タイで5月22日、軍によるクーデターが起きた。インラック前首相の失職によりタクシン派と反タクシン派の対立が表面化し、事態の収拾に乗り出した軍がそのまま全権を掌握した形だ。

26日にプラユット陸軍司令官は、自らを首班とした軍事政権「国家平和治安維持委員会」の統治についてもプミポン国王の承認を得ている。


 タイでは2006年にもクーデターが起きたこともあり、住民も慣れた様子で、兵士らと記念撮影する姿まで見られたという。私たちがイメージする「クーデター」とはどうも雰囲気が違うと感じる人も多いのではないだろうか。タイで何が起こっているのかを知るために、これまでの歴史を振り返ってみたい。


 1932年に立憲君主制に移行して以降、タイでは実に19回ものクーデターが起きている。それらのクーデターは基本的に以下のような流れで起こっている。


 まず、現政府に対する民衆の不満が爆発しデモや暴動が起こる。今回で言えば、タクシン派インラック首相が親族の多くを政府要職に登用したことや、貧富の格差が是正されないことへの不満が引き金だろう。


 次に、そうした暴動からクーデターにつながる。今回は、タクシン派に我慢ならなかった軍が、タクシン派と反タクシン派の対立激化による治安悪化を収拾するためという名目でクーデターに乗り出した。そしてクーデターを起こした側が政権奪取。今回のクーデターが現在この状態である(26日に軍事政権「国家平和治安維持委員会」の統治を国王が承認)。


 最終的には、国王の「民主主義を尊重」という意向にしたがって、総選挙を行い新しい政府が出来る。しかし、いずれ新しい政府にも不満が募り再びクーデターが起きる。タイではこうした流れを実に80年間繰り返しているのだ。


 しかしなぜそんなに簡単に繰り返されるのか。その理由はタイの独特な国家システムと未成熟な民主主義にあるだろう。


 タイは立憲君主制のため、国王が国家元首であり同時に国軍の統帥だ。その下に首相をはじめとする政府が存在し、その政府は総選挙によって選ばれる民主政治となっている。


 プミポン国王をはじめとしたタイ王室に対する国民の支持は非常に強く、同時に国王直属である軍に対しても信頼が厚い。そのため、国民の政府への不満が募ると、それを仲裁するような形で軍がクーデターを起こしてきたのだ。国民は政府以上に王室と軍に信頼を寄せている人が多いため、兵隊と記念撮影するという不思議な場面も生まれてくるのだろう。


 しかしこのやり方は、タイの民主主義が毎回ゼロに戻ってしまうという問題をはらんでいる。軍は26日、タクシン派からの反発を避けるためインラック元首相を解放したが、対立の火種は燻ったままだ。

また、今回はプラユット陸軍司令官がこのまま暫定的に首相に収まり民政移管への動きはまだ見られない。今までのクーデターよりも収束への道のりが見えにくく、今後も注視が必要だろう。(編集担当:久保田雄城)

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