本能を抑え、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
今日11月20日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
血肉の匂い漂う裏市「BEASTARS」大人たちが平和に暮らしている裏の理由6話
『BEASTARS』コミックス6巻 原作:板垣巴留

裏市


6話の冒頭や1話でも描かれるように、まれに「食殺」の重犯罪が起きてしまうものの、それは本当にまれ。ほとんど起こらない。街にいる動物たちは草食も肉食もマナーを守ってすごしており、とても穏やかだ。
レゴシ「何か…大人って、実はかなり平和に生活しているのか」

その後、レゴシたち肉食動物の学生が迷い込んだのが、裏市
ひっそりとした裏路地のさらに奥、屋台には大量に肉が並べて売られている。
肉食動物たちが、和気あいあいと肉を袋に入れて買い、串に刺して焼いたものを食べ歩いている。

あれだけ「肉食は禁忌」だったはずなのに、この場所では当たり前のようにやり取りされている。
レゴシ「外を平然と歩いていた肉食獣たち。落ち着きがあるあの澄まし顔の理由は…!」
表と裏。光と闇。話によると、肉食なら大人になれば必ず利用する場所、らしい。


裏市は法の抜け穴をついたような場所のようだ。学生たちですらその存在は知っている程度に、秘密ではないらしい。
生きている状態の動物を食べるために襲う、殺すことは重大な犯罪。しかし病院や葬儀屋が密かに提供した、亡くなった草食動物を売っている場合は……? セーフではないけどアウトとも言い切れない特殊なルートが存在している。

興味深いのは裏市の描き方だ。
人間で例えるならば、バラされた人の死体があちこちにぶら下がっているような状態。
極めてグロテスクなはずだ。
しかし市場の空気は明るい。
「裏市」とは言われているもののコソコソした様子や後ろめたさは感じられず、夕方のにぎやかな市場と言った様子。
ケバブやらカルビやら焼き鳥やらの看板は、むしろ俗っぽくて下町的な安心感すらある。

草食動物目線でこれを描いたら、友達がぶら下がっているかなりえぐい光景として表現されていたかもしれない。
しかし市場に来ている肉食動物から見ると「特別おかしなことではない」という感覚なのが、映像に反映されている。

裏市が「悪」「罪」だとする描写は、今のところない。

人間社会で言うところの性風俗のあり方を連想した感想が、ネットではとても多かった。
生き死にの問題が関わるのでイコールではないものの、お金を払う側は本能的に欲している、けれども無くても生きていける、という部分でのベクトルは似ている。特に少年レゴシから見た「実は大人たちの知らない世界があった」とショックを受ける感覚は、通じるものがありそうだ。

ビル「レゴシも見ただろ表通りを。みんな楽しそうだったよ、平和だったし。
それもこれも裏市があるからだろ。分からねえのか。いいかげん大人になれよ」

ビルは裏市のあり方をしれっと受け入れ、指を売っている老人にお金を払って、かぶりついた。とても生き方の要領がいい。むしろこのくらいのほうが、問題を起こさない、ちょいワル程度の健全さすら見える。
だからこそ、レゴシの中にはモヤモヤがたまる。

レゴシ「大人になるってそういうことなのかよ!」
この後、危険だと医師に判断されたのは、レゴシの方だ。

もう一人、ハクトウワシのアオバの行動もまた、迷える青年そのものだった。
肉食であり、裏市で行われている肉の取引を見て、彼もビルと一緒に食べることを一度は選ぶ。
しかし途中で、学校の草食の友達のことを思い出して、気持ち悪くなって逃げ出してしまう。
レゴシ「ああ…アオバ。こんな時でさえ…肉食のお前のくちばしは…鋭そうできれいだなあ」
肉食のくちばしを隠さず、自分の意思をしっかり持ち選択をしたアオバ。
この後からアオバは「食べなかったレゴシ」や「食べたビル」の心が迷走した際、助言を与える重要な役回りになっている。

パンダ、白黒、医者


今回初登場の、パンダの医者ゴウヒン
裏市で狂ってしまった動物たちを捕まえ矯正している、心療内科医。患者たちは肉食が抑えられず食殺したり、自分を食ったり、罪悪感で怯えたりする者ばかり。患者の写真を見ると、重度のジャンキーといった有様。力づくで抑え込むため、ひたすら鍛えに鍛え、ムキムキになったらしい。
血肉の匂い漂う裏市「BEASTARS」大人たちが平和に暮らしている裏の理由6話
『BEASTARS』コミックス5巻 原作:板垣巴留

ジャイアントパンダは食肉目クマ科で力が強いにも関わらず、笹竹を主食とする珍しい生態の動物。
ゴウヒンはものすごい量の笹を食べている。
実際のパンダは腸が肉食の構造のため短い。栄養の吸収効率が悪いのもあり、一日中笹を食べ続けているのを思い出す。

今回は登場回なので「ヤバい医者がいる」程度で描写が止まっている。ここから先、肉食の身体でありつつ草食に生きる彼の存在は、レゴシに大きな影響を与えることになる。

アニメでゴウヒンの声が大塚明夫だったのを聞いて、多くのファンが盛り上がった。
というのも大塚明夫は手塚治虫の「ブラックジャック」を演じていたからだ。
ブラックジャックの髪のツートン同様、パンダも白黒。どちらも特殊な裏の医者。しかも原作が秋田書店。
実際どこまでスタッフが意識したのかはわからない。ただ、全く揺るがない信念を持ち、読めない恐ろしさもありつつ、患者に献身的な部分もあるゴウヒンの姿にぴったりすぎる配役だ。

ちなみに、「ゴールデンカムイ」ではレゴシ役の小林親弘は杉元佐一役、ゴウヒン役の大塚明夫は二瓶鉄造役で、共演している。


(たまごまご)