「最近、人の名前が出てこない」「新しいことを覚えにくくなった」――そんな変化を感じていませんか。

認知症は突然始まるものではなく、長い時間をかけて少しずつ進行していくとされています。
近年は、脳の“柔軟性”や認知機能と、「ポリアミン」という成分の関係を調べる研究も注目されています。

この記事では、『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(松藤千弥/アスコム)から抜粋して、認知症とポリアミンの関係について紹介します。
○認知症とポリアミン

脳の病気などによって、記憶や判断力などの認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態になるのが認知症です。

認知症はある日突然始まるものではありません。

多くの場合、長い年月をかけて、少しずつ進行していく病気です。

逆にいえば、早めにその兆しに気づき、対策をとることで、進行をゆるやかにしたり、防いだりできる可能性があります。

認知症の進み方を示したのが次の図です。

軽度な状態から重症化までのプロセスとして、「軽度認知障害」、次いで「軽度認知症」、「中度認知症」、「高度認知症」と進行していきます。

軽度認知障害は、まだ認知症とはいえない状態です。

この段階で早めに対処すれば回復できる可能性があるといわれています。

しかし、この段階を超えて進行すると、軽度認知症へと移行します。

一般的に、軽度認知障害から軽度認知症への移行率は1年で約10%、5年で約40%とされ、対策が遅ければ遅いほどリスクは高まります。


軽度認知障害となる前からみられるのが「認知的柔軟性の低下」です。

これは、環境の変化にうまく対応できなくなることを意味します。

たとえば、電車がトラブルで止まってしまったとき。

普通なら別ルートを探して目的地に向かうところを、「どうしよう」と立ち止まってしまう、というような状態です。

また、古い友人の名前は覚えているのに、新しく出会った人の名前は覚えられない、というのも認知的柔軟性の低下の一例です。

これは、脳の中の「記憶の棚」に新しい情報(人名)を整理して収納する力が弱まり、必要な時に取り出しにくくなっているためと考えられます。

つまり、「仕事の人」、「近所の人」など、情報を分類して整理・保管(記憶)する柔軟性が落ちているのです。

「認知的柔軟性」がポリアミンのはたらきで向上したという興味深い研究報告があります。

2023年、早稲田大学の掛山正心さんと協同乳業の研究チームは、科学誌『Frontiers in Nutrition』に論文を発表しました。

マウスにビフィズス菌LKM512とアルギニンを与え、腸内でポリアミンを増やしたところ、認知的柔軟性が高まったことを確認したのです。

この研究チームは、マウス用に特別なタッチパネル装置を使いました。

マウスが鼻先で正解のスポット(丸いエリア)をタッチするとエサがもらえる仕組みです。


初めに「この順番でタッチするとエサが出る」というルールを覚えさせ、途中でルールを変えたときに、どれくらい早く新ルールに順応できるか……、それで認知的柔軟性を評価しました。

新しいルールに素早く対応できるマウスほど、柔軟な思考が保たれているというわけです。

これは、私たちの日常生活にも通じます。

たとえば、スーパーのレジの仕組みが変わったときに、すぐに順応できるでしょうか。

「セルフレジはちょっと苦手で、つい有人レジに並んでしまう」という方も多いかもしれません。

そんな「新しいルールへの戸惑い」が増えてきたら、脳の「柔軟さ」が少し落ちているサインかもしれません。

同研究チームは同年、脳科学専門誌『Brain Communications』にも論文を発表しました。

人の45~55歳にあたる13~15か月齢マウスでも、同様の結果が得られたことを報告しています。

今後は人への応用に期待が高まっています。

認知症を標的とした人の研究も行われています。

先にマウスの研究で紹介したオーストリア・ドイツなどの欧州の研究グループは、ポリアミンを含むサプリメントをつくって、人での研究を始めています。

高齢者を対象に認知症予防への効果検証を始めていますが、まだ十分な結果が得られていないようです。


ポリアミン摂取量をもっと増やす必要があると考察しています。

2024年には、栄養学系の科学誌『Nutrients』にポリアミンが認知症リスク軽減につながる可能性を示唆する疫学調査の結果が発表されています。

英国の7万7092人の被験者を12年間分の追跡調査データを用いて、認知症のリスクと食事から摂取するポリアミン量の関連を調べたところ、ポリアミンの摂取量が多いグループは、少ないグループと比較して、認知症の発症リスクが低いという結果が出ています。

ただし、ポリアミンの種類(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)により少しデータも異なりますので、さらなる検討が必要です。

人を対象とした研究はまだ始まったばかりで、今後エビデンスが積みあがっていくでしょう。

ポリアミンは、静かに進んでいく脳の老いからあなたを守ってくれるかもしれない……、そんな可能性を秘めた成分です。

脳の老いから身を守る作用は、すぐに実感できるものではありません。

しかし、未来のあなたを支える一歩になると期待して、普段の暮らしの中で、「ポリケア習慣」を始めてみませんか?

○『あなたの中でいつの間にか進んでいる「老い」に負けない食事術』(松藤 千弥/アスコム)

私たちの体は歳を重ねると、細胞レベルで少しずつ衰えていきます。これは誰にも避けることのできない変化です。ですが、その進み方は、日々の習慣によって大きく変えることができます。そして今、その細胞の衰えに働きかける成分として注目されているのが「ポリアミン」という長生き成分です。本書では、ポリアミン研究の第一人者が40年にわたる研究からたどり着いた『細胞の衰えをゆるやかにする食事術』『無理なく続けられる、日常の食べ方の工夫』を、誰でも実践できる形で紹介します。
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