライブからの逆算みたいな。

翔太:でも、今回はいったんそれをやめて、音楽作品としてずっと長く聞けるものを作ろうと意識しました。ただ、ライブのことを考えてなかったぶん、「よっしゃ、できた!」ってなった今、どういうライブにするか結構悩んでるんですけど(笑)。でも、作品としてはすごく好き。

清水翔太の作家性が今までにないほど高レベルで剥き出しになったアルバム『WHITE』/インタビュー1
撮影/キムラタカヒロ

――今回の制作から自宅レコーディングも始めたんですよね。

翔太:制作の後半に作った曲がそうです。クレジットで「Recorded by Shota Shimizu」となっているのがそれ(編注:「dance with me」「(I'm fine)」「踊り続けよう」「Range Rover」)。


――なぜ、自宅でボーカルをレコーディングをするようになったんですか?

翔太:スタジオだとどうしてもかしこまるから。そういうつもりがなくても、やっぱりかしこまっちゃって、トライすることがなくなるっていうか。

――人の気配や視線も気になるし。

翔太:そう。「今日はよくないから、ここで止めよう」と思って、とりあえず録れるところまで録って聞いてみても「やっぱ良くないな」みたいな。そうやってると時間もかかるし、リズムも狂う。スタジオでやってると、そのときはいちばん良いチョイスをしながら作業を進めているつもりでも、出来上がってみるとすごく納得がいかないんです。デモではもっといいグルーヴとかニュアンスが出てるのに、なんでこんな普通になっちゃうんだろう?と。で、もっともっと自分の空気感で自分の歌を録るには家しかないと思って。家だと録るタイミングも止めるタイミングも全部自分の好きなようにやれるから、やっぱりいちばんナチュラルな声が出るし、歌になる。

――いろんなヴォーカリゼーションや唱法も試せるでしょうしね。そのぶん歌に細かいニュアンスがつけられるようになる。


翔太:そういうことにトライしたくて。普段は出さない声とかやると、やっぱり時間とか回数がかかるんです。そういう、できるかどうかわからないことをスタジオで何十回もやるのは気を遣うし。だったら自分で納得いくまで自宅でやればいいと。

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