2011年の結成時から『日経エンタテインメント!』や『月刊ENTAME』など各誌で乃木坂46を取材してきた著者が書く乃木坂46コラム。今回は秋田出身の2期生、鈴木絢音の強さについて。


乃木坂46の2期生・鈴木絢音は飛行機、ガンプラなどニッチな趣味を持ち、泉鏡花、柳田國男、伊丹十三、中島らもの著作を読み、2017年12月に放送された『乃木坂工事中』「センス見極めバトル!」では『ワタクシハ』(羽田圭介)のタイトルだけで想像した「書き出し」小説が絶賛されるなど、乃木坂46のなかでも感性が豊かなメンバーとして知られている。
 しかし、鈴木はブログでも番組でも多くを語ることを好まなかった。「シンプルであるほど美しい」という彼女なりの理念があるのかもしれない。
 そんな鈴木が2017年12月頃から「選抜に入りたい」と口にするようになった。その自覚が芽生えたのは、選抜のアンダーとして歌番組に出るようになり、加入当初から仲がいい堀未央奈がおかれている孤独を目の当たりにしたから。2期生で安定して選抜に入っているメンバーは堀と新内眞衣だけという環境を変えたいと思ったのだ。


 2017年12月13日~18日に行われたアンダーライブ近畿・四国シリーズでは、鈴木の意識改革と連動するような出来事が起きる。アンダーアルバムに収録される『自惚れビーチ』のセンターに立ったのだ。鈴木の「控えめ」というイメージとは対照的な、ポップで賑々しい曲を溌剌と歌う姿には、「ギャップの女王」と名づけたくなる魅力があった。

 前回の九州シリーズ(2017年10月14日~20日)が体調不良のWセンター(中元日芽香北野日奈子)がシリーズの中で葛藤を乗り越えて立ち上がるという「シリアス」な公演だったこともあり、近畿・四国シリーズはエンタテインメント色が強い公演に振り切り、メンバーはファンを楽しませることに全力を尽くした。『自惚れビーチ』はその象徴的な曲になった。

千秋楽であるサンポートホール高松では、Wアンコールで『自惚れビーチ』を披露。
クラシックのコンサートで使われることが多いホールで、鈴木は品を失うことなく弾けてみせた。2017年の乃木坂46最終興行、その最後の曲で鈴木がセンターに立ったのだ。



 2018年1月31日、乃木坂46の象徴だった生駒里奈の卒業が発表される。鈴木にとって生駒は同郷(秋田県)の先輩。表だってアピールすることは少なかったが、家族ぐるみで交流しており、生駒は絢音のことを気にかけていた。

 そして、4月22日に日本武道館で行われた生駒里奈卒業ライブ――留学していたAKB48の曲を歌うパートで、生駒が『てもでもの涙』のパートナーに選んだのは鈴木だった。
生駒は鈴木の隣に立つことで、アイドルとして必要なピースを伝えようとしたのかもしれない。

「生駒さんは永遠の憧れで、卒業されたいまでも背中を追ってます。仕事への向き合い方だったり、生駒さんが教えてくれたことはたくさんあって、迷った時には言葉を掛けてくれたんです」(『OVERTURE.015』)

 20枚目シングルでアンダーセンターに選ばれた鈴木。この年の5月15日~20日に行われるアンダーライブ中部シリーズを座長として引っ張ることになるのだが、直前の5月9日まで舞台『ナナマル サンバツ』に出演するという厳しいスケジュールでライブに臨むことになった。

 3期生が初めてアンダーライブに合流することで、鈴木は中部シリーズを『新しい世界』につなげるライブと位置付けていた。このライブから和田まあやリーダーとしてリハーサルの要となり、伊藤かりんがサポート役として3期生の振りをチェックするようになった。
座長である鈴木も参加した3期生全員と話すことを「裏目標」にしてコミュニケーションをとるように心がけていた。他に、斎藤ちはる相楽伊織も3期生に積極的に声をかけていたという。3期生に先輩たちが寄り添うことでアンダーライブを築こうとした。
 アンダーライブ中部シリーズは、前回の流れを汲んだエンタメ色の強い公演で、『春のメロディー』や『ロマンティックいか焼き』(盆踊りver)といった四季を表現するセットリストになっていた。なかでも、鈴木と岩本蓮加が歌った『行くあてのない僕たち』からは、アンダーライブの礎を作り上げた伊藤万理華井上小百合の魂を受け継ごうという意志を感じさせた。

 その千秋楽である富士市文化会館の公演のアンコールで斎藤ちはると相楽伊織が卒業を発表する。
ライブでの卒業発表は珍しいこともあって、メンバーたちは泣き崩れ、会場の空気は凍りついた。卒業する2人が心情を吐露すると、座長の鈴木はその気持ちを受け取り、「それでも前を向かないといけない」という想いで『羽根の記憶』につなげた。人は誰だって自由に飛べるはずだから。

 アンダーライブはどのシリーズも観る者の心に刻まれる公演を行なってきたが、鈴木絢音は座長としてひとつの歴史的公演を作り上げた。

「3期生が入ったアンダーライブの基礎ができたと思うので、次回があれば、新しい挑戦というか、尖ったというか、異質というか、これまでに見たことがないライブを作っていきたいなと。それがアンダーライブだと思うので」「それでよかったものを全体のライブで取り入れることができたら、選抜とアンダーという2つのグループがある意味が活きてくる。
これまでの歴史も踏まえて安定しちゃいけないなと思ってます」(『OVERTURE.015』)

 21枚目シングルで鈴木はついに選抜に入った。加入から5年以上経っていたが、それが彼女の歩幅なのだ。

 2018年7月6日~8日に明治神宮球場&秩父宮ラグビー場の2会場同時で行われた6th YEAR BIRTHDAY LIVE(20枚目体制)では、1曲目から鈴木が『自惚れビーチ』で盛り上げる。生駒のセンター曲であった『制服のマネキン』と『君の名は希望』では、もうひとつの会場で歌う齋藤飛鳥に引けを取らない表現力の高さでセンターの矜持を見せた。

 7月21日から始まった「真夏の全国ツアー」地方公演には21枚目の選抜メンバーとして参加。楽曲やメンバー、演出をひとりのメンバーが決める「ジコチュープロデュース」のコーナーで、鈴木が選んだ曲は『Against』だった。生駒センター最後の曲というだけでなく、当時の1期生全員による曲ということもあって、ファンの間で賛否が分かれることも予想されたが、鈴木は向かい風を恐れなかった。

 鈴木絢音版『Against』のメンバーは2期生で堀と渡辺みり愛、『自惚れビーチ』のフロントである樋口日奈と和田まあや。『Against』でのパフォーマンスこそ、鈴木絢音最大の自己主張だった。ステージで踊る鈴木の凛々しい表情からは強い意志を感じた。

「(『Against』について)私は『歌ってほしい』と思ってました。誰かが歌い継いでくれるからこそ、曲に関わった意味があるなって。振り付けもMVもこだわった曲を絢音ちゃんが選んでくれたことがうれしいです」(『OVERTURE archives』生駒里奈インタビュー)

 22枚目シングルの選抜発表で「鈴木絢音」の名前は呼ばれなかった。彼女のブログには「いただいたチャンスを掴むことも、2期生に選抜のバトンを繋ぐことも出来ませんでした」という悲痛な言葉は綴られた。そのブログのタイトルは「礎」だった。2018年の秋は、舞台『けものフレンズ2』に力を注ぐことになる。

 12月19日、20日の関東シリーズ(武蔵野森総合スポーツプラザ)、鈴木絢音がアンダーライブに帰ってきた。もはや定番曲になった『自惚れビーチ』の前には、何かを振り切るように「武蔵野の森! 行くぞ~‼」と叫び煽る。終盤、シンプルなステージに照明が作り出した極上のライブ空間で、鈴木は自身の野性を解放して激情あふれるダンスをノンストップで見せつけた。

 2018年の鈴木絢音は、5年間の伏線を回収するようなドラマチックな1年を過ごした。だが、そのドラマは始まったばかりだ。スキルと物語を背負ったアイドルは強いはずだから。

 2019年の鈴木絢音。1月10日から舞台『GIRLS REVUE』に伊藤純奈、樋口日奈、能條愛未とともに出演。実力派のメンバーに囲まれながら自分と向き合った。5月には舞台『ナナマル サンバツ』の第2弾が決まった。この舞台には3期生の吉田綾乃クリスティー向井葉月阪口珠美も出演する。鈴木が後輩に新しい道を切り拓いたのだ。

 アンダーライブの熱さと乃木坂46の品格を体現している鈴木絢音。これからの彼女に期待を寄せても「損させない」はずだ。

鈴木絢音(すずき・あやね) 1999年3月5日生まれ、秋田県出身。O型。ニックネームは「あーちゃん」「絢音ちゃん」。2期生。2013年3月28日乃木坂46 2期生オーディションに合格。アンダー曲『自惚れビーチ』『新しい世界』でセンターを務める。2018年21thシングル『ジコチューで行こう!』で初選抜。