米倉利紀 一つの恋が終わったことで壊れた心の再生に寄り添ったのは“アナログ”だった/インタビュー後編

 
米倉利紀 一つの恋が終わったことで壊れた心の再生に寄り添ったのは“アナログ”だった/インタビュー後編

――【米倉利紀】インタビュー前編より

キツかったけれども得るものも多い制作だった

──立ち入ったことですけれど、それが初めての失恋ではないでしょうから、それだけ大きな失恋だったのでしょうね。

米倉:そうですね。今回の恋愛は「なんかこの人とはずっと一緒にいるんだろうな。ずっといたいんだろうな」っていう想いがすごく深かったんですよね。それが崩壊してしまったので、心にボーンと大きく穴があいてしまったし、穴を埋めるのにも時間がかかったんだと思うんです。でももっと言うと、どういう恋愛でも、あいた穴は一生埋まらないんだろうなって思います。すごく変な表現かもしれないですけど、恋愛ごとに心があるような気もするんですよね。

──一つの恋愛に一つの心、ということですか。

米倉:たぶん。恋愛が終わったからといって、その人との思い出は消去できないじゃないですか。ふとしたときに思い出したりするし。そこが人間の心のアナログなところだと思うんです。「この人との恋は終わり」って一切合切の思い出を箱詰めしても、その箱詰めされた気持ちは残るっていう。だから一つの恋愛に一つの心、みたいな。

──そう考えたことはなかったですけど、たしかに一つずつ箱詰めされている感じはありますね。

米倉:今回ね、友達が「終わった恋愛の思い出は、違う記憶に塗り替えたほうがいい。心の穴は埋めたほうがいい」って言うので、思い出の場所ひとつひとつに行ってみたんです。でもね、一個も穴は埋まらなかったし、今も埋まってないです。ただ、その場所に新しい思い出ができると、場所の印象は違ってくるんですね。なんか、それでいいと思いました。きっとその人との思い出は一生消えないアナログな心のまま置いておけばいい、そしてまた新しい自分を始めればいいって。

米倉利紀 一つの恋が終わったことで壊れた心の再生に寄り添ったのは“アナログ”だった/インタビュー後編
Photo by tomoki ino


──そう考えられるのが人の強さかなのかも知れないですね。

米倉:そう思いました。だからこそ「そっと、ずっと」「ココロ」「キーホルダー」「君は僕の大切」「ボクノキミ、キミノボク」の歌詞を時間軸で書いていけたんだと思います。

──最初の「NOTHING LEFT」と最後の「大切な日々」に挟まれた曲は、その2曲に辿り着くまでの心の動きのように感じたのですが、やはりそうでしたか。

米倉:すべてを失いそうになった時期もあったけど、「それも全部自分の人生、こんな人生も素敵でしょ?」って言える強さと弱さのバランスが、結果「NOTHING LEFT」と最後の「大切な日々」に繋がってる。そこがこの『analog』の面白いところかなって思ってます。あと「NOTHING LEFT」も「大切な日々」もすごく真面目なことを歌っているんですけれども、人間ってそんなクソ真面目なだけじゃ生きていけないですから。友達との楽しい時間もあるし、失恋してあんな落ち込んでたのに新しい恋愛が始まることもあるだろうし。そういうことも残しておきたかったんですよね。だからあんなに苦しんでいたはずの人が、キーホルダー1個でそんなにフワフワしちゃうんだっていうのも、人間味があっていいかなって思ってます。

──そういう気持ちの揺り返しも、ちゃんと曲になっていますね。

米倉:過去の恋愛で経験したことを肝に銘じたくせに、「GOODBYE, MY LOVE」で穴のあいた心を振り返って歌っていたりね。いくら楽しく過ごしていても過去を振り返らない人間はいないと思うので。いつまでもくよくよ泣いているのはどうかと思いますけど、「あんなことあったな」「あのときはキツかったな」って言えちゃうくらいになったなら、むしろ言っちゃっていいと思うんですよね。

──そこまで行きついたからだと思うんですけど、「NOTHING LEFT」の歌詞は本当に素晴らしい大人な「さよなら」だと思いました。

米倉:最初の2行がすごく好きで。実際に耳にした閉まったドアの音が痛くて怖くてしょうがなかったんです。その時期は、あの音は一生消えないんじゃないか、この心の痛みは一生消えないんじゃないかと思って、一歩踏み出すことが怖くて。やっぱり、この人がいい……ってドアを閉めてしまう自分がいたんですね。でも周りの人や時間に助けられて、思い切ってドアを開けることができたとき、思ったんです。嘘に嘘を重ねたあなたに贈った僕の愛情は、あなたには贅沢だったかもねって。僕にはそんな人を愛する時間はないし、そんな人に贈るような愛情も僕は持ってないよって。

米倉利紀 一つの恋が終わったことで壊れた心の再生に寄り添ったのは“アナログ”だった/インタビュー後編
Photo by tomoki ino


──そうした「NOTHING LEFT」が1曲目にくるアルバム『analog』が完成した手応えは、やはり特別な感じがしますか。

米倉:そうですね、改めて、自分は本当にすごい仕事をしているんだなと思いました。人間ってアナログな心で感じたことを人生のエネルギー源として生きていると思うんですけど、僕はそれがさらに作品になる生き方をしているわけなので。そう思うと、心をもっと大切にしなければいけないし、自分の心だけじゃなく人の心も大切にしなければいけないと思ったというか。忘れていたわけじゃないですけど、今一度、そう思わされました。それも含めてキツかったけれども得るものも多い制作だったような気がしています。

──そういう気持ちで臨むツアーは3月からスタートしますね。

米倉:いつものようにツアーは半年近く続くんですけれど、昨年、デビュー25周年ということでベスト盤『besties:』を出して、自分が残してきた足跡の大切さを再確認できました。やっぱり心の節目、人生の節目ってすごく大事だなっていうのを、ファンの皆さんと振り返ることができたというか。これまでリリースした曲たちを、ベスト盤とは違った形で聴いてもらえるようなセットリストにしようと思ってます。

──『analog』の曲をメインにしつつ、お馴染みの曲もいろいろと。

米倉:今ちらっと思っているのが、『analog』プラス、カップリング曲の特集みたいなことをメドレーっぽくできたら面白いかなって。僕にとってベスト盤ってすごく大事な作品なので、「ベスト盤を出しました~! 以上」じゃなくて、それをまた向こう25年大事にしてもらえるようになったらいいなと願っています。そういう気持ちもこめた「analog」ツアーにしたいと思っています。

――【米倉利紀】部屋着こそお気に入りの洋服を着たほうがいい/マイ旬

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