4月11日(日)に名古屋の日本ガイシホールで開催されたSKE48松井珠理奈の卒業コンサート。最後のスピーチで松井珠理奈が口にしたのは、心にずっと秘めていた2018年の総選挙の話だった。
全編自分自身のプロデュースで行った卒業コンサートに松井珠理奈はどんな想いを込めたのか。SKE48のキャプテンであり劇場支配人でもある斉藤真木子が語るあの夜のストーリー。(3回連載の2回目)

【写真】ファンもメンバーも涙、松井珠理奈卒業コンサートの模様【10点】

――高柳明音さんの卒業コンサートはたしかに「祭り」が下地にあるコンサートでした(※インタビュー前編参照)。一方の松井珠理奈さんの卒コンは「祭り」とは違う雰囲気でした。いかがでしたか?

斉藤 そうですね。涙の量は明音ちゃんの卒コンの倍以上でした。
一番感じたのは、珠理奈さんがステージの中央にいる演出が多いなということでした。珠理奈さんって、ほとんどの曲をセンターで歌ってきたわけですけど、センターって円の中心じゃなくて、一番前じゃないですか。誰とも目を合わせることがなくて、みんなに背中を見せるポジションです。だけど、卒コンだけはそうじゃなくて、みんなの真ん中にいたい。みんなに見てもらいたい。温もりを感じたい。
そう、温もりが珠理奈さんには必要だったんじゃないかってすごく感じました。珠理奈さんはセンターだったし、早くからAKB48の選抜に入ったりして、人一倍孤独を感じることが多かったと思うんです。誰かに頼ればいいのに、それを潔しとしなかった人です。そんな人の最後の願いだったんじゃないかな。

――珠理奈さんは最後のスピーチで、2018年の選抜総選挙の話をしました。開票日前日のことを話していましたが、その日を思い出してもらえますか?

斉藤 数日前から珠理奈さんの様子が違っていたことをメンバー一同、気にかけていました。
これで本番をちゃんと迎えられるのかなって。前日のリハが始まるとなったけど、珠理奈さんはなかなか出てきませんでした。他のグループのメンバーも名古屋(ナゴヤドーム:現バンテリンドーム ナゴヤ)に集まってくれているわけですから、SKE48として申し訳ない気持ちもあります。できれば珠理奈さんにはリハに参加してほしいけど、私たちとしても慰めるのがいいのか、そっとしておくのがいいのか、わかりませんでした。

 珠理奈さんがそういう状態になってしまったのはいくつかの理由があったと思うけど、私もすべて理解しているわけじゃありません。でも、大きな理由のひとつは、開票イベント前に行われるコンサートにおけるSKE48の出演の仕方でした。


――ようやく地元で総選挙が開催できるのに、SKE48の楽曲は数曲でしたね。

斉藤 珠理奈さんは自分のことで悔しがっているわけではなくて、SKE48のことで悔しがっていました。珠理奈さんにはSKE48の出演の仕方が納得できなかったんです。

――誰が「呼びに行こう」と言い出したんですか?

斉藤 というよりは、様子を見に行こうという感じでした。あわよくばリハに連れていけたらいいなと思って。珠理奈さんがいたのはナゴヤドームの舞台裏にある、6畳くらいの小部屋でした。
コンクリートばりの色のない部屋の隅で、珠理奈さんは一人で泣きじゃくっていました。メンバーみんなで珠理奈さんを迎えに行ったけど、その部屋に全員入ることは無理なので、5~6人でその小部屋に入りました。周りを囲んで、珠理奈さんの話を聞きました。でも、「悔しい」とか「なんでSKE48はいつも……」という言葉しか出てこない。「うん、うん。そうですよね」と話を聞くことしかできませんでした。
後輩たちも後ろから眺めていたと思うけど、あんなに弱々しい珠理奈さんの姿を見るのは初めてだったはずです。きっとショックだったでしょう。後輩が知っている珠理奈さんは、いつも前で元気にグループを引っ張っている姿ですから。「見てはいけないものを見ちゃった……」という心境だったはずです。SKE48として活動することに不安を感じたメンバーもいたかもしれません。

 翌日、珠理奈さんは総選挙で1位になりました。でも、しばらくの間、お休みすることになりました。あの日のことは、どのメンバーも口にすることはありませんでした。でも、お仕事は続いていきます。夏に入るとイベント、ライブの予定がたくさん入っていました。どんなに汗をかいて踊っても、どんなにファンの方の笑顔を見ても、あの日のことを思い出す瞬間がありました。あの年、私たちは気持ちの晴れない夏を過ごしました。

 もしかしたら、珠理奈さんはあの日のことをもう覚えていないんじゃないかとさえ思っていました。だから、私たちももう忘れたほうがいいんじゃないか。メンバーの間では、あの日のことはどんどん風化していきました。でも、風化しきれるものではなくて、どのメンバーの心にもトゲのように刺さったままでした。

 そのトゲを最後のコンサートで珠理奈さんはすっと抜いてくれました。「えっ、あのことを話すの、珠理奈さん? それはズルいよ~!」と思いました。私はその話を墓場まで持っていこうと思っていましたから。珠理奈さんがその話をし始めた時、あの瞬間のことがフラッシュバックして、泣きだすメンバーが何人もいましたよね。でも、メンバーだけの秘密だと思っていたことをファンの方の前で話せるほどになったんだとも思いました。

 普通、卒コンのスピーチって、今までの道のりとかファンの方への感謝を中心に話すじゃないですか。でも、珠理奈さんは違いました。メンバーへの感謝を中心に話したんです。珠理奈さんの頭の真ん中にあるのは、「自分」じゃなくて、いつも「SKE48」なんです。そのことがスピーチにも演出にも表れていたと思います。

【インタビュー前編】SKE48斉藤真木子が語る、最後の同期・高柳明音の卒コン「もう12年間は戻ってこないんだなと」はこちらから