2009年のスマイレージ(現・アンジュルム)結成時よりグループを牽引してきた、和田彩花。その彼女が6月18日の日本武道館公演をもって、ついに卒業する。
デビュー時は不思議キャラとして衝撃を与え、その後現在の強みとなる「美術」や「仏像」といったカルチャーへの熱意を武器に、アイドル界以外からも評価される異色のアイドルに成長。その「自分らしさ」を貫く和田の姿は多くのアイドルに多大なる影響を与え、アイドル界外からも注目を浴びた。そんな、多方面から愛される和田彩花の魅力を卒業記念してみうらじゅん氏と「仏像とアイドル」を語る特別対談を2回にわたってお届け。2回目はアイドル編。
みうら お釈迦様は生前から偶像崇拝してはいけないと説いておられたわけだけど、仏像という存在は正しく偶像じゃないですか。アイドルも訳せば偶像って意味ですからね。アイドル活動をしている和田さんが仏像にハマるのも当然なことだと僕は思いますけどね。

和田 うわっ! そんなこと言われたの初めてです(笑)。

みうら それでも人の願いから生まれた偶像というのは、人々に夢を与えたり幸せな気分にさせるものの象徴だと思うんです。そのことに対する心構えってどうですか?

和田 心構えかぁ……。

みうら アイドルって周りのみんなが作り上げたものじゃないですか。「アイドルらしくしなきゃ」とかのプレッシャーでもいいのですが。


和田 どうだろうな……。みうらさんがおっしゃったように、アイドルって周りのみんなが作ったものだからこそ、いろんな目線や思惑がたくさん入り混じっているんです。そして、そこにあるのはおそらく本来の自分の姿ではないとも思う。でも、今はインターネットで情報が筒抜けになる時代じゃないですか。私も私のグループも「個」というのをはっきり持っているし、だからこそ「作られたアイドル像」みたいなものに違和感を覚えるんですよ。もっともアイドルとしての私は最初から包み隠さずやってきたつもりだし、アイドルのイメージに縛られるという葛藤はあまりなかったですけどね。アイドル的なイメージを、あえて自分たちで作らないようにしてきたとも言えるかな。

──アンジュルムというグループは特にそうですよね。

和田 みうらさんがおっしゃる「アイドル=偶像=仏像」というのも、話としてはすごくよく分かるんです。でもお言葉ですが、アイドルと仏像が同じというのは私的にはどうしても呑み込めない。それは単純に私が仏像好きだから、一緒にするのが申し訳ないという気持ちもあるんですけど(笑)。そもそも私たちアイドルって1人の人間ですから。
人間を崇める行為ってどうなのかなって思うんですよね。

みうら 和田さん、それさあ……お釈迦様と同じこと言っていますよ(笑)。

和田 えっ、本当ですか!?

みうら 「人間だもの」。これは相田みつをさんの名台詞ですけどね。

──たとえばビートルズは自分たちのことをアイドルとは名乗らなかったけど、周りの力でどんどんアイドル化していきましたよね。

みうら 特にジョン・レノンはそれに対して疑問があったと思いますしね。

和田 だったら、私はさせられないように全力で生きていきます!

みうら すごいな。そのブレない感じ(笑)。

和田 いわゆるアイドルの一般的なイメージってあるじゃないですか。「黒髪ロングで、おしとやかで……」みたいな。それって結局いろんな人の欲望で作り上げられたイメージでしかないんですよ。私はアイドルをやりながら、そのことに気づいてしまったんですね。


みうら 気づいてしまいましたか。

和田 気づいた以上、私はそこを変えたかった。それはアイドルを否定するということじゃないんです。アイドルのあり方を考えていくってことなんですよ。この部分を今のままにしていたら、アイドルというジャンルはもちろん、世の中の女の子の将来も暗くなると思うので。

みうら 僕が若い頃思っていた昭和のアイドルっていうのは、完璧に作られた世界でした。男の作家が描いた「女はこうあってほしい、いや、こうあるべきだ」という歌詞を歌わされていましたから。その時代は、それがロマンって呼ばれていたんですけどね。まあ、仏像界で言うと平安後期の作品ですかね(笑)。

和田 私からすると、こんなに分かりやすいたとえ話はないです(笑)。

みうら でも、和田さんはルネサンス。鎌倉時代に突入したという感じでしょうか?

和田 ってことは……まさか私が運慶なんでしょうか(笑)?

みうら そこ、いきます(笑)? 鎌倉期は激動ですから。
仏像界も世の中もね。和歌とか詠むような貴族がクライアントではありませんからね。より人間っぽく、リアルな感情と活動が期待できるでしょう(笑)。

和田 そう言われると、どこかで繋がっているような気がしてきました(笑)。でも今日の話を伺っていて、いろいろ考えさせられましたね。失礼な言い方かもですけど、みうらさんは仏像に対する見方がおちゃらけたところがあるから、私もそれをすごく楽しく聞いていたんです。だけど同時に「あれ? そういえば……」みたいに考えさせられることも多かった。たとえばお寺の運営もビジネスの一環なんだということは、言われてハッとしたんです。私、仏像が本当に好きじゃないですか。それで「好き! 好き!」って言っているうちに、無意識で仏像を崇めていた部分があると思うんです。ちょっとそれは反省しました。もう少し肩の力を抜いた方がいいなって。


みうら 人って自分が夢中なものに対しては真面目になるものですから。だからこそ、極力ゆるくとらえる訓練をしなくちゃいけないんじゃないかと思うんです。自分を信じるがゆえに、ちょっと自分の考えと合わないだけで他人に「違う!」とか言いがちじゃないですか(笑)。

和田 私、すごく言いますね(笑)。

みうら 仏像からしたら、そんな意見の違いなんてどうだっていいことなんだと心に刻んでさ(笑)。「自分にも当然間違いがある」と思いながらこの先生きていかれた方が、和田さん自身が楽になれると思いますよ。

和田 そうかぁ……。なんだか目から鱗が落ちる思いです。

みうら 和田さんが真面目な人だっていうことはよく分かりました。じゃあ今後、インタビューとかがあったときに、唐突に仏像のたとえ話を織り込むのはどうでしょう? 「今回の新曲は運慶仏で言うと、無着像のような感じですかね……」なんて答えたら、聞き手も面食らうはずだから(笑)。

和田 確かに、理解できる人がものすごく限定された比喩なので、みんなポカーンとする気がします(笑)。

みうら メンバーの目が「飛鳥時代の杏仁形に似ている」とかもいいね。
あえてズレている感じを出すのがポイントかもしれない。「それって脱活乾漆像じゃないの?」とか和田さんが言い出して、みんなが「おいおい、脱活乾漆像って何だよ?」って唖然としているうちに、「この曲は脱活乾漆像みたいな心境で歌いました」って言うのはどう(笑)? ちなみにその像の特徴は、“軽い”ってことなんだけど。

──試しに仏像に絡めつつ、新曲の聴きどころを説明してくださいよ。

和田 ええっ!? 難しい! うーん……。ただ、『恋はアッチャアッチャ』は渡岸寺の十一面観音に近いでしょうね。何せ曲のテーマがインドですから。

みうら おお、それは釈迦誕生の地! モロじゃないですか。もう曲のイメージが湧いてきましたよ。

和田 滋賀の仏像というのは、京都や奈良とは違うんですよ。輸入の際の通り道でもあったことから、外国の文化が入っているし、ジャンルの中でも異形ですから。それと同じことが『恋はアッチャアッチャ』にも言えるわけです。さらに付け加えるとアルバムのタイトルもツアーのタイトルも「輪廻転生」ですから、仏像的な要素はかなり強めです。

みうら “カルマ”じゃないですか。素晴らしい! グループを卒業してソロになっても、この調子で頑張ってください! 楽しみにしています。

和田 今日は楽しい時間を本当にありがとうございました!

▽和田彩花(わだ・あやか
1994年8月1日生まれ、群馬県出身。A型。ニックネームは「あやちょ」。2009年にスマイレージのオリジナルメンバーとしてデビュー、2015年にアンジュルムへと改名。現在に至るまでリーダーとしてグループを牽引しつつ、2016年よりハロー!プロジェクトリーダーも務めている。

▽みうらじゅん
1958年2月1日生まれ、京都府出身。AB型。イラストレーターなど、幅広い分野で活動している。信仰や美術品としての視点とは異なる独自の観点から各地の仏像を鑑賞することを目的に、いとうせいこうと共著した『見仏記』は和田を始め、多くの仏像初心者に影響を与えた名著。
▽アンジュルム最新アルバム『輪廻転生?ANGERME Past, Present & Future?』
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▽和田彩花(アンジュルム)卒業記念パーソナルフォトブック『和田彩花』(オデッセー出版)
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▽「ハロプロ プレミアム アンジュルム コンサートツアー 2019春 ファイナル 和田彩花卒業スペシャル 輪廻転生 ?あるとき生まれた愛の提唱?」
6月18日(火)に日本武道館にて開催

▽『見仏記 道草篇』(KADOKAWA)いとうせいこう、みうらじゅん 著
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