連続テレビ小説「半分、青い。」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第19週「泣きたい!」第113回 8月10日(金)放送より。 
脚本:北川悦吏子 演出:橋爪紳一朗
「半分、青い。」113話。鈴愛、家族の前で公開処刑される
「連続テレビ小説 半分、青い。 Part」 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版

NHKドラマ・ガイド 連続テレビ小説 半分、青い。
Part2


113話はこんな話


楡野家とボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)の前で、過去の夏虫駅でのプロポーズの件や今の鈴愛(永野芽郁)と律(佐藤健)の気持ちが明確にされる(公開処刑)。

実は知っていた


111話の視聴率が24.5% 、112話は23.7%と好調。視聴率が上がっているというニュースになると興味をもって見る人もいそうだ。そんなときに113話でこれまでの鈴愛と律の関係のふりかえりが入るのはとてもタイミングがいい。

頭に血が上って縁側からひっくり返ってしまった鈴愛を助けながら「鈴愛、いまの話ほんと?」と律が聞く。
律の鈴愛への話し方はいつも優しい(鈴愛には弦楽器のチェロのように聞こえている設定)。
でも、居間でみんなが見守っているなか、律は「鈴愛の気持ちに応えることはできない。僕は既婚者だからだ」ときっぱり。
既婚者なのだから仕方ない。

だがじつはすでに夏虫の真相は菜生(奈緒)から聞いていたと律は言う。
「半分、青い。」おなじみの、実は、実は、の後出し戦法については問わない。ここでは「夏虫」という駅のネーミングの秀逸さに注目したい。
あの日の出来事を思い出すたびリアルぽい駅名が出てくるよりも、「夏虫」でのできごと、みたいになったほうが叙情性は増すと思う。

なんでそのタイミングで・・・


律が真相を菜生から聞いたのは、より子(石橋静河)との結婚のあとだった。
「なんでそのタイミングで・・・」「わけわからん 電話」と鈴愛は菜生に対して物申したい様子。

これは物語によくある“届かなかった手紙パターン”。
例えば「ロミオとジュリエット」では、ジュリエットが伝令にロミオ宛に手紙を託す。そこに死んだふりする作戦について書いてあったが、それが届かなかったがために彼は彼女が死んでしまったと絶望して悲劇となってしまうのだ。
つまり、鈴愛は菜生を通して本音が律に通じることを願っていたが、残念ながら伝わらなかったということだろう。
あんなにふたりのことを思っていた世話好きの菜生がどうしてすぐに律に伝えなかったのか・・・なんか菜生が失敗しちゃった感じになってちょっとかわいそうな気もするので深追いはすまい。

劇中劇のような


律と鈴愛は楡野家とボクテとユーコの前で、夏虫の別れから、ともしびで鈴愛が「律を支えたい」と言った件までお互いの真実をあらいざらい語る。
「支えたい」は「友達として」言ったという鈴愛。

「なんかおれどきっとしちゃってさ」と律。
ようやく誤解が解けた形ではあるが、「こんな家族の前で公開処刑しなくていい」と鈴愛は困惑する。

縁側で行われる鈴愛と律のやりとりを、居間から楡野家とユーコ、ボクテが見ている形は、ふたりのお芝居をお客さんが見ているようで、まるで劇中劇。この感じはとてもおもしろかった。
晴(松雪泰子)や宇太郎(滝藤賢一)は、知らない間に娘と律にいろいろあったことを知る。
「断ったのか」と複雑な表情の晴の傍ら、滝藤賢一の一連の動きが父としてのもろもろな思いを雄弁に語っている。

「私の人生 波乱万丈や」なんてことも言って。
清野菜名も表情豊かに見ている。彼女のこの顔がその後、夜の食堂の場面に生きていく。

鈴愛はなんかやるよ


夜中、鈴愛とユーコは向かい合ってビールを飲む。
「ふたり(鈴愛と律)の関係はナチュラルで家族の前でオープンで」「まだ続いていて」「家族じゅうに見守られていて」とユーコは肯定的に語る。
ぎくしゃくしても運命的な幼馴染だから完全崩壊することなく、すぐにまた仲良くなれる。
ただあまりにも親密過ぎて、たとえ律が既婚でなくても、いまさら甘い関係になるのは難しそう。
この難しそうな感じが、居間でみんなに見守られているという喜劇仕立てによって緩和される。
このどうにもならなそうな感じがドラマの牽引力にもなっている。
昭和の名作を朝ドラでリメイクしたら視聴率で苦戦したすれちがいものの代名詞「君の名は」(91年)のリベンジ、いまこそ!という感じである。


社長になる


ユーコは現在、十代の頃の夢だった看護師を目指して看護学校に通い、実習でへこたれているところ。
鈴愛の強さに励まされ、「鈴愛はなんかやるよ」と予言。「鈴愛のパワーは 生きるチカラはすごい」と。
漫画家、主婦、看護師・・・と変わっていくユーコ。

漫画家、100円ショップ店員、主婦、シングルマザーと変わっていく鈴愛。
「(人は)何回だって生まれ変われると思う」「人生のなかで新しい自分が生まれていく」とユーコは素敵なメッセージを語る。

ユーコの言葉に影響されたか鈴愛は、ブッチャー(矢本悠馬)にうち(不動産屋)で働かないかと誘われると、
「ブッチャーに使われるくらいだったら物乞いになる」と拒否し、「私は人には使われん。社長をやる」と唐突に言い出した。

今日の気になる


カンちゃんは、パパ以外の人をママが好きだと言って感情を昂ぶらせていても困惑しないものだろうか。カンちゃんは“たぬき寝入り”をよくやるくらい賢いみたいなので、鈴愛と律の運命を悟ってしまっているのかもしれない。持つべきものはよくできた子。
(木俣冬)