分割第二期スタート! アニメ『ゴールデンカムイ』(→公式サイト)。第二期一話目は「十三話」という扱い。

「第十四話 まがいもの」は今日10月15日(月)23:00より、TOKYO MXほかで放送。オンライン配信はFOD独占配信中
「ゴールデンカムイ」人間剥製制作者は誰にも認められなかった寂しがり屋。第2クールスタート13話
二期スタート!一話目から変人だらけで安心の展開

●十三話「江渡貝くん」あらすじ


アイヌの村から奪われた埋蔵金を追う、杉元佐一、土方歳三、鶴見中尉の3勢力。
中でも狡猾に動く鶴見中尉は、金塊を軍資金にクーデターを起こし、軍事政権を作るという野望の持ち主。
彼が目をつけたのは、夕張に住む江渡貝弥作。剥製所を営む青年で、製作環境にぴったりの気候を求めて北海道に引っ越してきたらしい。
実際は、人間の剥製作りに夢中になったため、炭鉱事故が起こりやすい夕張で墓荒らしをしていた。

彼の一流の人皮処理技術を見初めた鶴見は、金塊の在り処のヒントになっている人皮の偽物を作るよう、彼に依頼する。

●江渡貝くんとエド・ゲイン


人間剥製で思い出されるのが、殺人鬼エド・ゲイン。直接的なつながりは明言されていないが、共通点を探ると江渡貝のキャラクター性が見えてくる。

二次大戦後の20世紀中盤、15人の女性の死体を解体して、その身体の皮を使って家具、食器、衣装を作ったエド・ゲイン。実際に殺害したのは2人で、残りは墓場から掘り返してきたもの、らしい(諸説ある)。
この事件は世界中を驚かせると同時に、その猟奇性が怪物ゴシップ的に大人気。映画などの他、人皮ファッションはアート的にモチーフにされることも多々。


今回の「ゴールデンカムイ」で登場する江渡貝のファッションショーは、グロテスク感はほとんど無く、極端にコミカルなものになっている。
作品全編に渡って出てくる「人皮」は、シリアスシーン以外では茶化すことが多い。その象徴のようなシーン。
特に人皮をキャットウォークする江渡貝は、あまりにもアニメーションがぬるぬると動きすぎていて、ギャグでしかない。そういうところに力入れる姿勢、スタッフを信用できる。
なお江渡貝が偽物人皮を作っている最中に身にまとっている、乳首だけを長くつなげたベルトは、エド・ゲインが実際に製作している。


●受け入れ信じてくれる人


江渡貝が苦しみながら育った様子は、エド・ゲインがねじれた成長を送ってしまったのとかなり似ている。
母親のオーガスタを絶対的な存在として崇めていたエド・ゲイン。
彼女は極端に厳しい教育で、性への嫌悪感を息子に植え付けていたらしい。
その影響からエド・ゲインは、去勢願望を抱いたり、女性の皮膚を身にまとったりしたと言われている。
死体漁りは性的な欲求ではなく、母親のような中年女性を探すのが目的だったようだ。
「ゴールデンカムイ」人間剥製制作者は誰にも認められなかった寂しがり屋。第2クールスタート13話
ハロルド・シェクターのドキュメンタリー「オリジナル・サイコ 異常殺人者エド・ゲインの素顔」

一方江渡貝は剥製化した母親の幻聴に常に苦しめられており、絶対的存在として従い続けている。
母親の幻聴「お父さんは他の男と同じ悪い男、あなたを愛する人間はいないわ! あなたを去勢したのもお父さんに似てきたからよ!」
さらっと流されるシーンだが、勝手に息子を去勢するほど、母親が暴君だったのがわかるセリフ。
それでも信じていた江渡貝の抑圧がここだけで見えてくる。

鶴見中尉は彼の心理を見抜いて、江渡貝に刺青人皮を見せて、自分が彼と同じ人種であるように見せかけた。
一発で江渡貝と鶴見が通じ合うシーンは、やたら乙女チックな演出で笑えるのだが、江渡貝からするとこれは魂の救いだ。
鶴見「いいねぇ!時代の最先端だよ江渡貝くん!」
鶴見中尉のセリフが、江渡貝を釣るためのテクニックなのかどうかはわからない。
ただ、今まで母親の圧力に従っていた江渡貝が、初めて褒められ認められたのはあまりにも大きい。
彼が鶴見の勧めで母親の剥製に向かって、自ら引き金を引けたのは、呪縛から解放する儀式だ。

鶴見「巣立たなきゃいけない。巣が歪んでいるから君は歪んで大きくなった」
どういう意図の発言かは定かではないが、苦しみ続けていた江渡貝を幸福にしたのは、間違いなく鶴見中尉。

私利私欲や大義のために、なんでも利用する人間が跳梁跋扈するこの作品。
中でも鶴見中尉のカリスマ性は、作品を通じて不可思議なものとして描かれている。彼が残虐な人間なのは間違いない。けれども、時折素で優しいように見える瞬間もあるから厄介。
どうも江渡貝への態度は、100%作戦には見えない。
江渡貝と鶴見中尉の関係は、エド・ゲインの側に「理由はともあれ受け入れる」人間がいたら救いはあったのか、というIF的な展開にも思える。

●夕張と剥製


ちなみに、夕張と剥製で思い出されるのは「知られざる世界の動物館」
1980年代に建てられたもので、かなりの数の剥製が展示されていた建築物。自然の景色風のジオラマを上から眺めることができるくらい大きなもので、小中学生の見学定番ルート。
ただ、室内は剥製がぎっしりと数多く並んでいるため圧迫感があり、薄暗さゆえに恐怖感のほうが強かった印象がある。
2006年に破綻して閉館。展示されていたうちの641体が国立科学博物館に無償で寄贈された。その理由の1つが、「種の保存法」で一般での売買ができない剥製が70体あったから(参考記事・四国新聞社)。今は建物も解体され、存在しない。

「ゴールデンカムイ」夕張編はこの後、炭鉱が舞台になっていく。
2018年4月にリニューアルオープンされた夕張市石炭博物館は、網走刑務所と同じくらいに楽しめる資料性と愉快さ(模擬炭鉱内の怪しさは見所満点)になっているので「ゴールデンカムイ」ファンにはオススメのポイント。

鶴見・江渡貝の人皮騒ぎの一方で、杉元たちがフキやサクラマスを食ってキャッキャウフフしているギャップが、実に「ゴールデンカムイ」安心のごった煮感、二期も安心して見られそうな構成だ。
もうひとりの主人公ともいえる谷垣は、アイヌの少年チカパシに邂逅。日本語の意味で「勃起」。マタギの先輩だった二瓶鉄造の魂が思い出される。
谷垣の「本当にいい名前を貰ったな、チカパシ。いい名前だ、勃起」というセリフの、腰の抜ける文字面と、情熱的な人間性のギャップもまた、実に「ゴールデンカムイ」。

ところで、親分と姫の話はカットなんですかね…?

(たまごまご)