倉本聰・脚本「やすらぎの刻〜道」(テレビ朝日系・月〜金11時30分〜)第23週。

終戦直前だというのに長男の公一(佐藤祐基)が徴兵されていくなど、根来家の受難が続く。
そして、しの(清野菜名)の過去も明かされた。

思った以上に切なかったしのの過去


しのは、もともとの実家である浅井家から、訳あって根来家にもらわれてきた。貧乏な家の口減らし的なことなのかと思っていたが、そういうわけでもなかったようだ。

3歳の時に実の母親が亡くなり、6歳で本家の祖母の家に預けられたしの。しかし、祖母が亡くなってからは本家に居場所がなくなり、ひたすら薙刀の稽古に打ち込んでいたという。

もらわれてくる時にも、身の回りの荷物と一緒に薙刀を背負っていた。以降、ちょいちょいしのを守ってきた薙刀。
護身のための武器であるとともに、自分の居場所を守るための武器でもあったのだ。

そして12歳で本家から家出をし、実家に戻るも、父親が再婚していたためここにも居場所がなく、後妻からいびり出されるような形で根来家にもらわれてきたというわけだ。

もらわれてきたシーンを見返してみると、メチャクチャ明るく振る舞っているのだが、当初のあのアホで天真爛漫な明るさは、自分の居場所を作るための処世術だったのかも知れないと考えると切ない。

そんなしのの実父が空襲で家を失い、全身やけどを負って、甲府の友人のところへ転がり込んでいるという。

「一度、甲府に行って顔見せてやれよ」

夫の公平(風間俊介)は、しのを思いやってこんなことを提案するが、時は1945年7月。「たなばた空襲」とも呼ばれる「甲府空襲」の直前だったのだ。


この少し前に、陸軍病院で傷痍軍人から「敵機のまいていった伝単だ」と、米軍の空襲予告ビラを受け取っていた。ご丁寧に「次に空襲する都市の名前まで、いちいちハッキリ書き込んであるぜ」なんてヒントまでもらっていたのに!

おそらくそのビラをちゃんと読んでいれば、甲府空襲の予告も書かれていただろう。「(伝単を)拾って隠しているとしょっぴかれるがね」なんて脅されたせいでビビッて、しっかりと読むことができなかったのか。公平! ついてないにも程があるよ。

ということで、父に会いに行ったしのだったが、案の定、甲府空襲に巻き込まれてしまう。

想像力が試される異様なCG


「甲府の街が大空襲を受けたって!」

報せを受けた公平は、自転車に飛び乗って甲府を目指すが、その行程を表現する映像が謎過ぎるCGだった。

もはや、リアルだとかリアルじゃないとかいう次元を超越した、絵画のような背景の中を実写の公平が自転車を走らせる。


スピード感を表現するためなのか、木なんてもう斜めになっちゃってるし、漫画チックな放射線は描かれているし……。チェコ・アニメのような奇妙な映像。真横からのアングルで、坂道を上ったり下ったりする様子は、懐かしのゲーム「エキサイトバイク」のようでもある。

確かに甲府に近づいてからの、焼け野原になった道を実写やリアルなCGで再現するのは難しかったのだろうが、そこに至るまでの行程は、普通の山道で撮影するんじゃダメだったのだろうか!?

甲府の街に入ってからの背景がさらにすごい。

「その時の僕の衝撃と言ったら、それはすさまじい光景だった……」

視聴者も衝撃だよ!

煙に包まれた闇の中を歩く公平の周りを、実際の空襲写真が流れていく。リアルとは真逆のベクトルではあるものの、ものすごい悪夢感・絶望感が伝わってくる異常な映像。


そういえば先週の病院のシーンでも、ドラマセットですらない、書き割りの背景の前で、舞台演劇のような演出が繰り広げられていた。

今回の甲府の様子はCGではあるが、舞台の上に無数の空襲写真が吊されているようにも見える。

当時の映像をそのまま流したり、中途半端にチープなセットやCGを作ったり、戦争の悲惨さをテレビレベルの実写で表現しようとすると、単なるショボイ映像になりがち。

だったら、視聴者の想像力にゆだねる今回のようなパターンの方が、伝わるものは多いのかも知れない。

焼け跡でしのと再開して抱き合うシーンも、明らかに異様な合成映像だったが、妙な感動があった。
「やすらぎの刻〜道」変なCGの中を風間俊介が自転車を走らせる。想像力が試された空襲映像第23週
イラストと文/北村ヂン

菊村先生、重病説!?


遂に終戦を迎えたものの、直前に徴兵されていった公一兄ちゃんはどうなったのか、しのの父親は生きているのか……等、気になることは沢山あるのだが、ここで「やすらぎの刻」パートに。


自分の知名度を上げるため、大物の葬式で弔辞を読むことを熱望する桂木夫人(大空眞弓)。彼女から弔辞の代筆を頼まれた菊村栄(石坂浩二)に対して、

「力がまだあると思いこんでいる桂木夫人が死んだと思って書けばいいのよ」

なんて、アドバイスをするお嬢(浅丘ルリ子)とマヤ(加賀まりこ)。戦争を生き抜いてきた老人たちは、老後もパワフルで下世話だ。

次週、この下世話さが菊村自身に降りかかり、重病説が広まってしまうようだ。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
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『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日