日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
イラスト/ゆいざえもん

※本文にはネタバレがあります

人間ドラマに比重かかる『日本沈没』第2話

今週も日曜劇場『日本沈没―希望のひと―』(TBS/日曜よる9時〜)放送前に地震があった。今回は10月16日(土)夜、京都府南部が震源で、最大震度は3。ドラマは関東沈没の話だから関西の地震は遠い話……と思いきや、ドラマのタイトルは『関東沈没』ではなく『日本沈没』である。
目下、地震博士・田所(香川照之)と環境省の天海(小栗旬)は関東のことを心配しているが、ゆくゆくは日本中に不安は広がるだろう。繰り返すが、タイトルは『日本沈没』なのだ。

【関連レビュー】初回視聴率15.8%の好発進 「小栗旬の求心力」など『日本沈没』が注目集めた要因は5つ

裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

田所の主張する「関東沈没」説を世良教授(國村隼)が否定したその矢先、関東沈没の前兆(日之島の水没)が起こった。にもかかわらず世良は関東沈没など起こらないと淡々としている。

天海は気になってならないが、世良に歯向かうと危険だと大学の同期で官僚仲間の経産省エネルギー開発局の常磐(松山ケンイチ)は心配する。案の定、天海に関する悪い記事が週刊誌に出た。天海はたちまち謹慎になり、未来推進会議からも外されそうになる。


日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

科学の知識を総動員してあり得るかもしれない未来を描くSFと『日本沈没―希望のひと―』はどこか違う。科学物語よりも人間ドラマに比重がかかっている。それも裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦。今、エンタメで最も好まれるジャンルである。東山首相(仲村トオル)里城副総理(石橋蓮司)の対立によってそれぞれの派閥が互いの足を引っ張り合っている。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

環境省の中に天海を貶める者が存在する。
危うく今の地位を脅かされそうになる天海だが、キレのいい頭脳を駆使してうまく立ち回る。首相の覚えが悪くなりそうなところ首都機能分散説に賛同し、みごとに形成逆転する。それもこれも関東沈没説を検証したいから。海底で温かい水に巻き込まれた経験が天海に警戒心を植え付けていた。

天海はあの手この手を駆使して海保の海底データを入手するもそれもすでに改ざんされていた。さらに上に手を回して得たデータにはスロースリップの痕跡がまざまざと記されていた。
第1話で潜水艦わだつみの中で具合が悪くなって調査の途中で引き上げさせた国土交通省の安藤(高橋努)が世良に命じられてデータを改ざんしていたことを天海は見抜く。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

天海夫婦にまさかの離婚話

人間ドラマその1は世良の存在。「私の指示が総理の指示だ。そう言われて……」と歯を食いしばりながら語る安藤をみんなが白い目で見る。指示した世良はメガネを外して、ん〜〜〜とすっとぼけた顔。「ただの可能性でしかない」「1%の可能性を100%の不安にしてしまう」と言い訳し、なかったことにするのが最良の選択であると主張する世良。



天海は、偽りのデータを持ち出した者を否定した世良がデータ偽装したのだから学者の資格を自ら放棄したと指摘する。
ここで世良を問い詰めている天海はまるで探偵ものの主人公(つまり探偵)みたいであった。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

探偵ものだとここで世良が床に膝から崩れ落ち、参りました感を出すのだが、世良はまったくめげずに「ふたりで話さないか」と天海を連れて席を外し、1割の危険性を大事(おおごと)にすることはないと自論を述べる。

こういう人ってきっと何か問題が会った時、自分だけは逃げられると思っているんだろう。そしてそうやってこれまでも危険な目に合わなくても済んだ人たちが被害に遭ったりしているのだろう。暗澹たる気持ちになる。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

人間ドラマその2は、天海と妻の関係。
世良に楯突いたことでスキャンダル記事をでっちあげられて謹慎を申し渡されヒマになった天海は別居中の妻・香織(比嘉愛未)に電話する。天海が仕事熱心なあまり、ふたりは1年半前から別居していた。ふたりの会話は9年前、香織が妊娠した時を振り返る。

大臣が変わった途端3年ががりで進めてきた企画を白紙にされたとぼやく天海に香織はカレーを作って食べさせる。「ピンチのときこそ頑張るあなたは好きだったわよ」「けっきょく最後にはなんとかしちゃう人だから」と励ます香織。久しぶりにカレーが食べたいと持ちかけると「離婚しましょう」と切り出されてしまう。


環境省のエリートとはいっても、内面は仕事がヒマになったり自信がなくなったりすると頼ってくるなんて自分勝手過ぎることに気づけない成熟していない人物なのであるという人間ドラマ。やたらいい音でウイスキーを飲んでいる天海は小栗旬の出ているCMのようであった。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

世良も天海もじつに人間がちっちゃい。人間臭くて味があると言うことも可能だが、できればもう少しクールな科学の話、あるいは『シン・ゴジラ』のように未曾有の災害が起こった時に組織がどれだけ機能的に動くか、そういうものを徹底した取材を元に叙事的に見せてほしかった。でもエピソードの数々がやけに情緒的な、しかも類型的なものばかりなのだ。

人間ドラマその3は天海を追う週刊誌記者の椎名(杏)が天海の実家で取材した出来事。漁港のある町で母・佳恵(風吹ジュン)ひとりで生活している。父(吉田鋼太郎)は漁師で、息子の大学費を稼ぐため台風が近づいてるのに無理して漁に出て命を落とした。朝ドラ『おかえりモネ』(NHK)の亮(永瀬廉)のエピソードの不幸バージョンである。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

小栗旬といえば吉田鋼太郎。名優のはずの吉田が全然漁師っぽくなく、ただ声が大きい派手な人――演劇人にしか見えない。天海の地元は高齢者の多い寂しい町になってしまっている。天海が首都機能分散説に賛同しているのはそのせいなのだろう。

日曜劇場『日本沈没』第2話 データ改ざん、でっち上げ記事…裏切りが裏切りを呼ぶ騙し合い合戦
(C)TBS

椎名は「正しいことをした人間や弱い立場の人間が理不尽な思いをする、そういうのが私は許せないんです」と言う。なんのひねりもないド正論。なにもかもがベタ過ぎる2話。

ラストは田所から「前もって君には伝えておこう」とさらに不安なことを伝えられた天海の真っ黒な絶望の瞳。ところが予告のテロップは「崖っぷちの第3話」。あまりに軽い文言に別の意味で不安を感じて震えた。でも視聴率は好調。あまりにリアルだと受け止めることが難しいテーマだからこれくらいがちょうどいい塩梅なのだろう。
(木俣冬)

Paravi
▲『日本沈没―希望のひと―』全話・Paraviオリジナルストーリー配信<2週間無料>

番組情報

TBS日曜劇場
『日本沈没―希望のひと―』
毎週日曜よる9時〜

出演:小栗旬 松山ケンイチ 杏 ウエンツ瑛士 中村アン 与田祐希(乃木坂46)/國村 隼/小林隆 伊集院光/風吹ジュン 比嘉愛未 宮崎美子/吉田鋼太郎(特別出演)/杉本哲太 風間杜夫 石橋蓮司 仲村トオル 香川照之

原作:小松左京「日本沈没」
脚本:橋本裕志
音楽:菅野祐悟
主題歌:菅田将暉「ラストシーン」(Sony Music Labels Inc.)
演出:平野俊一 土井裕泰 宮崎陽平
プロデュース:東仲恵吾

製作著作:TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/nihon_chinbotsu_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami