ハンディキャップ系スリラーの新たな傑作は、「音を出したら即死」なサバイバルスリラー
おれが勝手にそう呼んでいるだけなのだが、最近ちょいちょい「ハンディキャップ系スリラー」と言えるような作品が公開されている。身体能力の一部を強制的に封じられた状態で怖いものに襲われる……みたいな映画、例えば不良少女が盲目の殺人ジジイに家の中で追い回される『ドント・ブリーズ』や、事故で聴覚を失った妊婦がヤバい女に家の中で追い回される『インサイド』のような作品である。このハンディキャップ系スリラー、登場人物の行動に強制的に制限がかかるのでハラハラ度が高い上に、映画自体の演出もヒネり甲斐があるせいかだいたいどれも面白い。『クワイエット・プレイス』も、このハンディキャップ系スリラーに連なる作品だ。
この『クワイエット・プレイス』のルールは、とにかく「音を立てたら即死する」というもの。
ストーリーの主軸となるのは、リーとエヴリンの夫婦と、その子供であるリーガンとマーカス。音を立てたら即死なので、彼らは常に裸足で歩き、手話を使ってコミュニケーションをとっている。しかし、エヴリンは妊娠しており、もうすでに臨月だ。
とにかく冒頭で「なんで音を出したら死ぬのか」というのがビシッと説明され、そこからの「妻が妊娠しております」という流れなので、見ているこっちはウッワ〜〜これ絶対大変なことになるやつやんけ〜〜とその時点でヒヤヒヤすることに。なんせ出産といえば母子ともに声を出さないわけにはいかない。しかし声を出したら即死である。これをどうやって解決し、生き延びるのか……というのが『クワイエット・プレイス』の大きな主題である。
没入しやすさと役者の演技が、突っ込みどころを突っ込ませない!
『クワイエット ・プレイス』は、実のところけっこう突っ込みどころが多い映画だ。家族が使っている電力はどうしてるのか(発電機ってけっこううるさいよね?)とか、そもそもこの状況で妊娠しちゃあかんでしょとか、裸足での足音や生活音はオッケーっぽいけど喋るのはダメっぽいという線引きがよくわからないとか、細かいところまであげていくとキリがない。
だが『クワイエット・プレイス』には、そんなヤボな突っ込みを「やかましいわい!」とブン殴って黙らせるようなパワーがある。そもそも「声が出たら即死」というルールは、我々観客にとっても非常にわかりやすい。しかも主人公一家は常に裸足である。例えばそんな状態で、タンスの角に小指でもぶつけたらどうなるか。
音を立てたら即死という状況で、あんなことやこんなことになったら絶対声が出ちゃうじゃん! という、誰もがすんなり想像できるトラブルが、これでもかと襲ってくる。もちろんスリラーなので、盛り上げ方もねっとりしていて意地が悪い。これぞハンディキャップ系スリラーの醍醐味である。
さらに言えば、役者の演技もいい。
というように、とにかく観客を無理やり黙らせて映画に没入させる腕力がすごい作品なので、ぜひレイトショーとかで観客が少ない状態の映画館で鑑賞することをオススメしたい。めちゃくちゃイヤで怖いけど、最後の方ではまんまと感動させられてしまうという、なかなか濃い体験ができるはずだ。
(しげる)
【作品データ】
「クワイエット ・プレイス」公式サイト
監督 ジョン・クラシンスキー
出演 ジョン・クラシンスキー エミリー・ブラント ミリセント・シモンズ ノア・ジュプ ほか
9月28日より全国ロードショー
STORY
荒廃した世界で、わずかに残った物資を頼りに生活する家族。少しでも音を立てると即死するため、あらゆる手段を講じて無音の生活を送るが、妻エヴリンは妊娠していた。果たして彼らは無事沈黙を貫いて生き延びることができるのか