MHDモエ ヘネシー ディアジオが取り扱う世界最古のシャンパーニュメゾン「ルイナール」は、東京における現代アートの創造性と多様性を国内外に発信する「アートウィーク東京」に参画している。大倉集古館およびAnnex Aoyamaでは11月9日まで、ジュリアン・シャリエール氏による個展「conversations with nature 2025」を開催中だ。


○テーマは「失われた海の記憶」

ルイナールは1729年にシャンパーニュ地方ランスで創業して以来、シャルドネの魅力を最大限に引き出す高度な技術と感性を磨き続けてきた。そのシャンパンの味わいについては「シャルドネの芸術」と称されている。同社ではテロワールの声に常に耳を傾け、自然から学び続けることを大切にしている。その活動の一環として「自然との対話」という理念に共鳴するアーティストたちと数々のコラボレーションも行ってきた。アートを通じて自然観とクラフツマンシップを発信する取り組み「conversations with nature」は、現在も継続的に展開している。

ジュリアン・シャリエール氏は、ベルリンを拠点に活動するフランス系のスイス人アーティスト。火山、氷原、放射能汚染地帯など、地学的特徴のある場所におけるフィールドワークから自然観と人類の生態系との関係性を探求するプロジェクトを数多く手がけ、科学者・歴史家・哲学者らと協働したインスタレーション、写真、彫刻、映像などの作品も多い。

シャリエール氏が2025年のテーマに掲げるのは「失われた海の記憶」。このたび、大倉集古館およびAnnex Aoyamaにて、クレイエール(白亜質の地下セラー)×古代の海の記憶×現代のサンゴ礁を響き合わせるインスタレーションを展示している。入場料は無料。

本個展に展示する作品は、ルイナールの地下クレイエールがインスピレーション源のひとつとなった。いまから遡ること4,500万年前、シャンパーニュ地方はルテシアン海に覆われていた。
シャリエール氏は「その時代の地層に刻まれた“古代の海の記憶”と、現代のサンゴ礁が警鐘を鳴らす海洋の危機とを重ね合わせ、『失われた海の記憶』というテーマが生まれました」と説明する。

大倉集古館に展示の作品群は、世界各地のサンゴ礁を撮影したデジタル画像を色分解し、白亜・石灰岩・サンゴ由来の顔料で再解釈した版画作品で構成されている。19世紀のリトグラフ技法を参照し、石灰石版に像を浮かび上がらせることで、地質学的時間と現代の海の脆さを一枚の作品に凝縮した。淡く漂白されたような色調が、保存と喪失の狭間にある儚さを象徴していると説明する。

一方でAnnex Aoyamaには、クレイエールのチョークの壁に眠る化石のささやきを呼び覚ます体験型のサウンド・インスタレーションを設置した。体験者は真っ暗闇に閉ざされた個室の中で、明滅する弱い光に照らされた貝殻のオブジェなどを鑑賞しながら、サンゴをはじめとする海の生物が奏でる音に耳をすませる趣向。シャリエール氏は「自分が魚になったら、海はどんな音で溢れているのでしょう? そんな想像をめぐらせながら楽しんでもらえたら」と笑顔で話している。

本個展RUINART×Julian Charriere「conversations with nature 2025」の開催期間は11月9日まで、開催時間は大倉集古館が10時から18時まで、Annex Aoyamaが11時から20時まで(最終日のみ18時まで)。各会場にはRuinart Barが設けられ、『ルイナール ブラン・ド・ブラン』と『ルイナール ロゼ』のグラスおよびボトルを販売する。

近藤謙太郎 こんどうけんたろう 1977年生まれ、早稲田大学卒業。出版社勤務を経て、フリーランスとして独立。通信業界やデジタル業界を中心に活動しており、最近はスポーツ分野やヘルスケア分野にも出没するように。
日本各地、遠方の取材も大好き。趣味はカメラ、旅行、楽器の演奏など。動画の撮影と編集も楽しくなってきた。 この著者の記事一覧はこちら
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