『おちょやん』第20週「何でうちやあれへんの?」

第96回〈4月19日(月)放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』一平が灯子と男女の仲に!? 一平のモデル・渋谷天外は若い女優と不倫して離婚
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

ついに来た、夫婦の危機

一平(成田凌)の父代わりのようだった千之助(星田英利)が劇団を去って1年……。名優不在の寂しさが一気に吹っ飛ぶような出来事が……。千代(杉咲花)に最大(?)の試練が襲いかかる。


【前話レビュー】千之助をひたむきに掘り下げて演じた名優・星田英利の功績

ついに来た、夫婦の危機。

「堪忍」

一平が千代に頭を下げた。『おちょやん』最終回(5月15日)まで残り4週。千代の行く末はどうなるのか。

鶴亀新喜劇が旗揚げして1年。一平がスランプに陥って、新作が書けず、旗揚げ第1作の『お家はんと直どん』の再演をすることになった。
でも灯子(小西はな)は出ない、劇団を辞めるとまで言う。灯子をかわいがっていた千代は彼女の話を聞こうと追いかけようとすると、一平が「おれが行く」と出て行った。

うどん屋・岡福で千代は熊田(西川忠志)に相談。自分が必要とされているのか不安になったのではないかと熊田は推測し、引き止めるように千代に言う。きっと若くてかわいい灯子は新喜劇のアイドル的に人気があるのだろう。

「一回開き直てしもたら楽なんやけどなあ」と宗助(名倉潤)

「旦さんが言いはると説得力おますなあ」と千代。

いてもいなくても変わらない役割を背負った悲哀を名倉潤がうまい具合に笑いにもっていく。だがしかし、灯子の場合、必要とされてないどころではないようなのである。

祠の前で一平と灯子が語り合っている。

「一平さんとこないなことになってしもうて」(灯子)

朝ドラ『おちょやん』一平が灯子と男女の仲に!? 一平のモデル・渋谷天外は若い女優と不倫して離婚
写真提供/NHK

内容からして、ふたりには男女の関係がありそう。千代を悲しませたくないので、自分がこのままいなくなればすむと思いつめている灯子。
とぼとぼ家に戻ると、千代が花かごを持って灯子を訊ねて来た。

どこかでいつも見てくれている花かごの人にいつも救われたと言うと、「私にはそんな人いてへん」と返す灯子。そこで千代も灯子のことを見ていると伝えるが、「あんたの顔なんて見とうないねん」と拒絶する。

灯子は自分を嫌って辞めようと思っているのではないかと、座長の妻失格だと自責の念にかられ、「堪忍」と一平に謝る。そこへ、寛治(前田旺志郎)が怪我をして帰ってくる。千兵衛(竹本真之)が一平と灯子の間になにかあったのではと下世話な勘ぐりをしたため喧嘩になったのだという。
見れば、一平が灯子を追ったとき、千兵衛の「ん?」という表情が映っている。千代が座長だから劇団員の家に行くことだってあるだろうと言うと、一平は「堪忍」と土下座する。

シニカルな現実物語る展開

一平が若い劇団員と不倫したと思わせて、あとで「勘違いでした♪」的な展開はドラマによくあること。この段階で決めつけるのは早計ではないかと思うものの、千代のモデルである浪花千栄子の歴史を知ると、お気楽にかまえてはいられない。一平のモデルの渋谷天外と若い女優が不倫したため離婚している。そのため、『おちょやん』がはじまったときから、このヘヴィなエピソードが描かれるのか注目されていた。

モデルのいる朝ドラの楽しみは、ウイスキーを作る(マッサン)、カップラーメンを作る(まんぷく)、ヒット曲をつくる(エール)など、有名な出来事が描かれることである。
それを観て視聴者はカタルシスを得たくて、いまかいまかと見続けるのである。『おちょやん』の場合、カタルシス(浄化)ではなく、夫の不倫からの離婚というカタストロフィ(破滅)なのだが、それはそれで視聴者の好物であるともいえる。

千代は蚊帳の外に置かれながら気づかず、ひとり相撲を続ける。面白いのは、これまであまり主人公に見えなかった千代が、このひとり相撲の点において、自分の物語の主人公になっていることだ。自分が一平と灯子の物語の脇役になっているとは思ってもいない。

「私は座長の妻として働いている」「私は灯子の面倒をよく見てきた」「私が灯子が退団するきっかけをつくってしまった」、全部、千代が主語になっていて、灯子の気持ちも、一平の気持ちにも気づけていない。
千代の「堪忍」と一平の「堪忍」のズレが悲しく響く。

朝ドラ『おちょやん』一平が灯子と男女の仲に!? 一平のモデル・渋谷天外は若い女優と不倫して離婚
写真提供/NHK

灯子に持って行った花かごも、いつもの花かごの人からのプレゼントなのか、灯子のために買ったのか。花かごを持って行って、まず自分の思い出語りして、花かごを渡す素振りもない。うちが花かごの代わりや、みたいに言われても、灯子も困ってしまうだろう。この花かごの所在なさと千代の立場が重なって見える。そしてそれが、いてもいなくても変わらない宗助とも重なって見えるのである。

千代は、この行為の無神経さに気づいて反省したのかもしれないが、よくまあこんないやな展開を思いつくなあとそこに感心する。なんという悲喜劇。千代はその主人公なのである。と同時に、それは千代に限ったことではなく、人は誰でも他人から見たら脇役というシニカルな事実を物語っているようでもあり、なんともすごいところに光を当てたドラマだなあと重ねて感心した。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■名倉潤(岡田宗助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■星田英利(須賀廼家千之助役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■渋谷天笑(須賀廼家天晴役)プロフィール・出演作品・ニュース
■大川良太郎(漆原要二郎役)プロフィール・出演作品・ニュース
■松本紀代(石田香里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■藤山扇治郎(須賀廼家万歳役)プロフィール・出演作品・ニュース
■小西はる(朝日奈灯子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami