倉本聰・脚本「やすらぎの刻〜道」(テレビ朝日系・月〜金11時30分〜)第23週。

菊村栄(石坂浩二)が周囲の噂に右往左往しまくった挙げ句、噂を広めた連中に復讐まで企てるドタバタ週。


先週まで、空襲だ終戦だとシリアスな展開が続いていたのに……。この振り幅が本作の魅力ではあるが、この急激な温度の変化にシニア視聴者はついていけているのだろうか。ある意味、今一番刺激的なドラマだ!

手術の不安でアバンギャルドな悪夢を見る


早期に発見された前立腺がんを全摘することになった菊村は「やすらごの郷」内の医療施設で手術をすると変な噂が広まりかねないということで、よその病院で手術することに。

しかし、これが逆に憶測を呼び「菊村重病説」が流れる結果に。いつものごとく噂話で盛り上がりまくる老人たち。

「自分たちは最後の友人です。なんの因果かこうして最終シーンをご一緒することになりまして……」

菊村が死ぬものだと勘違いをして、しんみりしたことを言い出す秀サンこと高井秀次(藤竜也)はまだマシな方で、桂木夫人(大空眞弓)一派に至っては超・下世話。


「(前立腺を取ると)男の機能がなくなっちゃうの。つまりこっち(オカマ)になっちゃうの」

「ミッツさんとかデラックスさんみたいに!? でもなんか似合いそう!」

「結構、売れセンのこっちになったりして!」

こんな調子で「菊村先生はもうダメだ」というのが「やすらぎの郷」内での定説となり、菊村の住むヴィラのベランダが埋まらんばかりの花が届けられる。

「この見舞いの花の量は、ただごとではない! 私の症状はただごとではないのだ……」

どんなに簡単な手術だと言われていたとしても、やはり手術前には不安はつきまとうもの。そこに、やたらと真実味のある重病説や、大量の花が贈られたら、逆に「大丈夫」という医者の言葉の方を疑ってしまう気持ち、分かる!

それにしてもあの大量の花、悪意があるんだかないんだか分からないが、不安になっている人にはお葬式ごっこなみのダメージを与えるだろう。

思いっきり不安にとらわれた菊村も、悪夢を見てしまう。

自分の死後、枕元であることないこと言われまくり、老女たちがこぞって「私も口説かれた」なんて言い出す始末。


さらに、執筆中のドラマ「道」の登場人物までやって来て「私たちこれからどうしたらいいんですか!」と責め立てる。

現実の友人たちと、脳内ドラマの登場人物たちに囲まれて死ぬという異常なシーン。まさにナイトメア!

倉本聰自身も、本作の執筆途中に体調を崩し手術を受けたというが、同じように書きかけのシナリオを残したまま死ぬわけにはいかないと思ったんじゃないだろうか。

「やすらぎの郷」で、役者たちにあれだけ意地悪な役をやらせていただけに、死後何を言われることやら……という気持ちもあったかも知れないが。

このドラマ、復讐エピソード多すぎ


あれだけ不安だったのがバカらしくなるくらい、アッサリ手術は成功。

同じ病院で前立腺の手術をしたというリュウ(山下真司)が訪ねてくる。

山下真司を見ると、いまだに「スクール・ウォーズ」の熱血教師を思い浮かべてしまうが、そのイメージを払拭するオネエ言葉のメイクアップ・アーティスト役! 意外すぎる配役だが、これが異常にハマっていた。
過度にオネエ感を強調しない、ナチュラルにいそうなオネエだ。

「ミッツさんとかデラックスさんみたいに?」なんて言っていたと思ったら、オネエ言葉の山下真司が登場とは……どんな伏線だよ!

この出会いによって、菊村は「やすらぎの郷」の老人たちへの復讐を思いつく。

リュウさんのハリウッド仕込みの特殊メイクで死相全開の顔になって「やすらぎの郷」に戻り、噂で盛り上がっていた連中を驚かせてやろうというのだ。

この死相メイクが、「怪奇映画のメイクアップでアカデミー賞の候補になった」というわりには、思いっきりコントの病人メイクで笑ってしまった。

マヤ(加賀まりこ)やお嬢(浅丘ルリ子)を驚愕させ、「なんとも言えないエクスタシーが、ココロの底から突き上げた」とご満悦の菊村だったが、「ダメだったのよ、きっと。手術するのが手遅れだったのよ……」と涙を流すなんて。
マヤもお嬢もいい友人じゃないか。

それにしてもこの「やすらぎの郷」「やすらぎの刻〜道」では復讐エピソードが多い。

お嬢の誕生パーティーに来なかった連中に「ナスの呪い揚げ」をしたり、つけまつげをディスった相手にドッキリをしかて失禁させたり……。

老人たちが、残り少ない余生を健やかに過ごすためには、恨みを抱え込まず、キッチリ復讐するのが大事という教訓なのだろうか!?

そういえば失禁エピソードの時は、効果音職人&特殊効果職人に協力を仰いでいた。プロの技術をくだらないことに使いすぎだよ!
「やすらぎの刻〜道」重病説を流された石坂浩二が、死相メイクでドッキリをしかける第24週
イラストと文/北村ヂン

恋人が認知症で壊れていく


週の最後には、いつの間にやら付き合っていた秀サンと九重めぐみ(松原智恵子)のエピソードが。

以前から、チョイチョイやばい言動をしていた九重めぐみの認知症が悪化しているようで、最近はますますぶっ壊れているようだ。


付き合いだしたばかりだというのに、じょじょに壊れていく彼女……。そんな切ないラブストーリーが繰り広げられるのかと思いきや、予告編では老人たちがオバケメイクで大暴れしていた。

どんなドラマだ!

リュウさんの言っていた「メイクの必要がほとんどない」怪奇映画実現か!?
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日