迷路からラストへの見事な逆走『MIU404』最終回
新時代の警察ドラマとして話題をさらった「MIU404」(TBS系 毎週金よる10時〜)、最終回「0」(9月4日放送)は、主人公・伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)がくねくねと迷路に入り、え、そっち行く? という方向に進みかかったところ、いきなり逆走するというハードにしてマジカルな体感ファンタジーアトラクションに乗っているかのような心持ちを与えてくれた。どうなるの? と思うところでCMに切り替わるタイミングも計算され尽くされたエンターテインメント。毎回、いいところで入る米津玄師の「感電」の入り方も完璧だった。
悪魔のような男・久住(菅田将暉)によるネットを使った爆弾テロ騒動は収束したが、大きな傷を残した。混乱を極めた交通事情によって病院への搬送が間に合わなかった市民たちがいたのだ。ドーナツEPの製造工場を調査していてトラックにひき逃げされた陣馬(橋本じゅん)もそのひとりにカウントされる。
余談だが、陣馬を演じているのは“橋本じゅん”である。劇団☆新感線の舞台で、強くて不死身の男をたくさん演じてきた。だから、きっとけろっと復活すると思えてならないのであった。
メロンパン号は、市民にその存在を気づかれ、しかも悪い印象をもたれ、捜査に出ることができなくなり、志摩と伊吹のコールサインが404から401に変わる。まさに「Not found」。うまい!
メロンパン号のネット処刑は、同じくネットで応援する者たちが現れ自浄。それが過去回で伊吹と志摩と関わった人たちであったところは現代の恩返し童話のようだった。また会おう(2話の夫婦)、人生やり直し中(3話の高校生)、AMI世界一周ナウ(4話のバスに乗り合わせた人)、スウ、モアメタル★なりきり、ジュリ(7話)、飛田(7話)。
それでも、桔梗(麻生久美子)は責任をとって機捜の隊長を辞め、九重(岡田健史)は異動の前の休み期間、陣馬の見舞いに通い詰める。
人は助け合わないと物事は成し遂げられないと痛感
伊吹は陣馬を傷つけた久住を「刑事を捨てても俺は許さない」とガマさん(小日向文世)の心情と自分を重ねる。志摩は「強くて清くて正しい警察官でいること」に疲れてしまう。なにがあっても正しさを全うする、それが警察だと思ってきたふたりが、その信念を撤回するほどの怒りと哀しみを抱え、それをはらす行動に出ようとするとき、お互いがお互いを想うあまり、ルール違反の単独行動を選ぶ。だがその結果、ふたりは各々、久住にまんまと囚われてしまう。
最終回で得た教訓は、危険なことやとても大事なことに携わるときは、単独行動しないこと。そういう意味でも、助け合わないと物事は成し遂げられないと痛感した。
人が併せ持つ善悪の感情のバランスが崩れ、強烈な悪が脆い善を抑え込み、心身を支配しはじめたとき、誰かがそれを止める助けをしないとならない。
4話「ミリオンダラー・ガール」で青池(美村里江)と話をしたいと言っていた伊吹は、久住とは一対一で話をすることに成功する。そこで久住は、
「汚いもん見んようにして、自分だけキレイだと思っている正しいやつら。泥水に流されて全部なくしてしまえばいいのに」
「神様はおれより残酷やで」
「人も街も全部さろてまう」
と、ある歴史的出来事を思わせるようなことを言う。あれほどの大事を人間はすぐ忘れてしまうと批判する久住。ものすごく正論で、一瞬久住に心を寄せてしまいそうになるが、ドラマのラスト、久住が両手で目を覆いながら物語ったシーンを見ると、これすら、伊吹の期待した想い(悪事に意味や理由を求めたい)をすくいとって語っているだけの、いつもの久住のやり口ではないかという気もしないでもない。
そこが久住という存在の怖いところ。
そして久住は、志摩にも、伊吹にも、善と悪の境界を悪側に越えてくるように囁やきかける。
目を覚まさない志摩の前で、伊吹は久住を撃つ。
「志摩、
相棒、
返事しろよぉ」
やさしい声で涙を流す伊吹。これが童話だったら、伊吹が志摩にキスして目覚めさせそうなシチュエーションである。
その頃、病院でも相棒を想う人物がいた。
陣馬の復活を報告する九重のメッセージが、伊吹と志摩をも目覚めさせた。これらはすべてドラッグで気を失った胡蝶の夢だったのか……。
このときの陣馬の写メの表情が泣ける。
伊吹と志摩、陣馬と九重、2組の相棒への愛情が世界を変える?
最後の全力の追跡で久住を捕らえる。
追求すればするほど闇が深そうな久住。もっとおおごとになる前に未然に防いだということにしておこうと追求を保留にする伊吹と志摩。
東京の街を走りながら、志摩と伊吹が見つけた答え
そして2020年、伊吹が聖火ランナーに応募するほど楽しみにしていた東京オリンピックは。コロナ禍で延期になってしまった。出来るまでにすったもんだあった競技場のデザインは上空から見ると 0(ゼロ)である。忌まわしきドーナツEPも穴が空いていてゼロにも見える。
ゼロからプラスになるかマイナスになるか。それは人類の行動に委ねられている。「小さな正義を拾ったひとつひとつの先に明るい未来があるんじゃないんですか」と桔梗はどこまでも希望を捨てない。
志摩は久住を捕まえたとき、怪我した久住の額に手を当て「生きて、俺たちとここで苦しめ」と言う。これはまるで言葉の銃弾のようだ。頭を撃ち抜く代わりの最高の罰。
生きることは骨が折れる。災害や病や、人と人との争いや、富める者と貧しい者の格差の広がりや、たくさんの壁が毎日毎日、立ちふさがってくる。なぜこんなに苦しいのかと問いながら、生きていく。それこそがこの世界に生まれたものに神様が平等に与えたこと。
生きることは最高の祝福であり、償いでもある。
東京の街を走りながら、志摩と伊吹が見つけた答え――許せない悪に立ち向かう方法は、共に生きることだった。
(木俣冬)
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番組情報
TBS 金曜ドラマ『MIU404』毎週金曜よる10:00〜10:54
※放送終了
番組サイト:
https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/