JIRO|バンドの砦を守る漢 鉄壁ベーシストの心の変化<GLAY特集>

軸ブレないJIROの魅力

10月17日(土)、誕生日当日。札幌ドーム公演の会場をさいたまスーパーアリーナへと変え、2DAYS公演として実施する、との前日の発表を踏まえ、JIROは「ドーム公演がすべて中止となりとても悔しいですが、今できることを精一杯やりたいと思ってます」とレギュラーラジオ番組『BUGGY CRASH NIGHT』(FM802)のTwitter公式アカウントに投稿した。

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JIRO|バンドの砦を守る漢 鉄壁ベーシストの心の変化<GLAY特集>

メジャーデビュー25周年イヤーの2020年、コロナ禍の影響を大きく受けながらも、GLAYはメンバーそれぞれに前向きな発信を続けている。


‘88年、郷里・函館でTAKUROが幼馴染であるTERUに声を掛けて誕生したGLAYに、やがてHISASHIが加入。高校卒業後に上京し、元々は後輩バンドの一員として同じく函館から上京していたJIROを迎え入れ、現在の4人が揃ったのは’92年のことである。

以来、軸がブレることなく最も変わらないメンバーがJIROであり、ある部分で最も変わったのもJIROではないか? そんな2つの観点から彼の魅力を紐解いてみたい。

硬派な職人気質でストイックな鉄壁のベーシスト

JIROは、緻密なタッチで盤石なリズムを刻む鉄壁のベーシスト。長年にわたりサポートを務めるTOSHI NAGAIのドラムと共に、バンドのグルーヴを牽引する要となっている。

ステージでは一歩後ろに佇んで全体を俯瞰しながらサウンドの土台を守りつつ、ときおり前へ歩み出れば絶叫に近い大歓声を巻き起こす。

TAKUROが冗談めかして「JIROにだけ特別な光が当たっている!」などとボヤくこともある人気者だが、当人は自己陶酔的なナルシシズムとは無縁。
‘90年代のポップなヴィジュアルイメージを元に先入観を持っていると完全に裏切られることだろう。JIROは硬派な職人気質でストイック、漢の中の漢なのである。


GLAYが伸び伸びと音楽的実験を楽しみながら、あくまでもロックバンドとして存在し続けることに成功しているのは、JIROの厳しいジャッジが砦となっているのではないかと推察する。

GLAYを会社にたとえ、TAKUROが名実ともに社長であるならば、JIROはいわば社内監査役。一つ一つの楽曲、活動の質を精査し、「ロックバンドとしてGLAYが守るべきブランドイメージにかなうかどうか?」「外からの見え方として問題ないか?」といった判断を冷静に的確に下しているように思える。

JIRO|バンドの砦を守る漢 鉄壁ベーシストの心の変化<GLAY特集>

同じことを繰り返すのは退屈でクリエイティヴではない、という視点も人一倍厳しく持っている印象だ。
the pillowsの山中さわおらと結成したスリーピースバンドTHE PREDATORSとしての活動も骨太で、GLAYきってのロック番長らしさを内外に示してきた。

ライブでは、メンバーの意見を取り入れつつ、セットリストの取りまとめをするのもJIROの役割。MCではTERUに鋭いツッコミを入れるクールなキャラクターが定着しており、それゆえにちょっとした優しさが垣間見えるとファンは歓喜、ツンデレぶりが愛されてもいる。

ファンと同じ時代を生きる人間同士として向き合うように

JIROが初めて作曲を手掛け、序盤はヴォーカルも担う「SHUTTER SPEEDSのテーマ」は、ライブのボルテージを瞬時に上げる起爆力のある曲。ソングライティングの振り幅自体は広いものの、アップビートのロックナンバーを得意としている印象が強く、自作・他作問わずサウンド重視で、歌詞を音の一部とみなしている感も強かった。

しかし、近年は大きな変化が見られ、その象徴としてぜひお聴きいただきたいのが「lifetime」である。10月3日(土)に開催され、JIROが参加したTERU企画立案による配信ライブシリーズ『LIVE at HOME vol.4』では、同曲をクラシックアレンジで披露して大きな感動の中締めくくった。



徒歩を思わせるミディアムテンポの朗らかな曲調に、ライブで会えることを楽しみに各地から集ってくるファンに対しての想いをテーマに率直な言葉で綴った歌詞。ファンの一人ひとりにはライブ前後に暮らしがあるのだ、ということに想いを馳せる、温かい共感の眼差しが伝わってくる名曲である。

そこに反映されているのは、怒涛の活動に忙殺されていた‘90年代には芽生えようのなかった感情。ステージに立つ側・それを追うファンという図式ではなく、同じ時代を生きる人間同士として向き合うようになった、JIROの心境の変化を感じ取ることができる。そして奇しくもそれは、コロナ禍の時代に寄り添うメッセージとなっていて、心に深く染み渡ってきたのだった。

脱退を思い詰めたことも……

売り上げとしてはダブルミリオンを記録し内容も傑出していた‘99年のアルバム『HEAVY GAUGE』を携えたツアーでJIROは深く苦悩し、脱退を思いつめるほどの精神状態に陥っていたことを明かしている。宿泊先の部屋のドアからそっと差し入れられた、ツアー続行よりもJIROのメンタルを思いやるTAKUROからの手紙によって、すんでのところで回避されたのだが……。


時は流れ、2019年には復刻版『HEAVY GAUGE Anthology』をリリースし、リベンジツアーも開催。苦い想い出をポジティヴな方向に上書きした。これはインタビューで本人が語った言葉やそれに基づく推察も交えた見解だが、歳を重ね、様々な経験を積み重ねると同時に、輝かしい活躍の影にあるそういった暗黒面をも受け止めて応援し続けてくれたファンの存在を実感し、JIROの中にはおそらく、深い感謝と信頼の念が育まれていったのだろう。そして、それを表に出すことも近年増えて来たように見受けられる。


忘れられないのは、2014年の“TOHOKU EXPO”で演奏しながら拭うことなく流していた涙と、台風に見舞われつつも開催にこぎつけた2018年の函館野外ライブのラスト、満面の笑みで放った「愛してるぜ!」の絶叫。後者の現場では、“デレ”の突然の過剰供給に客席は悲鳴の嵐。
JIROの変化はメンバーやファンを驚かせ、喜ばせている。

この連載レビューでTAKUROを海、TERUを太陽、HISASHIを星だとたとえてきたが、JIROをたとえるなら山だろうか。ちょっとやそっとのことでは動じず、どっしりと構えてそこにいる大黒柱。しかし、季節によって色を変え、多彩な姿を見せてくれもする、雄大な自然そのもののような頼れる存在だ(実際、近年はJIROが登山を好んでいることから連想するイメージでもある)。

4人の集合インタビューを行えば最も発言数が少なく、周りに合わせて心にもないことを言ったり愛想笑いしたりすることも絶対にない。だからこそ、発せられている言葉はすべて裏表のない本心だと信じることができる。


また、誰に対しても真摯な態度で分け隔てなく、こちらが恐縮するほどきっちりとした挨拶をしてくれる清々しい紳士でもある。おかしな言い方に聞こえるかもしれないが、JIROがいる限り、GLAYはどんなに自由に羽目を外そうと、道を踏み外すことはないはず。そう信じられる、GLAYが内蔵する安全装置なのである。
(大前多恵)

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ライブ情報

【GLAY DEMOCRACY 25TH “HOTEL GLAY GRAND FINALE” in SAITAMA SUPER ARENA】
会場:埼玉・さいたまスーパーアリーナ
2020年12月19日(土)開場15:30 / 開演17:00
2020年12月20日(日)開場14:30 / 開演16:00

チケット:S席 ¥9,900、A席 ¥6,900、着席指定S席 ¥9,900(各税込)
※「着席指定S席」はHAPPY SWING会員、GLAY MOBILE会員の方を対象に、枚数限定で販売
※3歳未満の入場不可、3歳以上チケット必要

問い合わせ:ウドー音楽事務所(TEL. 03-3402-5999 / 月・水・金12:00-14:00)
詳細:https://www.glay.co.jp/live/