5月も下旬に入り、春ドラマも中盤に差しかかってきた。本稿では、新作春ドラマTVerお気に入り登録数トップ5作品を振り返りつつ、その魅力と数字の背景を分析したい。


【関連写真】『田鎖ブラザーズ』で主演を務める岡田将生

TVerトップ5は、全話平均世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区。以下/同)との乖離がある作品も多い。傾向として、TVer登録数は繰り返し視聴をする「ドラマ通」あるいはネット視聴習慣のある「若年層」にウケるかがポイントとなっている。視聴率が低くても話題になる作品があるということだ。

5月20日執筆時点での1位は『月夜行路 -答えは名作の中に-』(日本テレビ系)の71万人。W主演の波瑠演じる文学オタクなバーのママと、麻生久美子演じる専業主婦という“異色バディ”が、文学の知識を駆使し事件を紐解くロードミステリー。

6話までの視聴率は4%台と苦戦中。軽やかなテンポで会話が進んで行くため、インパクト重視の視聴者向きではないかもしれない。それでも少しとぼけているようで、何かを企んでいるようでもある波瑠の口調やしぐさが、ミステリアスでとても可愛らしい。麻生演じる主婦が彼女に導かれるように、自身のアイデンティティを再確認し、未知の自分との出会いを楽しむ姿にも心躍る。2人のバディ感の心地良さを見出すドラマ通も多いのだろう。続編を期待したい。


2位は日曜劇場『GIFT』(TBS系)の68.5万人。主演の堤真一演じる天才宇宙物理学者が弱小の車いすラグビーチームを導く。

6話までの視聴率は7%台と日曜劇場としては低い。競技自体の認知度の問題に加え、競技を例える際に使われる宇宙物理学の話も難解でとっつきにくさはあるかもしれない。ただ、競技の迫力は十二分な上、選手それぞれの心情描写も丁寧で、ドラマ通からの支持が登録数に反映されている。山田裕貴有村架純に加え、玉森裕太Kis-My-Ft2)、本田響矢らアイドル的俳優が揃うことで若年層からの加点もありそうだ。

3位は『田鎖ブラザーズ』(TBS系)の67.2万人。主演の岡田将生が面倒くさがり屋の刑事を演じ、共演の染谷将太が検視官の弟を演じる。時効を迎えた彼らの両親殺害事件を巡るクライムサスペンスだ。

5話までの視聴率は5%台で、こちらも放送開始前の期待値には及んでいない。全体的に画も扱う事件も重く、暗いため万人向けではないのかもしれない。だが、ドラマ『アンナチュラル』や映画『ラストマイル』などを手がけた新井順子プロデューサーのもと、日々起こる事件と両親殺害事件の並行は緻密で、考察が盛り上がるなどドラマ通ウケは良い。
また、岡田と染谷が見せる「エモい兄弟」による心の通わせ合いは沁みるものがある。

4位は『リボーン ~最後のヒーロー~』(テレビ朝日系)の61.5万人。新興IT社長と、彼が転生した商店街の青年を主演の高橋一生が1人2役で演じ分けている。

5話までの視聴率は5%台。前期日曜劇場『リブート』(TBS系)で、同じ人物を松山ケンイチ鈴木亮平が2人1役で演じるといった斬新さは確かに無い。ただ、現代から過去に転生することで未来の史実を言い当てる「チート能力」を駆使し、主人公が難局を乗り切るおかしみがある。また、冷徹無比だった社長が、商店街の青年として周囲の人々と深く交流することで、愛や友情に芽生える様も心温まる。ドラマ通からはしっかりと厚い信頼を勝ち取っている。

5位は『時すでにおスシ!?』(TBS系)の57.4万人。主演の永作博美演じるスーパーの社員が子育てを卒業し、自分の存在価値を見失う。そんな折、鮨職人を目指す「鮨アカデミー」に入学し、松山ケンイチ演じる堅物講師と出会い変わっていく。

6話までの視聴率はこちらも5%台。
永作世代や子育て卒業を経験した人でないと、主人公に没入することは難しいかもしれない。しかし、毎話提示される「自分らしさ」を問う課題や、年齢も立場も違うクラスメートそれぞれの事情を分かり合う過程は、「多様性の中での自己形成」という現代的テーマを突いている。悪人がおらずユーモアがあるのに涙も誘う作品として、ドラマ通からは高評価だ。

近年、視聴率が下がる代わりにTVer登録数・再生数が伸びていたが、春ドラマは全体的にどちらもこれまでの期に比べやや低い水準となっている。制作費が潤沢で豪華俳優陣を並べられるNetflixなど配信オリジナル作品に対し、派手さやパンチ力、規模感で劣ることもあるかもしれない。それでも、一つ一つをじっくり視聴すると、制作陣と俳優陣が丹精込めて創り上げていることが伺える。社会現象にはならずとも、それを必要とする誰かの心には深く、鋭く刺さっている。

人生の本質を問う静かな物語は、地上波ドラマが長年培ってきた職人技の結晶でもある。数字の奥にある志を読み解くことこそが、多角化する配信時代のドラマの楽しみ方と言えるのではないだろうか。

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