『流転の地球』は、中国発の超大作ブロックバスターSF映画である。今年の春節に合わせて2月に公開され、中国国内では歴代2位の興行成績を残したという作品だ。
スケールの大きなストーリーと、CGを多用した派手な絵面が見所……という、言葉を選ばずに言ってしまえば「ベタな超大作」である。
中国発超大作SF映画「流浪の地球」ひりつくような気迫と余裕が入り混じった衝撃の一本

地球を動かして太陽から逃げろ! 壮大すぎる『流浪の地球』
ストーリーは、太陽の赤色巨星化が予定よりずっと早く進んでしまった近未来の地球から始まる。この地球の危機に際し、各国は連合政府を結成。世界各地に1万基もの巨大なエンジンを設置し、地球ごと他の太陽系に移住する計画を開始する。その道のりははるかに4.2光年。合計で2500年にも及ぶという長旅である。
極度に寒冷化が進んだ地上には人類は住めなくなるため、人類は各地のエンジンの地下に都市を築き、地上にはエンジンの維持作業にあたる要員だけが上がるようになっていた。

少年リウ・チーは地下都市の生活を嫌い、義理の妹であるドゥオドゥオと共に地上への脱出を試みる。チーの父ペイチアンは10数年前に地上から国際宇宙ステーションへと写り、地球を引導する任務に就いていた。しかし木星の強い引力により地球を動かすためのエンジンが停止。さらに地球が木星へと衝突する危機が迫る。チーとペイチアン、そして中国人スタッフを中心とした世界の人々は衝突を回避するため必死の行動を開始する。


ストーリーを見てわかる通り、ド直球のディザスターSFである。地球の危機と親子の確執が交錯するところはなんとなく『アルマゲドン』っぽいし、途中でペイチアンが暴走した国際宇宙ステーションのAIと戦うところは『2001年宇宙の旅』っぽいし、宇宙ステーションの外にぶっ飛ばされつつ移動するところは『ゼロ・グラビティ』っぽい。そもそも、地球にエンジンをつけて動かしちゃおうというアイデア自体が『妖星ゴラス』っぽい気がする。とにかく「過去のすごいSF映画のすごいところを頑張って真似しました!」という、ある種の居直りすら感じられる清々しさである。

というわけで、『流転の地球』の見どころはストーリーにはない。ではどこにあるのかというと、この映画を成立させた中国の人々の自意識みたいなところである。


「ブロックバスター映画を作れる」という大国の証
この世にブロックバスター映画というジャンルが成立して以来、「国内で超大作SF映画を作ることができる」というのは大国の証として機能してきた。そもそも、巨額の制作費とノウハウの蓄積を必要とする大作SF映画をコンスタントに作ることができる能力を持つ国はアメリカくらいのものである。

それゆえに大作SF映画を作ることができるということはアメリカの娯楽産業に比肩できるということとイコールとなり、「洋画に引けを取らないゴージャスさがある」ということは日本のSF映画でも宣伝文句として重要視されてきた。こと日本に関して言っても、『スター・ウォーズ』以降に作られた『さよならジュピター』『宇宙からのメッセージ』から、はたまた『SPACE BATTLESHIP ヤマト』に至るまで、「アメリカ製SF映画と並ぶことができたかどうか」は日本人のコンプレックスを刺激し続けてきたと思う。

おそらくそれは中国の人々も同じだったはずである。なんせこの映画の主演は製作総指揮として主演のウー・ジンも名を連ねている。
この人は北京生まれでありながら香港でブレイクしたことから「中国本土で中国のための映画を作る」ことにけっこうなこだわりがある(と言われている)大スターであり、やりすぎ人民解放軍ミリタリーアクション『戦狼』シリーズの監督兼主演である。そんな人からすれば、「我が国でもアメリカと並ぶようなSF超大作を作るぞ!」という状況は気合が入って当たり前である。

実際、『流浪の地球』には「オラが村でもやったるで!」という気迫が充満している。メカデザインは近年のゲームや映画、WEB上でのファンアートなどの流行を押さえたモダンなものだし、ビジュアルエフェクトに至ってはニュージーランドの有名スタジオであるWETAに発注している。だからかどうか知らないが、劇中のクルーが着ている外骨格は同じWETAが作った『エリジウム』のやつに似ているし、そして「どうせなら『エリジウム』っぽい外骨格を出したいよな!」という気持ちはものすごくわかる。

たとえストーリーがどこかで見た要素のつぎはぎだろうが、多少編集がクドかろうが、とにかく一流のスタッフを使って度肝が抜けるほどゴージャスな絵を作ってやるという気合いは、全編を通して痛いほど感じられる。
「勢いがある」というのはこういうことなんだろうし、その気迫はなんだか眩しいほどだ。

中国の習俗をメタ視して盛り込む、複雑なサービス精神
さらに言えば、『流転の地球』では中国人が自分たちのことをメタ目線で眺め、「中国が作ったSF超大作として面白い絵面ってなんだろう」と試行錯誤した形跡がある。後半になってしまうと荒れ果てた地表でのアクションになってしまうのであまり目立たないが、前半の地底都市でのシーンはかなり中国人が中国人目線で考えたSF的な絵面として興味深い。

例えば、未来の地底都市の中なのに、中国人が住むエリアでは現代と変わらない形で春節を祝っているのである。もちろん2月に新年を祝うという習慣は中国独自のものであり、そうした独自の習俗を脱臭したり隠したりするのではなく、あえて堂々と表に出しているのである。サイバーパンクっぽい地底都市の路上ではいかにも中国のおっさんっぽい人たちが麻雀をやり、学校では学生たちが漢詩の授業を受ける。
地下5kmから地上へと上がるための高速エレベーターには倒福マークの張り紙がされている。いたるところに「中国っぽいディテール」が散りばめられているのだ。

これはおそらく、「SF映画の中に埋め込んで面白い、中国っぽいディテールとは何か」を中国人スタッフが自ら考えた結果なのではないかと思う。『流浪の地球』ではあえてそういったディテールが目に見える形で配置されている。これはおそらく、中国人スタッフの戦略によるものだと思う。これらのディテールには、中国国内に対してはナショナリスティックな感情を掻き立てる効果があるだろうし、海外からはエキゾチックでクールな要素として捉えられる。そういった目線で、自国の習俗を捉えなおそうという意思を感じた。

確かにストーリー自体はどこかで見たような部分が多いので、口の悪い人間が見たら「パクリじゃん!」と言えてしまうのは事実だろう。しかし、『流浪の地球』をそれだけで終わらせてしまうのは非常にもったいない。「なんとしても客の度肝を抜いてやる」というひりつくような気迫と、それと裏腹の中国文化をメタ視する余裕。そんな相反する要素を抱えた恐るべき作品である。
(しげる)
【作品データ】
「流転の地球」公式サイト
監督 グオ・ファン
出演 ウー・ジン チュ・チューシャオ チャオ・ジンマイ リー・グアンジエ ほか

STORY
近未来、赤色巨星化が進んだ太陽から離れ別の星系に移るため、巨大なエンジンによって移動を開始した地球。しかし木星に近づいたためエンジンが停止。地球全体が大きな危機に見舞われる