通子「料理屋をやります。私が、新しい『花ずみ』を始めます」

11月17日(土)放送の、土曜ナイトドラマあなたには渡さない(テレビ朝日系)第2話。


料亭「花ずみ」の板長・旬平(萩原聖人)の妻で専業主婦の通子(木村佳乃)の前に、旬平の愛人・多衣(水野美紀)が現れた1話。多衣は「ご主人をいただきにまいりました」と言い離婚届を通子に渡したが、旬平はそれを「偽装離婚」だと説明する。離婚を決意した通子は多衣のいる金沢に赴き、倒産する「花ずみ」を再建するため、旬平との婚姻届を担保に6,000万円を貸してほしいと多衣に頼んだ。

1話では、こんなあらすじでは説明できないほど衝撃的なことが起こりまくった(1話レビュー記事)。しかし、2話冒頭のナレーションが駆け足ながらもものすごく簡潔に1話の内容をまとめていて「わ、わかりやすい……」と思わず声が出るほどだった。未視聴の方は、ぜひ聞いてみてほしい。

戦慄「あなたには渡さない」不倫現場の派手な布団に本妻を誘導する愛人、攻防そして女たちの奇妙な連帯2話
イラスト/まつもとりえこ

憎しみ合わなくても良かったはずの女たち


多衣「ご主人を金で売ろうとおっしゃるの?」
通子「まさか。旬平を売る気なんて毛頭ありません。離婚はあくまでも借金のための偽装ですから、本当に別れるわけではありません。
ただ、その婚姻届を担保に6,000万円お借りしたいだけです。安いものでしょう? だってあなた、前に一億払ってでも旬平を手に入れたいとおっしゃっていましたもんね」

通子、強い。多衣は一億払ってでも旬平を手に入れたいと言っていたのに、なぜ6,000万円にディスカウントしたのか。それは、「花ずみ」を再建するのにその金額で十分という理由もあるだろうが、ディスカウントすることで多衣を挑発して断りにくくするという狙いもあったように聞こえた。


一度は断ろうとした多衣。しかし、「私が新しい『花ずみ』を始めます」と言う通子に賭けてみたいと思い直し、6,000万円を用意することにした。その金はおそらく、通子がこどもの頃から慕っていた建設会社社長・笠井(田中哲司)から多衣が借りたもの。多衣と笠井の関係は、まだ明かされない。

多衣に会った晩、通子は多衣の紹介で彼女のなじみの旅館に泊まることになった。部屋で通子が一息ついていると、多衣から電話が。


多衣「お気づきになりました? その部屋。お気づきになっているのね。そう、そこ、私と旬平さんがいつも泊まっていた部屋です」

いや、そうだろうと思ったけど怖いよ! 旬平との最初の夜について通子に話した「お銚子の九谷焼に似た、派手なお布団でした。そのお布団の中で、お互いの温もりを分け合ったときの、幸せだったこと」という1話の台詞も怖かったけど、輪をかけて怖い。多衣は、自分と旬平の関係について目をそらそうとする通子に、それを見せつけたかったのだという。

自分の配偶者と浮気相手が寝た布団で眠っていた経験があるが、毎日吐き気で起きノイローゼになるほど気持ち悪いものだった。
伝えちゃう多衣もぶっ飛んでいるが、嘘か本当かそこでよく眠れたというのだから、やはり通子の肝の据わりようはすごい。さらに、通子はこう言う。

通子「私、なんだかさっきあの旅館で、女二人が憎み合いながらも裸で抱き合ったような不思議な気持ちがして。でも、そうだとしても私、あなたと手は握りませんから」
多衣「わかります、私も似たような気持ちだから。手はお貸ししますけど、決して握りません」

そうなのだ。通子と多衣は旬平を奪い合っているように見えて、実はあまり旬平自身についての話はしていない。
専業主婦だった通子と、夫がなくやり手の社長である多衣。二人は、旬平本人というよりも、自分が持っているもの・自分が持っていないものの概念としての旬平、そして「花ずみ」を賭けて対峙している。そして、その点で二人はお互いを認め合い、シンパシーをも感じている。

数日前、11月21日(水)放送のドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系)でも、新垣結衣が演じる主人公が、恋人(田中圭)の元恋人(黒木華)と「私たちは似ている」と話をするシーンがあった。いまはまだ恋人を介して対立しているが、主人公と元恋人は境遇や恋人への思いの持ち方が似通っているのだという。

男を介さなければ憎み合うことがなかった女二人が、奇しくも男を介すことで対立し、しかし結果的にシスターフッドを手に入れる。
あるいは、手に入れられたら良かったと振り返る。そんな経験は筆者にも多々あるし、実は多くの女性がどこかで経験しているのではないかとも思っている。2話にして、通子と多衣はそれをはっきりと言葉にした。ドラマの結末を予感させる台詞だった。

言葉を発せずとも伝わる木村佳乃のめちゃくちゃな感情


通子の希望通り、新生・割烹「花ずみ」は3日間の無料キャンペーン期間を経て無事オープンした。
開店準備をしているとき、通子に料理を褒められた旬平の笑顔の可愛らしいことといったら。多衣の前では、まだこんな笑顔を見せたことはない。やはり夫にとっては、妻に仕事を認めてもらえるのが嬉しいのかもしれない。

旬平が「一日に一組だけでいい。予約をとって、ちゃんとした懐石料理を出したい」と言うと、通子が嬉しそうに承諾。さらに、その中の一品を小料理として品書きに入れる提案までする。その幸せそうなやり取りに、先代の女将や旬平が通子をのけ者にせず、もっと早く店に参加させてあげていれば……という「たられば」を考えずにいられない。

旬平の前に「花ずみ」で板長をしていた前田(柴俊夫)や、財布をなくしたという謎の老人・六扇(横内正)。今後も通子や旬平に関わってきそうな癖の強い客が訪れつつ、店は順調に売り上げを伸ばした。その後、多衣へ200万円の返済ができていたからすごい(現実に可能なのか?)。

通子は、金の返済のために多衣の東京の事務所を訪問した。多衣と談笑していると、「ただいま」と旬平が事務所に帰ってくる。多衣とは会ってないって言ってたくせに……! そういうところだよ! しかも、仏頂面の下はペアルックのスウェットで……。

通子の表情から、旬平を見て一瞬で鳥肌が立ち、心臓が凍りつき、そして次の瞬間には怒りと失望で全身の血が湧きたつようなめちゃくちゃな感情のプロセスがあったことが読み取れた。中年が浮かれているのって見ているだけなら可愛らしさもあるけど、こうして悪意とともにぶつけられたら大変だろうな。

多衣に6,000万円を借りたとき、婚姻届ではなく、通子自身と姑・キクが遺した菊の刺繍の帯を担保に出した通子。店を繁盛させ続け、自分の人生を守れるか。新たな愛人が登場する3話は、今夜放送。

(むらたえりか)

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土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない(テレビ朝日系)
2018年11月10日(土)より 毎週土曜23時15分から
原作 連城三紀彦「隠れ菊」(集英社文庫刊)
出演 木村佳乃、水野美紀、田中哲司、萩原聖人、青柳翔、井本彩花、山本直寛、荻野目慶子
ナレーション 菅原正志
脚本 龍居由佳里、福田卓郎
音楽 沢田完
主題歌 chay feat.Crystal Kay「あなたの知らない私たち」(ワーナーミュージック・ジャパン)
オープニングテーマ FAKY「Last Petal」(rhythm zone)
ゼネラルプロデューサー 黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー 川島誠史(テレビ朝日)、清水真由美(MMJ)
演出 植田尚、Yuki Saito
制作 テレビ朝日、MMJ