「アイドル戦国時代」と謳われたこの10年、アイドルというフォーマットを駆使して自分の世界を表現していく個性豊かなアイドルが多く生まれた。個を強く持ったアイドルたちは活動を通じて表現を磨き、いつしか、自分の足で自分の世界を極めたいという想いを抱き別世界へと羽ばたいていく。女優、タレント……アイドル出身者がメディアを賑わす中、歌という形を通じて自分を表現するアイドル発シンガーソングライターがこの数年、輝きを増している。
名前を挙げるだけでも、元アイドルネッサンスの原田珠々華、元GEMの武田舞彩、さくら学院卒業生の山出愛子、元まねきケチャの藤川千愛……といったグループ時代から歌を大切にしてきた面々がこれまで培った表現をベースに、独立独歩で自分の世界観と道を開拓し続けている。
こうした流れの急先鋒にいるのは元NMB48の山本彩だろう。絶対的エース、キャプテンとしてグループを牽引する側ら、2016年には待望の1stアルバム『Rainbow』でソロデビュー、プロデューサーを務めた亀田誠治を始め、参加した数々の著名ミュージシャンたちをそのセンスで唸らせた。昨年11月には夢を叶えるためにNMB48を卒業、今年2月開催のツアー、4月発売の1stシングル『イチリンソウ』をもっていよいよいよいよ本格的なソロシンガーとして歩み始める。
今夏はROCK IN JAPANをはじめとした大型野外フェスに出演し、耳の肥えたリスナーたちをも魅了した山本は、今冬発売の3rdアルバム『α』で小林武史、ACIDMANの大木伸夫ら名うての作家陣を迎えて、全楽曲の作詞曲を自身が手掛けるという初の試みに挑戦している。その新作を引っ提げて、来年2月からは全国16都市20公演を回るホールツアーの開催も決定。その歩みは止まることを知らない。
その山本とも交流の深い、元℃-ute、Buono!の鈴木愛理もまた、1人のシンガーソングライターとして大きく羽ばたこうとしている。
12月18日発売の最新作となる2ndアルバム『i』では、製作陣に今をときめくOfficial髭男dismら豪華メンツを迎える中、鈴木も自作詞曲を4曲手掛け(デビュー作から彼女を支えるシンガーソングライターの山崎あおいとの共作)、今まで以上に彼女の等身大の魅力が詰まった作品に仕上がった様子。
今年デビューを果たした面々もその個性を早くも発揮している。
山本の盟友である元NMB48の百花はアーティスト・kinoshitaとして今年9月にミニアルバム『わたしのはなし』でデビュー。NMB48時代から“自分らしさ”を追求してきた彼女らしく、攻撃性とピュアネスが同居した内面世界を音と言葉によってえぐり出している。
今年2月にAKB48チーム8を卒業した長久玲奈は、今夏初のソロワンマンライブを開催し本格的なソロシンガーとしての道を歩み始めた。本格始動間もないながらも、その注目度は高い。
元アンジュルム和田彩花も10月のフェス出演より、ソロとして始動開始。ポエトリーリーディングに、和田作詞によるフランス語を大胆に配した『Une idole』など、高度な芸術性が早くも爆発している。
ライブシーンを覗けば、独自の世界観で魅了する女性シンガーソングライターが大いに賑わしている。「(株)会社じゃないもん」代表にして、チャーミングでぶっ飛んだキャラ、キャッチィでメロディアスな楽曲を武器にお茶の間とメディアを賑わせまくる眉村ちあきは缶コーヒー「ジョージア」のCMにも出演と、その勢いは日を増すごとに強くなっている。
眉村同様、自ら立ち上げた会社の代表をつとめる完全“しゃちょー”こと里咲りさも、相変わらず先の読めないユニーク極まりない活動を展開。レトロとフューチャーが高次元で結びついたサウンドと“不思議・少女”全開なパフォーマンスが耳目早い界隈で話題沸騰中の加納エミリ……と、百花繚乱状態。
遡れば、アイドル/タレントとしてキャリアをスタートさせながら、高い音楽センスを徐々に開眼させ、国民的人気シンガーへと成長した森高千里やZARDの坂井泉水という偉大なる先達がいる。国民的に愛されるシンガーソングライターは彼女たちの中から生まれるやもしれない。
▽『月刊エンタメ』1月号では、長久玲奈、原田珠々華、Kinoshitaにインタビューをした「アイドル→シンガーソングライターという選択」特集も掲載しています。