岡崎体育の『MUSIC VIDEO』という曲がある。
「カメラ目線で歩きながら歌う」「急に横からメンバー出てくる」など、ロックバンドのMusic Video(以下、MV)でよく見かけるシーンについて歌った曲で、音楽ファンであれば一度は見たことのあるシーンが詰め込まれた作品だ。
とはいえ、彼の楽曲はなんらかのデータに基づいているというより、MVの“あるある”を歌っている。確かに見覚えのあるシーンは多いが、音楽についてなんとなく数字で見ていくこの連載を担当している身としては「本当にMVに似ているシーンは多いのか? 数字上はどうなのか?」と気になってしまう。
というわけで今回は岡崎体育の『MUSIC VIDEO』の歌詞を参考にしつつ、邦楽ロックのMVによくあるシーンを実際に調べていきたいと思う。
今回の調査は、カラオケの鉄人が公開している月間ランキングTOP450(2019年8月6日分)のうち、バンド編成のロックアーティストによる97曲を対象にした。調査の都合上、YouTube上にMVが公開されている楽曲に限定している。
では、結果を見てみよう。岡崎体育の『MUSIC VIDEO』の歌詞を参考にしつつ、MV演出でよくあるシーンを累計でカウントしてみたのが以下である。
1人でおもむろに歌を口ずさむボーカル:16曲/97曲
歩きながら歌うボーカル:9曲/97曲
だんだんと揃っていくメンバー:7曲/97曲
カメラを手で隠す仕草:0曲/97曲
最も頻繁に見られたのは「1人でおもむろに歌を口ずさむボーカル」。ボーカルでのソロパートがある曲には高確率で存在し、アップになったボーカルがカメラ目線で歌うパターン、ギターを抱えて一人歌い上げるパターンなど、いくつかのパターンが存在した。
「歩きながら歌うボーカル」は数としてはあまり多くなく、97曲中9曲という結果に。具体的には、RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』『有心論』などが該当し、数少ない9曲中の2曲をRADWIMPSが占める結果となった。
少ないながらも根強い人気を誇ったのが「だんだんと揃っていくバンドメンバー」。こちらは横から出てくるよりも「メンバーが演奏しているところにボーカルが走り込んでくる」ケースの方が主流のようで、具体的にはKANA-BOON『ないものねだり』や、ロードオブメジャー『心絵』などが該当した。
また、「カメラを手で隠す仕草」は意外にもゼロという結果となっており、少なくとも人気のある有名楽曲ではあまり使われていない手法のようだ。
次に、MVにどういう風景が多いのかを見てみよう。
『MUSIC VIDEO』の中では「夜の街」や「交差点」などが多いと歌われていたが、実際にどういう風景が使われていることが多いのか、実際に調べてみたのが以下である。
海辺・砂浜:18曲/97曲
ネオン輝く夜の街:13曲/97曲
人がいない駅・線路:9曲/97曲
屋上:6曲/97曲
草むら・川原:4曲/97曲
最も多かったのは「海辺・砂浜」。一瞬だけ映されるシーンまで含めるとなんと全体の約18%に使われている大人気の風景である。ある意味、海に囲まれた島国・日本を活かした邦楽の特徴とも言えそうだ。
次いで人気が高かったのが「ネオン輝く夜の街」。こちらも使い方は様々で、Official 髭男dism『Pretender』や氣志團『One Night Carnival』など、テイストの異なる幅広いMVで確認することができた。
数は少ないながらも、印象的なシーンが多かったのが「屋上」を使ったもの。BUMP OF CHICKEN『天体観測』から、SPYAIR『サムライハート(Some Like It Hot!!)』まで、新旧を問わずMVで一定の人気を誇るシーンだと言えそうだ。
今回のメインテーマとも言える調査に移りたい。題して「MVにバンドメンバーではない女の子はどれくらい出てくるのか?」問題である。
ロックバンドは、メンバー全員が男性というケースも珍しくないため、MVのストーリー上、女性が必要な場合はメンバーではない女優が出演するケースが多い。バンドメンバーの演奏シーンと、見知らぬ女の子が交互に登場するMVは、日本の音楽ファンなら誰もが見たことのある構成だろう。
というわけで、今回は調査対象の97曲のうち、どれくらいの曲に「バンドメンバーではない女の子が出てくるのか」を調べてみた。結果が以下だ。
メンバー以外の女の子が出てくる:45.3%
メンバー以外の女の子が出てこない:54.7%
結果はほぼ半数にあたる45.3%。先程までの「歩きながら歌うボーカル」「海辺で撮影されたMV」などに比べると段違いに多く、私自身も調べながら思わず「本当に多い……」と呟いてしまった。
逆に「バンドメンバーではない男の子」が出てくる確率はどれくらいになるのか、合わせて調査したところ、全体で9曲(約9%)という女の子に比べてかなり差のある結果となった。
登場する場合もヤバいTシャツ屋さん『ハッピーウェディング前ソング』のようなカップルでの登場が大半で、男性が単体で登場するのはKANA-BOON『シルエット』などごく少数に限られた。「MVにメンバー以外の人が出てくる時はほぼ確実に女性」という公式が成り立っていると言えそうだ。
では、そこまで登場回数の多い「バンドメンバーではない女の子」だが、実際に登場したMVの中では何をしていることが多いのだろうか? 曲の重複も含めて「主に何をしているか」をカウントしてみたのが以下だ。
踊っている:13曲/97曲
ありふれた日常を見せてくれている:12曲/97曲
走っている:10曲/97曲
泣いている:4曲/97曲
音楽を聴いている・窓の外を見ている:2曲/97曲
最も多かったのは「踊っている女の子」。MVという特徴上、当たり前なのだが音楽を聴きながら踊っているケースがかなり多く、音楽のジャンル・テイストによらずとにかく踊っている女の子は多かった。
次に多かったのは「ありふれた日常生活を見せてくれている女の子」。こちらを振り向いて微笑みかけたり、道を自然な動作で歩いたり、何気なく髪を耳にかけたりしている女の子がこの項目に該当する。こちらも踊っていると同じく根強い人気を誇っており、ラブソングを中心にあらゆるMVで確認できた。
そのほか、特に多かったのは「走っている」「泣いている」などの動作だが、UNISON SQUARE GARDEN『シュガーソングとビターステップ』に登場する女の子は、踊ったり走ったり泣いたり音楽を聴いたりありふれた日常生活を見せてくれたり、ここで挙げたほぼすべての挙動をまとめて行ってくれている。
「窓の外を見る」動作がなかったことが惜しまれるものの、MVの中でメンバーではない女の子が何をしているのか端的に理解できるMVなので、ぜひ視聴してみてほしい。楽曲と同じく、明るく好感の持てるMVである。
では、最後に「MVの最後にメンバーによるオフショットなどのオマケがある確率はどれくらいか」を見てみよう。
曲が終わった後、メンバーでにぎやかに遊んでいるシーンが入っているMVはよく見かけるが、実際はどれくらいの割合で存在するのだろうか?
オマケがある:11.3%
オマケがない:88.7%
MV後のオマケがあったのは約1割強。10本に1本程度とそこまで多くはない数字だ。
今回調査した中でオマケのオフショットがあったのは、[Alexandros]『ワタリドリ』などで、曲から雰囲気をガラっと変えたラストのオフショットが印象的だった。曲以外にMVとしてのストーリー演出が強いのがMrs. GREEN APPLE『青と夏』で、曲の前後にかなり印象的なシーンが付けられている作品となっていた。
アーティストの趣向が凝らされたMUSIC VIDEO。似ている点を見つけたり、こだわりの点を見つけたり、ぜひ今後MVを見る際の参考にしてもらえれば幸いである。
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
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「カメラ目線で歩きながら歌う」「急に横からメンバー出てくる」など、ロックバンドのMusic Video(以下、MV)でよく見かけるシーンについて歌った曲で、音楽ファンであれば一度は見たことのあるシーンが詰め込まれた作品だ。
とはいえ、彼の楽曲はなんらかのデータに基づいているというより、MVの“あるある”を歌っている。確かに見覚えのあるシーンは多いが、音楽についてなんとなく数字で見ていくこの連載を担当している身としては「本当にMVに似ているシーンは多いのか? 数字上はどうなのか?」と気になってしまう。
というわけで今回は岡崎体育の『MUSIC VIDEO』の歌詞を参考にしつつ、邦楽ロックのMVによくあるシーンを実際に調べていきたいと思う。
MV演出あるある、実際どれくらいあるのか?
今回の調査は、カラオケの鉄人が公開している月間ランキングTOP450(2019年8月6日分)のうち、バンド編成のロックアーティストによる97曲を対象にした。調査の都合上、YouTube上にMVが公開されている楽曲に限定している。
では、結果を見てみよう。岡崎体育の『MUSIC VIDEO』の歌詞を参考にしつつ、MV演出でよくあるシーンを累計でカウントしてみたのが以下である。
【邦楽ロック Music Video調査】MV演出あるあるは実際どれくらいあるのか?
1人でおもむろに歌を口ずさむボーカル:16曲/97曲
歩きながら歌うボーカル:9曲/97曲
だんだんと揃っていくメンバー:7曲/97曲
カメラを手で隠す仕草:0曲/97曲
最も頻繁に見られたのは「1人でおもむろに歌を口ずさむボーカル」。ボーカルでのソロパートがある曲には高確率で存在し、アップになったボーカルがカメラ目線で歌うパターン、ギターを抱えて一人歌い上げるパターンなど、いくつかのパターンが存在した。
「歩きながら歌うボーカル」は数としてはあまり多くなく、97曲中9曲という結果に。具体的には、RADWIMPS『愛にできることはまだあるかい』『有心論』などが該当し、数少ない9曲中の2曲をRADWIMPSが占める結果となった。
少ないながらも根強い人気を誇ったのが「だんだんと揃っていくバンドメンバー」。こちらは横から出てくるよりも「メンバーが演奏しているところにボーカルが走り込んでくる」ケースの方が主流のようで、具体的にはKANA-BOON『ないものねだり』や、ロードオブメジャー『心絵』などが該当した。
また、「カメラを手で隠す仕草」は意外にもゼロという結果となっており、少なくとも人気のある有名楽曲ではあまり使われていない手法のようだ。
MVの中で何の風景を使っているのか?
次に、MVにどういう風景が多いのかを見てみよう。
『MUSIC VIDEO』の中では「夜の街」や「交差点」などが多いと歌われていたが、実際にどういう風景が使われていることが多いのか、実際に調べてみたのが以下である。
【邦楽ロック Music Video調査】MVの中で何の景色を使っているのか?
海辺・砂浜:18曲/97曲
ネオン輝く夜の街:13曲/97曲
人がいない駅・線路:9曲/97曲
屋上:6曲/97曲
草むら・川原:4曲/97曲
最も多かったのは「海辺・砂浜」。一瞬だけ映されるシーンまで含めるとなんと全体の約18%に使われている大人気の風景である。ある意味、海に囲まれた島国・日本を活かした邦楽の特徴とも言えそうだ。
次いで人気が高かったのが「ネオン輝く夜の街」。こちらも使い方は様々で、Official 髭男dism『Pretender』や氣志團『One Night Carnival』など、テイストの異なる幅広いMVで確認することができた。
数は少ないながらも、印象的なシーンが多かったのが「屋上」を使ったもの。BUMP OF CHICKEN『天体観測』から、SPYAIR『サムライハート(Some Like It Hot!!)』まで、新旧を問わずMVで一定の人気を誇るシーンだと言えそうだ。
バンドメンバーではない女の子はどれくらい出てくるのか?
今回のメインテーマとも言える調査に移りたい。題して「MVにバンドメンバーではない女の子はどれくらい出てくるのか?」問題である。
ロックバンドは、メンバー全員が男性というケースも珍しくないため、MVのストーリー上、女性が必要な場合はメンバーではない女優が出演するケースが多い。バンドメンバーの演奏シーンと、見知らぬ女の子が交互に登場するMVは、日本の音楽ファンなら誰もが見たことのある構成だろう。
というわけで、今回は調査対象の97曲のうち、どれくらいの曲に「バンドメンバーではない女の子が出てくるのか」を調べてみた。結果が以下だ。
【邦楽ロック Music Video調査】バンドメンバーではない女の子が出てくる確率
メンバー以外の女の子が出てくる:45.3%
メンバー以外の女の子が出てこない:54.7%
結果はほぼ半数にあたる45.3%。先程までの「歩きながら歌うボーカル」「海辺で撮影されたMV」などに比べると段違いに多く、私自身も調べながら思わず「本当に多い……」と呟いてしまった。
逆に「バンドメンバーではない男の子」が出てくる確率はどれくらいになるのか、合わせて調査したところ、全体で9曲(約9%)という女の子に比べてかなり差のある結果となった。
登場する場合もヤバいTシャツ屋さん『ハッピーウェディング前ソング』のようなカップルでの登場が大半で、男性が単体で登場するのはKANA-BOON『シルエット』などごく少数に限られた。「MVにメンバー以外の人が出てくる時はほぼ確実に女性」という公式が成り立っていると言えそうだ。
MVに出てくる女の子は、主に何をしているのか?
では、そこまで登場回数の多い「バンドメンバーではない女の子」だが、実際に登場したMVの中では何をしていることが多いのだろうか? 曲の重複も含めて「主に何をしているか」をカウントしてみたのが以下だ。
【邦楽ロック Music Video調査】ロックバンドのMVに出てくるバンドメンバーではない女の子はMVで主に何をしているのか?
踊っている:13曲/97曲
ありふれた日常を見せてくれている:12曲/97曲
走っている:10曲/97曲
泣いている:4曲/97曲
音楽を聴いている・窓の外を見ている:2曲/97曲
最も多かったのは「踊っている女の子」。MVという特徴上、当たり前なのだが音楽を聴きながら踊っているケースがかなり多く、音楽のジャンル・テイストによらずとにかく踊っている女の子は多かった。
次に多かったのは「ありふれた日常生活を見せてくれている女の子」。こちらを振り向いて微笑みかけたり、道を自然な動作で歩いたり、何気なく髪を耳にかけたりしている女の子がこの項目に該当する。こちらも踊っていると同じく根強い人気を誇っており、ラブソングを中心にあらゆるMVで確認できた。
そのほか、特に多かったのは「走っている」「泣いている」などの動作だが、UNISON SQUARE GARDEN『シュガーソングとビターステップ』に登場する女の子は、踊ったり走ったり泣いたり音楽を聴いたりありふれた日常生活を見せてくれたり、ここで挙げたほぼすべての挙動をまとめて行ってくれている。
「窓の外を見る」動作がなかったことが惜しまれるものの、MVの中でメンバーではない女の子が何をしているのか端的に理解できるMVなので、ぜひ視聴してみてほしい。楽曲と同じく、明るく好感の持てるMVである。
MVの最後にオマケがある確率はどれくらいか?
では、最後に「MVの最後にメンバーによるオフショットなどのオマケがある確率はどれくらいか」を見てみよう。
曲が終わった後、メンバーでにぎやかに遊んでいるシーンが入っているMVはよく見かけるが、実際はどれくらいの割合で存在するのだろうか?
【邦楽ロック Music Video調査】MVの最後にオマケがある確率
オマケがある:11.3%
オマケがない:88.7%
MV後のオマケがあったのは約1割強。10本に1本程度とそこまで多くはない数字だ。
今回調査した中でオマケのオフショットがあったのは、[Alexandros]『ワタリドリ』などで、曲から雰囲気をガラっと変えたラストのオフショットが印象的だった。曲以外にMVとしてのストーリー演出が強いのがMrs. GREEN APPLE『青と夏』で、曲の前後にかなり印象的なシーンが付けられている作品となっていた。
アーティストの趣向が凝らされたMUSIC VIDEO。似ている点を見つけたり、こだわりの点を見つけたり、ぜひ今後MVを見る際の参考にしてもらえれば幸いである。
■まいしろ
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
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