京アニ『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 泣ける感動作が今なら過去作も一気見のチャンス
大ヒット上映中の『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式サイトのトップページ。この画像はキービジュアルだが、サイトを開くと、最初に石立太一監督からのメッセージが表示される。ファンは必読

9月18日から上映が始まった『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。2018年1月~3月に放送されたテレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』(原作は、小説家・暁佳奈のデビュー作)から続いてきた大人気シリーズがフィナーレを迎えるということで、テレビシリーズからのファンは当然のように映画館へ足を運び、公開初日から大ヒットしている。


一方、泣ける感動作として高い評価を集める本作が気になってはいるけれど、テレビシリーズなどを観たことがなく、映画館へ行くのを躊躇している人もゼロではないはず。

しかし、大切な人へ想いを伝えることの意味を一貫して描いてきた本シリーズのファンで、公開初日に映画館でマスクをグショグショに濡らしてきた筆者としては、まだ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界に触れたことがない人にも、この機会に劇場で感動を味わってほしいと願っている。

シリーズを未見の人も、Netflixで一気見が可能

大陸全土を巻き込んだ大戦の最中、優秀な戦士として育てられ、感情を持たない兵器のように戦い続けた少女ヴァイオレット(後に、後見人からエヴァーガーデンという姓を与えられる)は、熾烈を極めた決戦の中、両腕を失ってしまう。その直後、彼女にとって最も大切な存在だった陸軍の上官、ギルベルト・ブーゲンビリア少佐も重傷を負い、生死不明のまま未帰還兵となった。

終戦後、ギルベルトの親友クラウディア・ホッジンズが経営する郵便社(民営の郵便局)で働くことになったヴァイオレットは、誰かの思いを手紙にして届ける「自動手記人形(ドール)」の職に就き、さまざまな依頼者と触れあいながら、その思いを機械仕掛けの義手とタイプライターで代筆。一流のドールへ成長するとともに、戦場でギルベルトから最後に伝えられたが、その時には理解できなかった「愛してる」という言葉の意味も少しずつ知っていく。

劇場版は、テレビシリーズなどの出会いや経験を経て、「『愛してる』も少しはわかる」ようになったヴァイオレットのその後を描いたシリーズ最終作。
その物語を最大限楽しみたい人は、当然、劇場版へと繋がる物語をすべて観た後に映画館へ行くべき。

幸い、9月20日現在、Netflixでは、テレビシリーズ(全13話)と、Blu-ray&DVD最終巻に収録されたOVA(配信タイトルは「ヴァイオレット・エヴァーガーデン:スペシャル」)、さらに昨年9月、劇場で期間限定上映された『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』も配信中。シリーズの全エピソードを一気観することも可能だ。

合計視聴時間423分と書くと長く感じるかもしれないが、見始めてしまえば、おそらくあっと言う間に見終えるはず。時間がない人は、テレビシリーズ(合計299分)だけでも観ておきたい。

さらに、テレビシリーズ公式サイトの「WORLD」ページを読むと、ヴァイオレットらが暮らすライデンシャフトリヒ首都ライデンや、近隣の都市や国家間の関係といった世界観設定や時代背景をより深く知ることもできる。


とはいえ、筆者もテレビシリーズ放送時には、このページをチェックしていなかったので、本編を観るだけでも、物語の理解に困ることはないだろう。

ファンの間で「神アニメの中の神回」とも評されるテレビシリーズ第10話「愛する人は ずっと見守っている」などに泣かされた人に向けては、「映画館では、それ以上に泣くことになるので、ハンカチや替えのマスクなどが必須」という定番のアドバイスしておきたい。

京アニ『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 泣ける感動作が今なら過去作も一気見のチャンス
数量限定の来場者特典は、原作者・暁佳奈 書き下ろし短編小説冊子。3種ランダムの配布で、写真は筆者が受け取った「ベネディクト・ブルーの菫」。表紙、挿絵はキャラクターデザイン・総作画監督の高瀬亜貴子が担当

いきなり劇場版から観ても、楽しむことはできるはず

また、劇場版に興味はあるけれど、しっかり予習するほどの時間はない人も、観るのを諦めるくらいなら、上に記したあらすじ+αくらいの最低限の知識を備えた状態で、映画館へ行ってみてほしいと筆者は思っている。

劇場版公式サイトのキャラクターページには、ヴァイオレットとギルベルトの情報しか書かれていないが、TVシリーズの公式サイトの同ページではヴァイオレットが働くC.H郵便社の仲間たちも紹介。そこにいない主要キャラは、ギルベルトの兄で海軍大佐のディートフリート・ブーゲンビリアくらい。彼が孤児だったヴァイオレットと、ギルベルトを引き合わせたのだ。

以上のような、数分で目を通せる程度の基本情報を押さえておけば、ヴァイオレットを軸とするメインストーリーについては、おそらく楽しむことができる。
当然、「今のセリフ、どういう意味?」「この二人、仲が悪いのはなぜ?」といったシーンもあるが、メインストーリーの流れが分からず、ポカンとした表情で映画館を後にするようなことにはならないだろう。

少佐のことを忘れられないヴァイオレットが、一緒に過ごした日々を繰り返し回想するのはテレビシリーズから変わらない構造。その回想シーンの中で、二人の思いや関係性はしっかりと描かれており、京都アニメーションのクリエイターによる繊細かつ豊かな感情描写や、ヴァイオレット役の石川由依らの熱演も、初めて知るヴァイオレットという女性への感情移入を強く後押ししてくれるはず。

とはいえ、繰り返しにはなるが、テレビシリーズなどを視聴した後に観るのがベストの視聴順。劇場版を先に観てしまうことで、後にテレビシリーズなどを観る時の感動が多少スポイルされる可能性も否めない。

できれば、いきなり映画館へ行くのではなく、筆者らコアなファンが繰り返し映画館へと足を運び(来場者特典もコンプしたい!)、本作をロングランへ導いている間に予習を完遂。
京都アニメーションのクリエイターらが作品に込めた想いを万全の状態で、一緒に受け取ってほしい。
(丸本大輔)

作品概要

大ヒット上映中
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』

(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会