智彦も苦悩
吟(松井玲奈)の夫・智彦(奥野瑛太)も軍人の誇りを捨てることができず、次の就職先が見つからず苦悩していた。古山家、関内家、共に、戦争で亡くなる人がいなくて関係者ばかりが亡くなった。裕一や音や、智彦には残された者としての苦悩がのしかかる。主人公たちは、生き残った者が、その先、どう生きていくかを描こうとしている。ドラマを観ている人もいわば生き残った者だから、このテーマは他人事ではない。
池田(北村有起哉)は「戦争の責任をすべて背負うおつもりか」と裕一に問う。モデルの古関裕而は、91話のレビューにも書いたように、そこまで言及していない。むしろ池田のモデルの菊田一夫のほうが自分のしたことを総括しようとしている。裕一は主人公として何もかも背負わされていて大変だ。
個人的な好みで言えば、戦犯にされることに怯え、過去に蓋して、自分のできることとして鎮魂の曲を作り始める、そんな人間味のほうを見たかった。それこそ、戦場を描く以上に朝ドラ向きではないだろうけれど。窪田正孝の演技にはどこか常に堂々としない申し訳なさが残っているのは、その線を残しているようにも見える。だからわざわざそこに踏み込まずとも、このままでいいのかもしれないと思う。

復活、ミュージックティ…
裕一がくよくよしている一方で、音は歌を再開する。復活した喫茶バンブーの客のひとり・ベルトーマス羽生(広岡由里子)を紹介されて、歌を始める。音のモデル・金子は、ベルトラメリ能子という人物に師事し、戦争中も歌っていたそうだ。裕一と音は、モデルの状況を見るに、音楽家の夫婦として優雅に暮らしていたのだろう。だからこそ、生き残った彼らが何をするかが問われるのだと思う。
彼女の知り合いとして、“ミュージックティ”こと御手洗(古川雄大)が占い師になって現れた。ひげを生やし、すっかり別人になった御手洗。大河ドラマ『いだてん』で薬師丸ひろ子が演じたマリーの同業者になったわけだ。