1月12日、アビスパ福岡の新体制発表会が開催された。柳田伸明強化部長が今後の補強の可能性も示唆したものの、基本的にはこの場でサプライズ加入が発表されたFWナッシム・ベン・カリファの獲得をもって2024シーズンを戦う陣容が揃ったといえるだろう。
ここでは、今冬7人がチームを離れ、新たに6人が加わった福岡で、2024シーズンを戦う新たなチーム体制について解説する。

IN/OUT状況(2024年1月12日時点)
IN(ポジション、氏名、年齢、前所属クラブと移籍種別)
- FWナッシム・ベン・カリファ(32歳)サンフレッチェ広島から完全移籍
- MF松岡大起(22歳)清水エスパルスから完全移籍
- FW岩崎悠人(25歳)サガン鳥栖から完全移籍
- MF北島祐二(23歳)東京ヴェルディへの期限付き移籍から復帰
- MF重見柾斗(22歳)福岡大学から新卒加入
- GK菅沼一晃(22歳)福岡大学から新卒加入
OUT(ポジション、氏名、年齢、移籍先クラブと移籍種別)
- MF井手口陽介(27歳)セルティックへ復帰後、ヴィッセル神戸へ完全移籍
- FWルキアン(32歳)湘南ベルマーレへ完全移籍
- MF中村駿(29歳)ジュビロ磐田へ完全移籍
- FW山岸祐也(30歳)名古屋グランパスへ完全移籍
- GK山ノ井拓己(25歳)ツエーゲン金沢へ完全移籍
- DF三國ケネディエブス(23歳)名古屋グランパスへ完全移籍
- MF田邉草民(33歳)引退

今冬の補強傾向
長谷部茂利監督体制2年目の2021シーズン、舞台をJ1に移した時から福岡が歩む道筋は不変。意図的に多くの選手を入れ替えることはなく継続路線を貫いている。現有戦力を大事にしながら、ピンポイント補強で上積みを狙う。そして、基本的に期限付き移籍ではなく完全移籍で長期的なチーム作りを実行している。
この方針は今冬も同様だが、獲得した選手の年齢層に変化があった。これまで25~27歳と中堅選手を主に獲得してきたが、今年は25歳以下の選手が中心。急遽獲得した32歳のFWナッシム・ベン・カリファ以外は5人が25歳以下で、そのうちFW岩崎悠人を除いた4人は23歳以下だ。2023シーズンの福岡は、J1で5番目に平均年齢が高かった。将来を見据え、可能な限り若い選手の獲得を狙ったのは確かだろう。

福岡を去った7人の選手
2023シーズン後のチームから退団となったのは7人。主力として2シーズン続けて2桁得点を挙げたFW山岸祐也と前線の複数ポジションを担ったFWルキアン、元日本代表らしい圧倒的な運動量と高い技術を見せつけ復活の1年を過ごしたMF井手口陽介が退団。2019年から5シーズンにわたり、チームの苦しい時期を支えたMF田邉草民は、12月18日に開催されたシャフタール・ドネツク(ウクライナ)とのチャリティマッチを最後に引退となった。
これにより、攻撃陣は2023シーズンのリーグ戦で挙げた37得点のうち15得点分(山岸10得点、ルキアン5得点)を失った形となる。

新加入の6選手
新加入選手は6人。主に福岡から他クラブへの移籍が発生したポジションを中心に強化を図った。井手口と中村の抜けたボランチには、どちらもパリ五輪出場を目指すMF松岡大起、MF重見柾斗を獲得。松岡はJ1で113試合、重見も大学生ながら特別指定選手として2023シーズン5試合の出場経験があり、若手ではあるが不安は少ない。山岸とルキアンが抜けたストライカーにはサンフレッチェ広島で2シーズンプレーしたFWナッシム・ベン・カリファを獲得。献身性が高く、最前線の選手が守備の起点となることが求められる福岡にフィットすることは間違いない。
サガン鳥栖から加わったFW岩崎悠人は、2023シーズン後半から中心システムとなった[3-4-2-1]のシャドーとウイングバックの位置を担えるアタッカー。圧倒的な運動量と推進力を武器に、2022年のEAFF E-1サッカー選手権を戦う日本代表にも選出された。ベン・カリファと共に多くの得点に関与することが期待される。また、東京ヴェルディへ期限付き移籍していたMF北島祐二は持ち前の突破力はそのままに、怪我を負うまで主力を担ったことで試合の流れを読む力と自信を加えて帰還。セットプレーのキッカーとしても期待したい。また、山ノ井拓己が抜けたGKには菅沼一晃が加わり、新たな4人の顔ぶれでポジション争いが繰り広げられることとなる。

2024シーズンの陣容総括
福岡はおそらく、各メディアの補強診断で今季も低い評価となるだろう。新加入選手の人数が多くなく、それぞれが残してきた数字だけを見ると他チームと比べて地味に映るためだ。ただし、サッカーは単純な足し算ではない。「チーム戦術に合致した」選手であることが重要だ。その点で福岡は間違いなく良い補強ができたといえる。チームの根幹を成す守備陣に主力の流出はなく、崩れる姿は想像できない。中盤から前では「チームの心臓」と評されるMF前寛之や、初タイトルに多大な貢献をした“博多のメッシ”ことMF紺野和也ら主力の多くが残留している。
1つ不安を挙げると、明確な点取り屋が不在なこと。昨シーズン以上の順位に入るためには得点増が不可欠で、FWベン・カリファやFWウェリントン、FW鶴野怜樹、FW城後寿などタイプの異なるFW陣のうち、誰かが「新エース」にならねばならない。長谷部監督は、新体制発表会で今季の目標を「リーグ戦6位以上、カップ戦ベスト4以上」と掲げた。その際の自信漂う表情から察するに、指揮官としては十分な陣容が揃ったと感じているのだろう。2023シーズンの7位を上回るため、そして願わくば2つ目の星をユニフォームに輝かせるために、再び前評判を覆す戦いが始まる。