日本時間11月20日、40日以上続いた政府閉鎖の影響で発表が遅れていた9月分の米雇用統計がようやく公表された。「この雇用統計をきっかけに年末ラリーが始まるのではないか」──そんな思惑もあったが、発表から1週間が経った今、その期待はすっかりしぼみつつある。


政府閉鎖の影響でデータに欠損や歪みが生じ、景気の実力をきちんと測れているとは言いがたい"ノイズの多い"統計に、市場は振り回されている。株価は方向感を欠き、投資家は「何を拠りどころにすべきか」定まらないまま、不安ばかりが大きくなっている。

そうしたなか、これまで米国株式市場を牽引してきた「マグニフィセント7(M7)」にも明らかな陰りが見え始めた。では、私たち日本の個人投資家はどこに活路を求め、ポートフォリオをどう組み替えていけばよいのか。

今回話を伺ったのは、『Financial Free College』CEOの松本侑氏(@smatsumo0802)と、YouTubeチャンネル『ライオン兄さんの米国株FIREが最強』(登録者数28.8万人)の弟子であり、自身でも『ライオンじゅんさんの米国株FIREが最強』(登録者数9570人)を運営する投資家・ライオンじゅん氏だ。

雇用統計通過後も視界不良な相場で、M7に何が起きているのか。そして、"次なる投資先"として注目するべきアセットとは...。2人の視点から、これからの投資戦略を探っていく。
○雇用統計が出ても、安心できない深刻な理由

「数字さえ出れば悪材料は出尽くし、相場も落ち着くだろう」──そんな期待はあっさり裏切られた。11月20日の雇用統計発表直後には株価が大きく乱高下し、市場が冷静に状況を判断できていない様子が改めて浮き彫りになった。

本来であればポジティブに受け止められる材料でさえ、いまの疑心暗鬼の相場では、すぐに悪材料として解釈されてしまうからだ。松本氏は、そもそも今回の統計データ自体の信頼性が低く、それが市場の混乱に拍車をかけていると指摘する。


「今回の雇用統計は、政府閉鎖による集計の遅れの影響で、統計としての信頼性が大きく損なわれており、FRB(連邦準備制度理事会)ですら正確に扱うことが難しい内容でした。その結果、市場は『利下げ期待』と『景気後退懸念』の狭間で揺れ動き、パニックに近い状態となっています」(松本氏)

続けて松本氏は、現在の相場環境の厳しさをこう語る。

「誤解を恐れずに言えば、今の米国株は"どんな数字が出ても素直に喜べない相場"です。強い数字が出れば『経済が加熱しすぎて利下げが遠のく』と売られ、逆に弱い数字なら『いよいよリセッション(景気後退)が始まった』という恐怖でやはり売られる。どちらに転んでも株安の引き金が引かれてしまう、八方塞がりの状況なのです」(松本氏)

○アマゾン失速...。M7神話崩壊は秒読みか

S&P500を信じて疑わない投資家ほど、この現実は受け入れがたいだろう。だが、数字は嘘をつかない。

かつて市場を牽引したアマゾン(AMZN)の売上高成長率は、いまや前年同期比10%台前半にとどまっており、高いリスクを取って値上がり益を狙う「グロース株」とは言い難い水準になっている。

さらにショックなのが、フェイスブックでおなじみのメタ(META)だ。株価は200日移動平均線(※)を明確に割り込み、決算発表後も下落基調から抜け出せていない。松本氏は「M7の崩壊はすでに始まっている」と言い切る。

※過去200日間の株価の平均を結んだ線で、市場の長期的なトレンドを表す指標

「過去5年の長期チャートを見れば、たしかにM7はS&P500を大きく上回るパフォーマンスを示してきました。
しかし、2024年以降に限って見れば、グーグル(GOOG)とエヌビディア(NVDA)を除く銘柄は、指数と同程度か、それを下回っているのが実情です」(松本氏)

松本氏は続けて、メタの現状をこう評する。

「これまでは下がれば"絶好の買い場"と見なされてきましたが、今回はリバウンドの兆しすらありません。これは市場が完全に見切りをつけているサインと言えます。また、来期のEPS(一株益)成長率も一桁台にとどまるか、場合によってはマイナスに転じる可能性すらある。巨大テック株の一角が崩れるのは、もはや避けられないでしょう」(松本氏)

○暗号資産税制の本命は"減税"じゃない

株式市場が閉塞感に包まれる一方で、いま日本国内で注目を集めているのが「暗号資産(仮想通貨)の税制改正」だ。11月16日には、暗号資産を金融商品取引法の対象とし、株式などと同じ"申告分離課税20.315%"にする方針が報じられ、投資家のあいだで一気に話題が広がった。

ただ、ライオンじゅん氏は「税率が下がる」という一点だけに飛びつくのは危ういと指摘する。一般的な会社員であれば、現行の雑所得でも税率は20~30%台が中心で、最高税率55%から大きく下がるメリットをフルに受けられるのは一部の富裕層に限られるからだ。では、今回の改正の"本当の意味"はどこにあるのか。

「いちばん大きいのは税率ではなく、『損益通算』と『繰越控除』が可能になる点です。これまでは暗号資産で損失が出ても、その年に切り捨てるしかありませんでしたが、株式と同じ枠組みに入ることで、将来の利益と相殺できる"資産"として扱えるようになります」(ライオンじゅん氏)

これは、日本人のポートフォリオの組み方が変わるきっかけになり得る。これまで「税制が不利だから」と敬遠していた人たちが市場に戻り、暗号資産への投資配分を検討し始めるだろう。


「価格を決める主導権はあくまで米国にありますが、私たち日本人にとって、暗号資産を『資産を守るための選択肢のひとつ』として組み入れやすくなる。その環境が整うことこそが重要なのです」とライオンじゅん氏は強調する。

政府閉鎖明けの混乱した雇用統計、成長神話に陰りが見え始めた巨大テック株、そして税制改正で資金流入が期待される暗号資産──市場の流れは、確実に変わりつつある。

2026年に向けて本当に成果を上げられるのは、テック株一辺倒を見直し、法整備が進む暗号資産や不況に強いディフェンシブ株にも、バランスよく資産を振り分けられる投資家だろう。

いま一度、自分のポートフォリオを見直してみてはいかがだろうか。

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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