アニメ『BANANA FISH』(→公式サイト)。
最終回「第24話 ライ麦畑でつかまえて」が今日12月20日(木)25:05より、フジテレビ”ノイタミナ”ほかで放送。
ノイタミナとしては異例の10分拡大放送。
Amazon Prime Videoで毎話フジテレビ放送開始1時間後より配信予定。
今夜最終回「バナナフィッシュ」だれかを愛している人はみんな強いんだよ
Febri Vol.51表紙。取り乱すアッシュの姿の哀しさ

色々な愛のかたち


アッシュ「英二すまない、そばにいてやれなくて……お願いだ、あいつを連れていかないでください……神様……俺を代わりに……」
大きな窓ガラスの前で泣き崩れる逆光のシーンは、宗教画のようだった。人間が何もかもを脱ぎ捨て神に祈る、演出と演技は、純粋な少年アッシュの描写の集大成だ。

その前のパートまで、アッシュは散々な言われようだった。
ブランカ「いつかこうなると分かっていてなぜ彼をそばに置いた? 守り通すこともできんくせに。ただ自分の孤独を埋めたくて、そばに置いたんだろう」
正論だ。
これには何も言い返せず、ブランカにやけくそ気味に銃を撃っている。
ここでブランカが微動だにしていないのに、(百発百中のはずの)アッシュの弾丸が一発も当たらないのが、2人の師弟の関係性なんだろう。

ラオ「こいつにとっちゃ、あの日本人以外人間じゃねえんだよ! 何でそんなことが分からねえんだ」
ひどい煽りだが、全てが間違いというわけではない。別に周囲の人を人間じゃないとは思っていないが、エイジが最優先なのは事実だ。

ラオは「お前らの目は節穴か?」と周囲の人間を煽るが、アッシュがエイジを優先するのはさすがに見ていてわかるはずだし、少なくともケインやシンはよく理解している。その上で、アッシュについていっているのだ。

冷静沈着でカリスマがあると同時に、彼は人を愛することを知って、その強さを増した。

ブランカ「あいつは憎んで覇者となるよりも、愛して滅びる道を選んだんです。愛さなければ愛してもらうこともまたできません。アッシュは、あいつは少なくとも愛することを知っています」
ブランカが月龍をたしなめる際のこの言葉は、「バナナフィッシュ」という作品に出てくる人間たちが生きる根底を表現している。

アッシュはエイジを、エイジはアッシュを、かけがえのない唯一無二の特別な存在として愛した。
ショーターとアッシュも、強い友愛関係にあり、どんなときでも信頼しあっていた。

ブランカはかつて愛した妻を失い、苦しんでいた。今は必死に戦う弟子のアッシュの幸せを願っている。
マックスは苦しみ続けるアッシュを、身を捨ててでも救ってやりたいと願い、行動してきた。また妻のジェシカと2人で、子供を愛し、家族を守ろうとあがき続けている。
シンは死んだショーターのことを家族のように慕っていた。今は仲間である中国人の同胞を愛し守りたいと葛藤している。

ラオはそんなシンを愛し、彼がボスであってほしいと必死だ。
オーサーがひたすらにアッシュのことだけ敵視し執着していたのも、いびつな愛だった。
そしてディノは、アッシュを虐待しながらも溺愛し、世界で一つの芸術品として、私財の全てを投げ売ってまでして、欲し続けている。

「バナナフィッシュ」で描かれる愛は、ここからここまでという線引がない。命名できない関係も多い。
ぶっちゃけどんな形でもいいのだ。
愛を知っている人は強いし、他の人からも愛される。

一方、怨恨と嫉妬だけで生きてきた月龍は、全ての黒幕のごとく動いていたのに、今やブランカという用心棒も失い、すっからかん状態。
彼は愛を知らない。だから以前、アッシュがエイジのために何もかも捨てようとした時、彼の感情を理解できなかった。ブランカをお金で雇ってOKが出た時、幼子のように喜んだところからも、孤独だった彼の人生が見えてくる。
ブランカ「あなたを気に掛け 愛してくれる者がきっといます」

では人への感情をすべて失ったら?というのが、フォックスというキャラなんだろう。

月龍はフォックスのようになるか、アッシュやシンのようになるかの、真ん中で揺れている。

中間管理職シン


先週今週と、Twitterなどでのシンの人気がみるみる高くなっている。彼には共感できるところが、ものすごく多い。
・彼はアッシュの人間性を認め、ダウンタウンをまとめるリーダーになってほしいとリスペクトしている。
・ところがアッシュは、彼の親友であり、シンの兄貴分であり、チャイニーズギャングのボスだったショーターを殺してしまった。「同胞が殺された」という事実として残ってしまう。
・同胞たちは「許せない」と憤るが、アッシュがショーターを撃った理由をシンは知っており、言うことができない。
・エイジを撃ったのは中国人の仲間。裏切り者だ。
・アッシュはエイジを撃った中国人を、惨殺している。
この全部の同胞問題を、シンが背負うことになった。重すぎるにもほどがある。

実はこれら全ての話は、シンが選択してきたものではない。周りが様々なしがらみで動いてしまった結果だ。
シンは中間管理職だ。部下からも、他のグループからも、アッシュからも板挟みにあって、責任を問われている。
その結果の選択として、問題が片付いたらアッシュと一騎打ちをする、という選択をするシン。不本意でしかないが、それが彼の責任のとり方だ。
シン「ほんとに……ボスになんかなるんじゃなかったな……」

彼はその後に、さらに重たいものを抱えることになるが、それはまた別の話。

今夜の最終回は、10分延長の特別版。
原作のいい部分をチョイスしながら、アッシュの幼く傷だらけなところや、エイジのあらゆる人に愛される包容力などを強めに描いてきた。
アクションシーンはしっかりおさえ、初見でも満足できるエンタメ作品として頑張ってきたと思う。
既読者は歯がゆいところはどうしてもあるかもしれないが、有名すぎる作品を臆さずきっちり読み解いて表現しようという意思があって、好感が持てた。

なにより、アニメ放映中に亡くなったディノ役の石塚運昇氏の声を、差し替えなしで最後まで収録していたことには驚いた。
最後の最後まで、スタッフを信頼して待機したい!


(たまごまご)