吉岡里帆、約1年ぶりに向井理のことが心に棲みつく


毎回、豪華ゲストが続くテレビ朝日系の金曜ナイトドラマ「時効警察はじめました」(金曜よる11時15分。一部地域を除く)。福田雄一・田中眞一の脚本、塚本連平監督による先週10月18日放送の第2話には、向井理が人気ミステリー作家役で登場した。
向井理といえば、「時効警察はじめました」にレギュラー出演中の吉岡里帆と昨年放送のドラマ「きみが心に棲みついた」での共演が記憶に新しい。

今回、吉岡演じる新米刑事の彩雲は、あのドラマとは別の意味で、向井演じる“ミステリー界の貴公子”日下部秋斗がすっかり心に棲みついてしまっていた。冒頭では、まるでアイドルのコンサートのような日下部のファンイベントに来て盛り上がっていたところ、同じ総武警察署の鑑識課のエース・又来康知(磯村勇斗)と出くわす。さらに同署交通課の女性警官の浜田山(内藤理沙)と久我山(田中真琴)とも遭遇(ちなみに久我山役の田中真琴も「きみが心に棲みついた」に出演していた)。秋斗はどうやら若い世代から絶大な支持を集めているらしい。

じつは秋斗の父・光晴(古舘寛治)も著名なミステリー作家だったが、いまから25年前、密室となった自宅書斎で死んでいるのが発見された。
庭から凶器のナイフが発見され、殺人事件として捜査が進められたものの、結局未解決のまま時効になってしまう。時効から10年を経て、総武警察署に保管される書類の山から当時の捜査ファイルが見つかり(あいかわらず管理が杜撰だ……)、今回も霧山修一朗(オダギリジョー)が趣味で捜査を始める。
「時効警察はじめました」嘘をつくたび脇汗の向井理はわかりやす過ぎだろうと言っても過言ではないのだ2話
イラスト/たけだあや

「時効警察」新シリーズがやけにこだわる「嘘の見破り方」


「時効警察」新作ではなぜかここまで、人が嘘をついたときの見破り方にやけにこだわっている。スペシャル版では武田真治の背後で自動ドアが勝手に開いたこと、第1話では小雪が蚊に刺されたことから、霧山は彼らが嘘をついているのを見破った。そして今回、第2話では、秋斗があからさまに脇汗をかいていたことから、霧山は彼の嘘を見破る。それは霧山が交通課の三日月しずか(麻生久美子)に加え、勝手についてきた彩雲と康知と一緒に初めて日下部家(立派な屋敷だが内装の趣味がひどい。秋斗の私服も同じく)を訪ねたときのこと。
光晴が殺された書斎を見せてもらったうえで、秋斗に「人気ミステリー作家のあなたなら、この密室トリック、もう解けてるんじゃないですか?」と訊いたところ、「私に解けない謎はありませんよ」という答えが返ってきた。そして、父の死はミステリー作家として最大にして究極の死に方だとして、その死を大事にしたいからこそ書斎を事件当時のまま残しているのだと秋斗は話してくれたのだが、その脇はぐっしょりと濡れていた……。

第2話ではさらに、時効管理課の熊本課長(岩松了)が『世界嘘大百科事典〈見破り編〉』なる本を霧山に見せてくれた(熊本いわく刑事課時代の彼は取り調べで相手のウソを見破るのが得意で「ウソ・ミヤブリーノ」と呼ばれていたとか)。分厚くて大きなその本を開くと、なぜか文字は片ページの隅にしか印刷されおらず、パラパラめくっていくと「嘘の見破り方その一、嘘をつくと汗をかく」「その二、脳内のドーパミンが増え、まばたきが多くなる」「その三、逆にまばたきしなくなる」と書かれていた。かと思えば、「その四」からはページの全面に大きく文字が印刷され、「笑顔で目がわらっていない つまり、口角は上がるが目尻にしわができない」とある。あげく最後は「その五、何だか嘘っぽい」と雑にまとめられ、続きはすべて白紙でメモ帳代わりに仕えるようになっていた。
いかにも「時効警察」世界にふさわしい超いいかげんな本だ。

実在の小説からトリックを多数参照(以下ネタバレ注意)


第2話は、嘘の見破り方がこれでもかと登場するばかりでなく、実在の小説から多くのトリックが参照されている。霧山が再度日下部邸を訪ねた際、凶器のナイフが屋外から見つかった理由を、仮説としてサルやオウム、ヤギを使ったトリックで説明すると、秋斗はことごとく似たようなトリックが出てくる作品名をあげてみせた(サルは佐野洋の『声の通路』、オウムはアーサー・モリスンの『レントン館盗難事件』、ヤギは楠田匡介の『影なき射手』にそれぞれ出てくるとか)。まるで歩くトリック事典だ。

さらにクライマックス、霧山が秋斗を前にすべてのトリックを解くシーンでは、光晴を殺したのは少年時代の秋斗本人だとして、彼がその際に参照した作品をあげながら、事件の過程が説明された(※ここから事件の真相に関するネタバレになります)。

それによれば、秋斗は光晴の書斎のシャンデリアにナイフを電磁石にくっつけて仕掛けておき、停電させるとそのナイフを父の胸へと落下させた(元ネタはディクスン・カーの『震えない男』)。さらに部屋の外から磁石を使ってドアの内鍵をかけると密室に仕立て(同・斎藤栄の『危険な水系』)、光晴を刺したナイフはくくりつけたロープを天窓の隙間から通したうえ、庭の水車で巻き取り、部屋の外に捨てた(同・横溝正史の金田一耕助シリーズの一作『本陣殺人事件』)。


霧山が一通り説明を終えると、秋斗はそのとおりだとあっさり自身の犯行を認める。すべては病弱だった母につらく当たり死へと追いやった父への恨みが動機だったという。しかしそう聞くや、霧山は「……というのは嘘です!」と先ほどの話を全否定してみせる。上着を脱いだ彼の脇は汗でぐっしょり濡れていた。何という大どんでん返し。

ここであらためて霧山は事件の真相について自らの推理を語り始める。
じつは日下部親子の担当編集者である芝浜(マギー)の証言で、光晴は事件当時、脳腫瘍で余命いくばくもなかったことがわかった。光晴は、秋斗が以前から自分に恨みを抱いていることを知っており、息子が自分を殺すため仕掛けたトリックに気づくと、それに乗ってやろうと思い立ったのだろう。

だが、秋斗のトリックは穴だらけだった。ナイフは光晴の胸にではなく、彼が読んでいた本の上に落ちた(これを霧山は、彩雲が秋斗から借りてきた蔵書の疵から推察した。彩雲、お手柄!)。しかたがないので光晴は自分でナイフを腹に突き刺す。
その後も、内鍵はかからないわ、ナイフは天窓から出ていかないわで、秋斗の仕掛けはことごとく空回りしたため、光晴は出血で息が絶え絶えになりながらも手助けしてやり、ようやく密室トリックを完成させたところで絶命したのだった。霧山が真相をあきらかにしても秋斗はまだ信じられない。そんな彼に、同行していた三日月が「この密室殺人事件は、余命いくばくもないことを知っていたお父さんからの贈り物みたいなものだったんですかね」と口にする。

じつは父が母につらく当たっていたというのも、秋斗の思い違いだった。日下部家に仕えるメイド(大島蓉子)の証言によれば、父はすでに心臓疾患が進行していた母の気力を奮い立たせるため、わざとそんな態度をとっていたというのだ。

秋斗は自分の仕掛けたトリックがことごとく失敗していたと知り、ミステリー作家の沽券にかかわると、このことは絶対に世間に漏らさないよう霧山に頼み込む。というところで、毎度おなじみ「誰にも言いませんよ」カードが登場。今回のカードは『世界嘘大百科事典』にあわせてか、パラパラめくっていくと「この件は誰にも言いません」という文が完成する仕様になっていた。

時効延長を荒ワザで処理


「時効警察」シリーズでは毎回、出演者が回想シーンで若き日を演じるパターンが目立つが、今回その役回りは、メイド役の大島蓉子が担っていた(しかしあんな絵に描いたようなメイド服を着た本業のメイドは日本に実在するのだろうか)。一方、秋斗の少年時代を演じる子役に見覚えがあるなと思ったら、映画「万引き家族」でリリー・フランキーの息子(では本当はないのだが)を演じていた城桧吏だった。あの映画とは対照的に今回はお坊ちゃまの役であった。

第2話では、作家親子のあいだに起こった事件を解明するうえで、ふせえりと磯村勇斗演じる又来親子のけんかがちょっとしたヒントになっていた。思えば、「時効警察」の旧シリーズでは、主人公の霧山をはじめ総武警察署の面々には生活感がほとんど見えず、人間関係もきわめてフラットだった。それが12年ぶりの新シリーズでは、又来が息子ともども総武警察署に勤務するようになり、時効管理課のサネイエ(江口のりこ)もまもなく子供が生まれようとしている(第2話では彼女がお腹の子のため大量のレモン汁を絞って飲むシーンがあった)。刑事課の十文字(豊原功補)にも彩雲という部下ができ、その方向性はともかく指導に余念がない(ただし、おかげで緋田康人演じる十文字の上司・蜂須賀の存在感がやや薄くなってしまった気がする。第2話では出番すらなかったし!)。

「時効警察はじめました」では、こうした署内の人たちの変化や、又来康知と彩雲真空という新たに加わったメンバーの存在を通じて、旧シリーズから10数年という時間の経過がうかがえるとともに、ドラマの世界観にも奥行きが出てきたように思う。それにしても、彩雲は今回も途中まで捜査に参加しながらも、いよいよ事件解決というタイミングで十文字に連れて行かれ、またしても「誰にも言いませんよ」カードを渡す瞬間には立ち会えなかった。今後彼女がこの場面に立ち会うことはあるのだろうか。

さて、冒頭に書いたとおり豪華ゲストの続く「時効警察はじめました」だが、今夜放送の第3話には中山美穂が登場する。今回の脚本は小峯裕之、監督は今泉力哉が担当する。いずれも80年代生まれの気鋭だ。ここはぜひ、WAKUWAKUする展開を、よろしくお願いします!(近藤正高)

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