昨晩、12月14日に『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)の最終話が放送された。

姿を消す形での大恋愛を望んだ尚


間宮真司(ムロツヨシ)の前から尚(戸田恵梨香)が姿を消した。

かつて、真司も尚の前から姿を消したことがある。
真司を探す尚を諭したのは木村明男(富澤たけし)だった。
木村 ほっといてやれよ。縁がありゃ、また会えるって。
 嫌です、縁があればなんて!

今度は、真司が尚の不在に耐えられなくなっている。
木村 何が何でも探し出したいってのは、お前の自己満足だろうよ?
真司 そうですね。それはわかってるんですけども……寂しいんですよ!

8ヶ月後、尚の消息が見つかった。
海辺にある「朝倉診療所」に身を寄せていたのだ。医師の朝倉(岡本信人)は、尚が持っていたバッグを真司に差し出した。
「自分が何もわからなくなった後、もし家族が探し当ててきたら渡してほしいと言われていました」(朝倉)

バッグの中にあるビデオカメラには、真司に宛てたメッセージが収まっていた。
「短編小説集、読んだよ。ちょっと時間掛かっちゃったけど……面白かった」
「最近、なんだか、真司のことを思い出せる時間が短くなってきた気がします」
「カメラの使い方がわからなくなっちゃって、付き添いの人に撮ってもらってます。でも……真司がこれを観る時には、私はもう、真司のことがわからなくなっちゃってるんだろうなあ」
「真司。
……好きだよ」
「私……私ね、真司に会いたいな」

動画の尚は、日に日に病が進行している。新しい記憶から消えていくのがアルツハイマーという病気。息子・恵一へのメッセージが無いということは、すでに恵一の記憶は消えていたかもしれない。「思い出せる時間が短くなってきた」という告白から、真司の記憶さえ断片的なこともわかる。
ビデオメッセージを観進めていくと、遂に画面上には「ファイルは以上です」との表示が。これは、尚が真司を忘れてしまったことを示す知らせだ。


苦悩や葛藤を夫婦で乗り越える、そんな大恋愛も見てみたかった。しかし、それを望まなかったのは尚本人である。偶然目にした松尾公平(小池徹平)の姿に、真司は衝撃を受けた。今の公平は、目を背けたくなるような病気の生々しさそのものだ。尚は、真司の前でだけは綺麗なままでいたかった。
「お前にも息子にもこれ以上衰えていく自分を見せたくないって、カミさんの気持ちだよ。
イキイキとした明るい姿だけ残しておきたかった。だから、姿を消そうって思ったんだろ」(木村)

真司には尚を支える覚悟があったが、尚は衰えゆく姿を見せたくなかった。煙突が見える場所に新たな居場所を求め、バッグの中は真司が書いた小説ばかり。お互い、大恋愛を続けていた。

尚が失くした記憶を読み聞かせる真司


真司は自分の記憶を失った尚と話す決意をした。

真司 はじめまして。ちょっといいですか?
 (戸惑い、うなずく)

もう本を読めなくなった尚に小説を読み聞かせる真司。
彼が手に取ったのは、初版を入手するほど尚が愛した『砂にまみれたアンジェリカ』ではなく、『脳みそとアップルパイ』だ。意味なく本を読んでいるのではない。『脳みそと〜』は、尚との恋を描いた私小説。尚が耳にしているのは、失くしてしまった記憶そのものである。

「『もうこのくらいかな?』と思って顔を離すと、彼女は俺を見つめたまま『アッチ行こ?』とベッドを指差した。もう1ヶ月近くシーツも枕カバーも替えていないベッドに行くのは躊躇されたが、他に行くところももはやなかった」

ベッドのくだりを聞いた尚は声を上げて笑った。
実は、真司と離れ沈んでいた頃の尚も同じ箇所で笑顔を取り戻している。
「ハハハ、素敵。私もそんな恋してみたいなあ〜」
自分の過去の恋愛に焦がれる尚。憧れを抱くほど、真司との恋愛は幸せだったということ。

後日、真司は『もう一度、第一章から』を尚に読み聞かせた。
「店内を忙しそうに走り回っていた店長と女の店員が、奥の方で何か話し始めた。僕らの席からは2人の声は聴こえない。すると、妻が彼らの口の動きに合わせて語り始めた。『ごめんね、面倒な病気になっちゃって』。僕は驚いて妻を見た。妻は構わず続けて語った。『全然。全然、平気』、『迷惑掛けると思うけど……」

アルツハイマーは病状が進行しても、稀に記憶を取り戻す瞬間が訪れるという。

「『一生懸命生きるから、よろしくお願いします』。真司、続き聞かせて?」(尚)

元気だった頃の声、元気だった頃の笑顔。真司のことを記憶している尚がそこにいた。尚は、宣言通りに一生懸命生きている。だから思い出し、言葉にすることができた。

彼女は『もう一度〜』の文章を聞き、微笑んだ。
「やっぱり、真司は才能あるね。すごい」
最終回「大恋愛」「一生懸命生きるから、よろしくお願いします」戸田恵梨香とムロツヨシは最後まで大恋愛
イラスト/Morimori no moRi

最後まで大恋愛だった


一年後、尚は肺炎でこの世を去った。仏壇の遺影に写るのは、結婚式の時の尚。「このまま死んでしまいたいくらい幸せです」と口にするほどの瞬間である。彼女が一番残しておきたかった笑顔。真司の前で、尚は綺麗な姿のままでいた。

出来上がった新刊『大恋愛〜僕を忘れる君と』を、真司は仏壇の尚に見せた。
「尚ちゃんのことはこれで終わり。もう、書かないよ。これからは、作家として新しい世界に挑戦するから。見ててね!」
「真司に私のこと書いてもらうのは私の生きがい」と誇りにしていた尚。尚との恋愛を書いて成功を収めた真司。この道から決別し、真司は新たな挑戦に臨む。真司の才能を認める尚ならば、夫の決断を喜んでいるはずだ。

正直、当初はドラマのタイトルにこっ恥ずかしさを感じていた。でも、やっぱり「大恋愛」だった。恋人同士の恋愛感情だけでなく、夫婦の絆を描く意味合いがこの3文字には含まれている。真司の挑戦を後押しする尚との大恋愛、最後まで見届けることができた。
(寺西ジャジューカ)

金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
※各話、放送後にParaviにて配信