〈僕〉のこの思弁にすべてが回収されていく小説であり、ドゥルーズという主題をここまで真摯に取り扱ったこと自体を評価すべきである。誰とも固定された関係を築けず、実家の援助によって浮遊するように生きている主人公の姿は同世代人の丁寧なスケッチにもなっている。それまで絶対的だった男性中心主義の正統性に疑義が呈示され、新たな可能性の前で戸惑う2000年代の心性が的確に描かれているように思う。

乗代雄介『最高の任務』
これも初候補となった作品で、主人公たちが活動する主舞台が館林などの両毛線やわたらせ渓谷鐡道沿線に設定されている北関東小説であるのが個人的にはツボだった。語り手である大学生の女性、阿左美美景子こと〈私〉と両親、弟の洋一郎、そして最も重要な登場人物であるゆき江叔母が北関東をうろうろする話である。