今のアニメ業界において、男性声優のトップランナーといえば中村悠一の名前がまず真っ先に挙がる。近年のハマリ役としては『呪術廻戦』の五条悟が圧倒的な人気を博しており、昨年下半期に放送されたTVシリーズの第2期では、その活躍によって多くのファンたちを痺れさせたばかりだ。


【関連写真】『呪術廻戦』で共演、『トリリオンゲーム』に登場した津田健次郎

同作にかぎらず、何かと作中屈指の実力者を演じていることが多い印象だが、このイメージが広まったのは意外と最近のことだった。一体いつ頃から「CV.中村悠一=最強キャラ」として認知されるようになったのか、その足跡を振り返ってみよう。

中村は2001年にアニメデビューを果たしたが、その名前が広く知れ渡るきっかけとなったのは、2007年から2008年にかけて出演した作品群だった。『おおきく振りかぶって』の阿部隆也に『機動戦士ガンダム00』のグラハム・エーカー、『CLANNAD』の岡崎朋也や『マクロスF』の早乙女アルトなど、メイン級キャラクターを務めた作品が次々と大ヒットを収め、一躍人気声優の座に上り詰めていった。

演技力の高さから、キャスティングされる役柄には大きな幅があったが、その中でハマリ役のイメージが定着するきっかけとなる1つの作品があった。2010年に第1期が放送された『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(以下、俺妹)だ。

同作で中村が演じたのは、ツンデレな性格の妹・高坂桐乃に振り回される兄・京介。一見険悪な仲に見えるものの、桐乃のオタク趣味を全肯定するために奮闘するなど、熱い“妹愛”を内に秘めた役どころで、一風変わった兄妹ラブコメを盛り上げてみせた。ちなみに中村にとっては一種の新境地のような心境だったようで、2022年3月にYouTubeで行った配信では「それまで使ってなかった引き出しというか、あんまりやってないキャラ付けの声」だったと語っていた。

さらに中村は「これ(京介)をやってから、すごいお兄ちゃんの役が増えた」とも回想しており、実際に『俺妹』への出演を皮切りとして兄役を演じる機会が増えている。

たとえば、2012年放送の『となりの怪物くん』で演じた吉田優山は天才児である弟・ハルを疎む一面もあったが、根は弟思いだったというキャラクター。さらに2013年に放送された『マギ The kingdom of magic』の練紅炎も、紅玉や紅明を始めとした弟妹たちから慕われる存在だった。


そして同じく兄としてのイメージを痛烈に打ち出したのが、2014年放送の『魔法科高校の劣等生』で担当した主人公・司波達也だ。達也はとある理由で最低限の情緒しか持てない設定なのだが、妹・深雪への愛情は「強い情動を司る部分」として残されており、兄妹の範疇を超えるような関係性を築いている。

ちなみに『俺妹』とさまざまな共通点があることでも有名で、深雪役の早見沙織は『俺妹』の人気ヒロインの1人である新垣あやせを演じた声優だ。ほかにも七草真由美役の花澤香菜は黒猫、柴田美月役の佐藤聡美は田村麻奈実を演じた人物で、“俺妹声優”で固められている。さらに原作が同じ電撃文庫レーベルであること、アニメの製作にアニプレックスが携わっていることなども共通していた。

そんな『魔法科高校の劣等生』の後、2016年には司波達也・深雪と同じく中村と早見が兄妹役を演じた『甘々と稲妻』が放送されるなど、しばらく兄系キャラの第一人者というイメージは続いたものと思われる。

その一方で、『魔法科高校の劣等生』は中村が最強キャラを演じた先駆的な作品でもあった。司波達也は作品内で最強の存在として畏怖されている設定で、その戦闘力はライトノベル全体でも最強クラスと言われているほどだ。

同年には『ワールドトリガー』の迅悠一という最強キャラも演じているが、“全知全能なお兄ちゃん”が作り出したイメージの影響はやはり大きかったのではないだろうか。

ほかに中村が演じた最強キャラとしては、『Re:ゼロから始める異世界生活』のラインハルト・ヴァン・アストレアや『Dr.STONE』の獅子王司、再アニメ化された『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の比古清十郎などがあり、いずれも強烈な存在感を放っている。中村が演じるから最強なのか、最強だからCV.中村なのか……。最強に“成った”声優の今後の活躍にも注目していきたい。


【あわせて読む】『遊☆戯☆王』『呪術廻戦』…声優・津田健次郎の知名度急上昇のきっかけ
編集部おすすめ