『The Witch/魔女』<梨泰院クラス>のキム・ダミが怪演 血風吹き荒れるバイオレンススリラー
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韓国のアクションスリラー『The Witch/魔女』がNetflixにて配信開始となった。この映画、コテコテのベタを全力でやり抜くハートの強さがあれば、何事もうまくいくことを教えてくれる怪作である。


『The Witch/魔女』主人公はごく普通の女子高生、オーディション番組のおかげで暴力の渦へ……

映画は冒頭から怪しい雰囲気。子供を使った人体実験の白黒写真が次々に映った後、なんらかの研究所から検体の子供が脱走したシーンよりスタートする。研究所の中は血まみれの死体だらけ。追っ手も何人か返り討ちにあっている。なんとか山中を走って逃げ延びた子供は、とある畜産農家の家に拾われる。

10年ほど後、幼少期の記憶を失った高校生のジャユンは、家業の畜産を手伝いながら平凡な学校生活を送っていた。優しい父は家業を続けていたが、牛の値段が暴落したことで家の収入は苦しい。
さらに母が認知症にかかってしまい、一家の家計は火の車である。そんなジャユンに、友人のミョンヒは「賞金が出るし、オーディション番組に出てみれば!?」とテレビ出演を勧める。半ば無理やりオーディションを受けたジャユンだが、あれよあれよという間に予選を突破。番組は全国ネットで放送される。

しかし、その番組を観たのは普通の視聴者だけではなかった。謎の研究所のスタッフたちもオーディション番組を観ており、そこで披露されたジャユンのある特技から、「あれは10年前に脱走したあの子供だ!」と目星をつける。
かくして、平凡な女子高生として過ごしていたジャユンは一転して追われる立場になってしまう。

主演は本作の次に出演したのが『梨泰院クラス』という、現在上り調子の注目株キム・ダミ。『魔女』での彼女は儚げで幸の薄そうな色白の少女、しかし本当は恐るべき能力を持ったキリングマシーンというものだったが、当時新人だったにも関わらずきっちりと難しい役どころを表現。成績優秀な美少女ながら地味でおとなしいという前半と、血風吹き荒れる後半の大暴れとでほとんど別人のようになっている。

ベタで何が悪い! 中二病的カッコよさに自信を与えてくれる快作

しかし「田舎で暮らす親孝行な薄幸の美少女は仮の姿、実は凄まじい能力を持ったバイオニックソルジャー」というのは、あまりにもちょっとベタすぎるのではないかという気もする。というか、実際『魔女』に出てくる要素はめちゃくちゃベタである。

追っ手としてジャユンを追跡する、ジャユンと同じ経緯で生まれた「子供達」は全員黒づくめの服装で身を固め、超人的な身体能力と知力、さらには念力のようなものまで持っている。
追跡チームのリーダー格は英語交じりの韓国語を話すイケメンの戦闘狂で、ヘラヘラ笑いながら人間を殺すサイコキラー。さらに追跡チームには紅一点でナイフ使いの女子がおり、戦闘前には長い髪を後ろでくくるという超カッコいい予備動作まである。

こういう恐るべき異能者に対して、普通の人間のおっさんが火力で頑張るというのも嬉しい。しかもこのおっさん、過去に負傷した右手をずっと黒い手袋で隠している悪のナンバー2なのである。当然単独では異能の子供達に勝てないので、自動火器で武装した部下たちを操り、銃で劣勢をひっくり返そうとする。異能を持つ者たちの戦いに介入するため、ただの人間が取れる手を全部使って戦う年配キャラ……。
コッテコテである。好きだけど……。

戦闘中の演出もコテコテだ。もうもうと煙る神経ガスの中に「スッ……」と姿を消す人影。「やったか……?」みたいな間。異能者同士の戦いでは壁を殴れば壁面のコンクリートが砕け、相手を蹴飛ばせばドアを破って向こうの部屋まで吹っ飛んでいく。
並の人間が群れで銃を撃ちまくってようやく勝てるか勝てないかという、異能者たちの強さのバランスもちょうどいい。

だいたい「なんか脳みそとか遺伝子とかをいじってすごい能力を持った子供を人工的に作る、悪い研究所」みたいな土台の設定がもうすごい。しかも所長はなんかあるとすぐに「本社に取り立ててあげる」みたいなことを言う金持ちの女性研究者である。こんなにわかりやすく悪い研究所、ちょっと昨今ではお目にかかれない。

『魔女』が凄まじいのは、これらのベッタベタな要素から一歩も逃げず最後まで全力でやり通した点だ。『魔女』に出てくるこれらの要素は、言っちゃなんだが「中二病」として十把一絡げにされ、どうかすれば恥ずかしいものとして片付けられてしまうようなものである。
しかしこの映画は中二病要素から一切逃げたり引いたりせず、「そういうもの」としてきっちりと描き切った。大の大人がそれなりのお金をかけて作る映画で、である。それなりに胆力が必要だったのではないかと思う。

おれは「中二病」というのは嫌な言い回しであると思っているし、中二病という単語のおかげでこの世に生まれなかったフィクションは実はかなりあるのではないかと思っている。しかし『魔女』は逃げなかったし、ちゃんと真面目にやればコテコテの設定でもしっかり面白くなるということを身をもって示した。これは割と勇気の出る事実なのではないかと思う。黒づくめの異能者集団とか、悪い研究所とか、そういうのは堂々とやってもいいのである。なんと頼もしいことだろうか。

『魔女』を見た人ならご存知だろうが、この映画は続編を作るのが前提ということになっている。しかし、先日この続編製作がストップし宙ぶらりんになっているという悲しいニュースが入ってきた。諸々事情もあるのだろうが、なんとかしてもう一度、ベタ要素山盛りのコテコテなバイオレンススリラーとして帰ってきてほしい。「悪い奴がヘラヘラしてると嬉しい!」「悪の研究所が出てくると嬉しい!」「異能の中で頑張る普通のおじさんが出てくると嬉しい!」という気持ちをいつまでも持ち続けている人間にとって、間違いなくこのシリーズは勇気を与えてくれるものなのだから。
(しげる)

作品情報

Netflix
『The Witch/魔女』
2018年/2時間5分

『The Witch/魔女』<梨泰院クラス>のキム・ダミが怪演 血風吹き荒れるバイオレンススリラー
画像はNetflix配信ページより

出演/キム・ダミ、チョ・ミンス、チェ・ウシク、パク・ヒスン、コ・ミンシ、チェ・ジョンウ、オ・ミヒ、キム・ビョンオク
監督/パク・フンジョン
脚本/パク・フンジョン
配信ページ:https://www.netflix.com/title/81071892

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