日向坂46の四期生11人が総出演する映画『ゼンブ・オブ・トーキョー』が、10月25日に公開された。東京での修学旅行を舞台に、個性豊かな彼女たちのにぎやかさをぐっと凝縮されたストーリーには、あえて現実との境界を曖昧にするような手法で、等身大の青春模様が描かれている。
(※若干のネタバレを含む)

【関連写真】日向坂46四期生が登壇した、『ゼンブ・オブ・トーキョー』舞台挨拶

日向坂46の四期生11人の特徴は、地方出身メンバーが極めて多いことだ。東京出身は石塚瑶季だけで、首都圏に広げても宮地すみれ(神奈川県)と清水理央(千葉県)を加えての3人しかいない。ほか8人の出身地は北海道(藤嶌果歩)、愛知(山下葉留花)、兵庫(正源司陽子・小西夏菜実)、福井(平岡海月)、鳥取(平尾帆夏)、広島(竹内希来里)、福岡(渡辺莉奈)と北から南まで広がっている。なので、修学旅行で上京したクラスメイトの役で東京を駆け巡るストーリーには、上京してきた彼女たちの軌跡を自然と重ねたくなる。

正源司が扮した班長・池園優里香は、自分の班の行動計画を緻密に立ててきた。計画通りに浅草と東京スカイツリーを訪れたまではよかったが、池園班のメンバー(石塚・小西・藤嶌・渡辺)はそれぞれ東京でやりたいことがあり、昼食の後にバラバラになってしまう……。

池園班がバラバラになってしまう場所が東京スカイツリー。これがすでにして巧みな仕掛けだ。スカイツリーといえば3月から6月にかけて日向坂46が様々なコラボイベントを行った場所で、4期生もその中にいた。先輩メンバーと一緒にイベントでジャックしたスカイツリーから、11人全員が意志をもって物語を動かしていく。

メンバーがバラバラに別れていくシーンでは、河川が多いスカイツリー周辺に沢山架かっている橋が効果的に使われている。古来、橋はこちらとあちら、異なる二つの世界をつなぐモチーフでもあった。
メンバーの背後にちらつく橋は、2年前まで普通の学生だった彼女たちが芸能界に飛び込んだ挑戦を比喩しているかのよう。そこから東京の各地に散っていくのも、一緒に活動しながらもそれぞれの夢や目標を見つけていく姿に重なる。

池園班の4人と他のクラスのメンバーが離合集散してハプニングが起こっていく。竹内の演じる辻坂美緒と藤嶌の演じる羽川恵は憧れの同級生男子を一緒に追うことになり、石塚の演じる説田詩央里、宮地の演じる梁取茜、山下の演じる門林萌絵、清水の演じる角村若菜は別々のエリアに散らばって推しキャラのグッズ入手を目論む。

小西の演じる枡谷綾乃は彼女のクールなキャラに憧れる平尾の演じる花里深雪と一緒になり、さらに平岡演じる旧友・満武夢華と一緒になって下北沢へ。そして渡辺が扮した桐井智紗は誰にも秘密で憧れのアイドルグループのオーディションを受けに行く(彼女の推しのアイドル役が、グループの先輩の小坂菜緒という粋な計らい)。

イケメン同級生とお近づきになりたいといった素朴なものから、人生を賭けた挑戦まで。夢に溢れた彼女たちの生き生きした様子は“アオハル”そのもの。

熊切和嘉監督が事前にメンバーにみっちり取材して脚本を作り上げたため、役とはいえやはりそれぞれの素のキャラクターがちらつく。枡谷がクールビューティーな風を装っていたり、門林がちょっとドジでギャルな高校生になりきっているところ、羽川の裏表のなさなどは見事なあて書きだ。

一方班員とはぐれてしまった池園は、1人で東京めぐりをするうちに班長としての緊張が解けていく。クラスメイトと再会すると、「みんながいない東京は、初めからゼンブじゃなかったんだ」とお互いの絆を確かめる。
ここまでの2年間、同期のトップを走ってきた正源司に、もっと肩の力を抜いてもいいんだよとメンバーやファンがエールを送っているかのような構造にも見える。

ほぼ修学旅行中の1日だけの物語だが、バラバラになる前と後で11人の関係がどうなっていくか。叶ったり、叶わなかったりの劇中の彼女たちの「東京でやりたいこと」が、思わぬ変化を巻き起こしていく。

実際に東京各地でロケを行ったため、2024年の東京を記録したノンフィクションの要素も持っている。メンバーが彷徨する新宿駅西口の地下は映画の通り再開発工事中で、よけいに迷宮と化している。地上の小田急百貨店が解体されて、新宿駅西口の空が広くなっているのも今しか見られない光景なのだが、しっかりカメラに収まっている。

外国人で溢れる浅草や、オタクの街となった池袋の様子もリアル感たっぷり。それゆえに映画に登場したどのエリアも聖地巡礼し放題だ。フィクションのようなノンフィクションのような、境界が曖昧なつくりになったのも本作の仕掛けだろう。街中で四期生楽曲『雨が降ったって』が流れるシーンもある。

ラストは修学旅行を経て、彼女たちの高校の卒業式へ。いつか四期生も日向坂46から旅立つ時が来るだろう、ということを想像してしまうが、その時に本作を見返すとまた違う感傷に浸れそうだ。
11人のこれからの活躍が、本作に映っているフレッシュな彼女たちをより輝かせてくれることを祈る。

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