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本日決定!書評家・杉江松恋の第162回芥川賞候補全作レビュー&予想。一番「らしい」小説は「音に聞く」

もう一人、同期に知子という女性がいて、〈僕〉の語りにはしばしば彼女の視点が混入してくる。〈僕〉の指導教授が『荘子』を引いて自己/他者の二項対立は絶対かということを学生たちに疑問視させる場面があるので、作者が何かを意図しているのだということは判るが、前半部だけではその狙いはわからない。中盤で〈僕〉はジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリ『千のプラトー』を読み始め、マジョリティである男性という立場から離れるということについて考えるようになる。選択肢としては二つ、「動物」として他者に寄り添うか、もしくは「女性への生成変化」を経て男性の支配から逃れるか。〈僕〉がゲイであることについてのエピソードが主題と同等の重みづけで書かれてきたことの意味は、ここにおいてようやく判明する。
〈僕〉のこの思弁にすべてが回収されていく小説であり、ドゥルーズという主題をここまで真摯に取り扱ったこと自体を評価すべきである。誰とも固定された関係を築けず、実家の援助によって浮遊するように生きている主人公の姿は同世代人の丁寧なスケッチにもなっている。それまで絶対的だった男性中心主義の正統性に疑義が呈示され、新たな可能性の前で戸惑う2000年代の心性が的確に描かれているように思う。
本日決定!書評家・杉江松恋の第162回芥川賞候補全作レビュー&予想。一番「らしい」小説は「音に聞く」

乗代雄介『最高の任務』


これも初候補となった作品で、主人公たちが活動する主舞台が館林などの両毛線やわたらせ渓谷鐡道沿線に設定されている北関東小説であるのが個人的にはツボだった。語り手である大学生の女性、阿左美美景子こと〈私〉と両親、弟の洋一郎、そして最も重要な登場人物であるゆき江叔母が北関東をうろうろする話である。

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