TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)。第8話(12月2日放送)では、岡山での農業イベント「アグリジャパン」で無人農業ロボット(トラクター)の対決が行なわれ、帝国重工のアルファ1が、下町の中小企業連合によるダーウィンに大敗を喫した。
ばかでかい図体のアルファ1が、停車位置で止まらず、そのまま暴走したあげく転倒するさまは、帝国重工の名に大きなダメージを与え、プロジェクトの総責任者である的場(神田正輝)とその腹心の奥沢(福澤朗)は面目を失う。

責任逃れする的場・奥沢を藤間社長が一喝


先週放送の第9話では、この責任をめぐり騒動が持ち上がる。佃製作所社長の佃航平(阿部寛)が、ネット上に大量にあがったアルファ1が転倒する動画を見たかぎり、帝国重工製のトランスミッションに問題があったのではないかと思われた。だが、的場たちは自分たちの責任を一切認めず、原因は北海道農業大学教授の野木(森崎博之)の開発した無人走行制御システムにあると主張する(それ以前に、計画書を勝手に書き換えて、本来は小・中型にする予定だったトラクターを大型化してしまった的場たちの責任は……?)。
「下町ロケット」神田正輝・福澤朗の責任逃れを杉良太郎が一喝!阿部寛と土屋太鳳の親子対決も9話
イラスト/まつもとりえこ

そんな彼らに反旗を翻したのが、財前(吉川晃司)だ。財前は信頼する佃製作所に、無人走行制御システムのテストを委託するよう的場たちに進言する。当然ながら的場と奥沢は頑なに拒否するが、そこへ社長の藤間(杉良太郎)が現れた。
藤間から責任を追及された奥沢は、「テストでうちのトランスミッションに問題が見つかったらどうするのか」とうっかり漏らしてしまい墓穴を掘る。これに対し藤間は一喝、プロジェクトを自ら与ることになり、財前の申し出どおり佃たちにテストを任せるよう指示した。

テストは佃製作所が開発した小型トラクターで実施された。佃のほか技術開発部の面々は、トラクターに対しまるで我が子であるかのように声援を送りながら、その動きを見守る。結果、無人走行制御システムには問題がないことが証明された。このとき、いつもは斜に構えた軽部(徳重聡)が、同僚の立花(竹内涼真)や加納(朝倉あき)らとともに拳を振り上げながらトラクターを追いかけていたのが、ほほえましかった。


テストの成功をきっかけに、佃は財前からプロジェクトへの協力を求められる。そもそも佃製作所は当初、このプロジェクトに参加するはずだったのが、的場によってはしごを外されていた。そんな経緯がある上、無人トラクターを取り巻く状況もプロジェクトが立ち上がったときとはまったく変わっていた。技術開発部長の山崎(安田顕)が佃に釘を刺したように、ダーウィンの後塵を拝する帝国重に協力するのはリスクがともなう上、これまでのテストとは違い、失敗は許されない。佃は大きな選択を迫られ、悩むことになる。

父娘によるバルブシステム対決の結果は?


無人トラクターと並行して、佃製作所では、帝国重工のロケットのため新たなバルブシステムの開発が進められていた。
一方で、帝国重工もバルブシステムの内製化をめざしており、性能テストの結果しだいでは、佃は帝国重工への供給を打ち切らねばならない。帝国重工のバルブシステム開発には、佃の一人娘の利菜(土屋太鳳)も携わっており、思いがけず父子で対決することになった。

考えてみると、「下町ロケット」には、父と子の関係というテーマがいつもどこかに隠れている。そもそも佃も、ダーウィンプロジェクトの重田(古舘伊知郎)と伊丹(尾上菊之助)も、父親から町工場を受け継いだ。重田にいたっては父の工場が、的場の下請け切りによって倒産に追いこまれたがために、帝国重工へ復讐を誓うことになる。一方で、的場が出世のためにはどんな手でも使う人間になったのも、第9話で明かされていたように、官僚でエリート意識の強い父親を見返してやりたいという一心からだった。
さらに佃製作所の元経理部長の殿村(立川談春)も、かつては郷里の新潟の父(山本學)に反発していたが、父が倒れたのを機に退職して家業の米作りを継ぎ、父と心を通わせるようになった。

そこへ来て今回、佃と利菜の関係にスポットが当たった。仕事で争う関係になった二人は、家に一緒にいるとどうも落ち着かない。そんなある夜、利菜が祖母・和枝(倍賞美津子)のラジカセの調子が悪いので修理していたところ、佃が帰宅する。彼が代わって手際よく修理するのを見ながら利菜は、子供のころ、どんな機械でも直してしまうパパは魔法が使えると思っていたと打ち明ける。だが、大人になってから、パパは仕事でこういうことをしていたのだとわかったという。
そんな彼女は、開発に打ち込むうち、佃を父ではなく純粋に技術者の先輩として見るようになっていた。

結果からいえば、帝国重工が完成させたバルブシステムはそれなりの性能に達したものの、佃製作所はさらにそれを上回るものを開発し、勝利を収める。利菜はさすがにめげるが、その後、父と離婚した母・沙耶(真矢ミキ)と会った際、佃がいい技術者になれたのは、他人の何倍も何十倍も失敗をしてきたからだと教えられる。

勝負を終えて、利菜はあらためて父の技術に感服したと伝えた。それに対し佃は「やりたいことやりゃいいんだ。自分の物差し、他人の物差し、それぞれ長さは違う。
おまえが信じる道をいけばいいんだ。そうすればおまえならきっと幸せになれる。俺はそう信じてるから。一歩、一歩、ゆっくり進めばいい。焦らず」と励ますのだが、その言葉は彼がまるで自分に言い聞かせるようでもあった。利菜はそれを見透かしてか、「パパもだね」と返す。「次は無人農業ロボットなんでしょ」と。同じ技術者としてライバルとなった娘からの後押しもあり、佃はいよいよ無人農業ロボット開発競争への参戦を決意する。ドラマは今夜放送の第10話が最終回前の一話となる。ここまでずっと優位に立ってきたダーウィンプロジェクトに対し、反撃が開始されることを期待したい。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ヤタガラス』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎、吉田真侑子、神田優
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERA(リベラ)「ヘッドライト・テールライト」
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS