
「べっ甲」は古くから世界中で愛されてきた希少な素材。日本でも伝統的な工芸品として、また装飾品として長い歴史を刻んできた。そんなべっ甲細工の伝統を享和2年(1802年)から200年以上も守り続ける「鼈甲石川」の七代目、石川浩太郎氏が新たに立ち上げたブランドが「江戸鼈甲屋」。代々受け継がれた技術を用いながら、べっ甲製品が持っていた本当の価値を生かすというコンセプトのもと、斬新なプロダクトを生み出しているが、そんな芸術的な工芸品のなかでも、ひと際目を引くのが「鼈甲腕時計」だ。
■ひとつ完成させるのに1カ月を要する芸術品
本物のべっ甲だけが醸し出すとろりとした色あいと、天然素材ならではの温もり。べっ甲のすべてを知り尽くした職人だからこそ生み出せる品格のある佇まいは、まさに伝統と革新が同居したファッション性を秘めている。
腕時計の仕様は、縦が約3.5 cm×横3.5 cm(リュウズ含まず)。厚さは0.9 cmほどで、ベルト、ベゼルに天然べっ甲が使われている。価格は税別12万2000円だ。
この芸術品ともいえる腕時計に使用されているべっ甲の加工には、非常に多くの工程が必要で、ひとつの腕時計が出来上がるまでに約1カ月かかるという。べっ甲は一枚の甲羅を切り出して製品になるものが少ないため、数枚を張り合わせて厚みをもたせている。その際に接着剤の類はいっさい使用しない。甲羅自体に膠(ニカワ)成分が含まれているので、熱と水と圧力をかけることにより甲羅同士を融合させるのだ。