歯磨き粉でも、ガムでもない。「飲むだけで口腔ケアができる」というまったく新しい習慣が誕生した。


アサヒグループジャパンの松野妙子さんが開発した「モドッシュ」は、"弱アルカリ性"の飲料という前例のないアプローチで、現代人の口内環境に寄り添う革新的な新商品だ

しかしなぜ松野さんは「飲み物による口腔ケア」というかつてないジャンルに着目し、商品開発にチャレンジしたのか。新商品の特徴から誕生の背景まで詳しく話をうかがった。

――まずは「モドッシュ」という商品について教えてください。

「モドッシュ」は「飲み物でお口を整える」という全く新しい発想から生まれた商品です。口腔ケアというと、一般的には歯磨きやマウスウォッシュ、ガムやタブレットなどが思い浮かぶと思います。実際、これまでの市場には「飲み物でお口を整える」という概念の商品は存在しませんでした。

モドッシュの最大の特徴は「pH9の弱アルカリ性」に設計している点。清涼飲料水というカテゴリーにおいて、pH9というアルカリ性の商品はかなり珍しいんです。

――なぜ「弱アルカリ性」にこだわったのでしょうか?

実は、歯の表面にあるエナメル質は、口の中のpHが5.5を下回り、酸性に傾くと溶け出してしまうんです。その後、唾液の働きによって中和され、溶け出したミネラルが歯に戻る「再石灰化」が起こります。人間の体はうまくできていて、このサイクルを1日に何度も繰り返しているんですね。

でも、現代人は食事だけでなく、間食や甘い飲み物をなんとなく摂取することが増えています。
食事をすると口内細菌が酸を出し、口の中は酸性になります。唾液の力で中性に戻るには30分から1時間程度かかるのですが、その間にまた間食をしたりジュースを飲んだりすると、口の中はずっと酸性のままという怖い状況が続いてしまうんです。

――実際に飲んでみると、柑橘の味というより「風味」を感じる程度で、水に非常に近いですね。

実は味の設計にはかなりこだわっているのですが、飲んでみて何か思い出しませんか?……実は、「レストランで出てくるレモン水」を目指したんです(笑)。ほのかに柑橘を感じるけど、食事の邪魔をせず、誰でも飲みやすくてスッキリする、あの感覚を目指しました。味覚が敏感な方はしっかり風味を感じますし、濃い味に慣れている方は薄く感じるかもしれませんが、あえて「水」に近い感覚に仕上げています。また口腔ケアとして、糖分が入っていては意味がないので、無糖にしています。

やはり大事なのは習慣化することですから、生活の一部として取り入れてもらうためには、独特な味や強い風味があっては続きません。弱アルカリ性の飲料は、ミネラル分などの影響で独特の「硬水」のようなクセが出やすいのですが、試行錯誤を重ねて、軟水に慣れた日本人でも違和感なく飲める、“美味しい水”のレベルまで落とし込みました。

――そもそも、なぜこの商品を開発しようと思ったのですか?

本当の意味での原点は、私自身の息子との経験にあります。小学生までは親が「歯を磨きなさい」と言えば磨きますし、仕上げ磨きもできます。しかし、中学生になると部活や勉強で疲れ果てて帰ってきて、歯を磨かずに寝てしまうことが増えました。
親が口うるさく言っても、思春期の子どもはなかなか聞き入れてくれません。

飲み物であれば、嫌がる子どもでも、忙しいビジネスマンでも、歯磨きが難しい介護の現場や災害時でも、誰でも手軽に口にできます。こういう飲み物があれば、世界中の人々の悩みがケアできるんじゃないかと気づいたとき、私の中でこれは壮大な夢に変わりました。
○「水じゃ嫌だ!」というワガママにも寄り添う柑橘風味

――ガムやマウスウォッシュなどの既存のケア用品と比べ、最大の強みは何でしょう?

やはり最大の強みは「飲み物であること」ですね。ガムは唾液を出す点では優秀ですが、噛んでゴミが出るため捨てる場所が必要ですし、ビジネスシーンや人前では噛めないこともあります。マウスウォッシュは刺激が強く、薬品感が苦手だという方も多くいらっしゃいます。特に「飲み込んでしまって大丈夫なのか」という不安を持つ方も少なくありません。

その点、「モドッシュ」は飲み物なので、場所も時間も選びません。仕事中、移動中、いつでもどこでも飲むだけでケアができます。マウスウォッシュのような刺激もなく、飲んでしまって当然のものですから、お子様からご高齢の方まで安心して取り入れていただけます。

――具体的に、どのようなシーンで飲むのがおすすめですか?

テスト販売中の反応としては、「朝起きてすぐ」や「歯磨き後」に飲んでいるという声をいただきました。寝ている間は唾液の分泌が減るため、朝起きた時の口の中は菌が増殖し、ネバつきなどの不快感があります。
そこでモドッシュを飲むとスッキリするというお声をいただきました。

また、夜の歯磨き後に喉が渇いたときなど、「水では物足りないけど、ジュースは飲めない」というシーンでも役立っていたようです。「水じゃ嫌だ」というお子様でも、ほんのり風味のあるモドッシュなら飲んでくれるという声もありました。

もちろん、お酒やコーヒーなど酸性の強いものを飲んだ後にも最適ですし、いつかビールの横にチェイサーとして添えてもらえたら嬉しいですね(笑)。

――まったくの新しいアプローチですから、開発でも苦労が多かったのではないでしょうか?

そうですね。先ほどお話ししたとおり、pH9のアルカリ性で、かつ無果汁(果汁は酸性のためNG)で美味しい風味を作るのは技術的に難しい挑戦でした。

また、このプロジェクトは私自身の通常業務との兼務でスタートしたので、本業とのバランスに悩む場面もありましたが、新しい挑戦が次々と動き出す中で、毎日が本当に駆け抜けるようでした。

それでも乗り越えられたのは、この商品に対する情熱と、社内外で協力してくださった多くの方々の支えがあったから。共感してくれる仲間の存在が、諦めそうになる私を何度も救ってくれましたね。
○大切な家族を守るために役立つ「モドッシュ」

――消費者の方からの反響はいかがでしたか?

商品を気に入り、毎日持ち歩いて飲んでくださっている方もいました。「枕元に置いて寝る前や起きたときに飲んでいる。通常飲む水としても美味しい。
もっと宣伝して商品化してほしい」という熱いご要望もいただきました。

また、ある60代の男性は、洗面所にモドッシュのチラシを貼り、家族全員にアピールしてくださっているそうです。「自分だけが健康でいればいいという人は少ない。大切な家族を守りたいから、これを勧めたい」というお話を聞いたときは、本当に嬉しかったですね。

――モドッシュのこれからの展開や展望について教えてください。

これまでは歯科医院を中心に3ヶ月間のテスト販売を行ってきましたが、社内でも事業化が正式に認められました。今後の販売先は検討中ですが、より多くの方の手が届くよう、全国発売に向けて準備を進めています。具体的な発売日はまだ言えませんが、来年には全国へお届けしたいですね。

――最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします。

私は祖父から教わった「健康に勝る富はなし」という言葉をずっと大切にしています。歯周病や虫歯など、お口のトラブルは全身の健康にも深く関わっています。糖尿病や心疾患、認知症など、あらゆる病気の入り口になり得るのが「口」です。


好きなジュースやコーヒーを飲んで「美味しい」と幸せを感じる瞬間も大切です。でも、「モドッシュ」はそこから一歩進んで、皆様の“未来の笑顔”を守るための飲み物でありたいと思っています。自分のため、そして大切な家族のために、健やかな未来をデザインする。その手助けとして、毎日の飲み物という手軽な手段で貢献できれば、これほど嬉しいことはありません。

松野さんが語った「未来の笑顔を守るために」という思いは、商品を通じて我々の生活に寄り添ってくれる。毎日の一杯から健康をデザインする。そんな新習慣が、これからどこまで広がっていくのか。まずは来年の発売が楽しみだ。
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