次節は3位に付けるカターレ富山とのアウェイ戦だが、圧倒的な強さでJ2昇格を決めた大宮を相手に2得点。さらにその前節のホーム岐阜戦(とうほう・みんなのスタジアム)では4-3で打ち合いを制するなど、攻撃陣は好調をキープしている。クラブの最高記録は2021シーズンの5位だが、今季はそれ以上が狙えるだろう。
J2プレーオフ進出争いは熾烈を極めており、4位のFC大阪(勝ち点48)から13位のガイナーレ鳥取(勝ち点43)までに10チームがひしめく大混戦。勝ち点では雌雄が決せず、得失点差、総得点数、あるいは当該チーム間の対戦成績、反則ポイントで決まる可能性もある。とにかく11月24日、14時同時キックオフで行われるJ3最終節、全試合終了のホイッスルを聞くまで、何が起きるか分からない激戦だ。
福島は、富山戦後の相手は、SC相模原、奈良クラブ、ツエーゲン金沢、沼津、いわてグルージャ盛岡と続く。そのうち相模原、金沢、沼津はプレーオフ出場を争う直接対決。奈良、盛岡はJ3残留を懸け、必死の戦いを挑んでくるであろう厄介な相手だ。
J3で11年目を迎えた福島
J3で11年目を迎えた今シーズン、川崎フロンターレ一筋12年の現役生活を送り、2008年、32歳にして日本代表に初選出された元DFの寺田周平氏を監督に迎えた。寺田氏は2010年オフの引退後、2011年から川崎でトップチームや下部組織で指導経験を積み、川崎の元監督(2004-2009)で、2012年のロンドン五輪では日本代表を44年ぶりの4強に導き、2023年から福島のテクニカルディレクター(TD)を務める関塚隆氏に請われる形で、自身初の監督に就任した。
DF出身でありながらも4-3-3をベースとした攻撃的サッカーを志向し、総得点49は、プレーオフを争う10クラブの中ではトップの数字だ。
大関の個人技は、先日の大宮戦でも発揮され、大宮DFがイエローカード覚悟のファールで止めるシーンも散見された。
2024シーズン想定外の大善戦
攻撃に重きを置く戦術である上、シーズン中盤の7月にDFの要で主将を務めていた堂鼻起暉を同じ福島県をホームとするJ2いわきFCに引き抜かれたこともあり、失点も多い(41)。得失点差は+8にとどまり、32節終了時点で完封試合は8、スコアレスドローに終わった試合も2と、チームの特色が数字にそのまま表れている格好だ。2022シーズンは服部年宏監督の下、11位。2023シーズンは依田光正監督の下、15位に終わり、今季開幕前はJFL降格候補にも数えられていた福島。
しかしリーグが始まると背番号10を背負う森や、後に移籍することになる堂鼻といったベテランを軸に、大卒の生え抜き選手や、川崎、徳島ヴォルティス、柏レイソルから育成型期限付き移籍で加わった若手で構成されたメンバーが一丸となり、想定外の大善戦を演じている。大宮戦の先発選手のうち4人がレンタル選手で、大関も川崎からのレンタルだ。
こうしたチーム作りをしているクラブは、資金力のないJ3クラブでは珍しくはないが、毎年のように選手が大幅に入れ替わることで、継続的な強化を困難にさせている。
東日本大震災からの道のり
福島の場合、今季開幕前にオーナーの変更があった。東洋ワークグループから、投資会社「WMパートナーズ」の共同創業者の寺部達朗氏が過半数の株式を譲渡され、自ら代表取締役会長の差に就いた。過去、東北リーグ時代には運営会社が破産し、新たな運営会社を設立したものの、その翌月に東日本大震災(2011年3月11日)が発生。放射能への不安から多くの選手が退団するなど、2014シーズンのJ3参戦まで険しい道のりを辿ってきた福島。
しかしその逆境をバネに、クラブは“新事業”に乗り出す。それが2014年に立ち上げられた「福島ユナイテッドFC農業部」だ。
原発事故に伴う風評被害により、福島県産の農作物生産者がダメージを受ける中、あえて選手自らが野菜や果物を育て、アウェイ戦では販売ブースを設けるなど地道な努力が実を結び、現在ではクラブの重要な収入源の1つにまで成長しただけではなく、復興に向けての一翼を担った。
地元にとって「福島ユナイテッドFC」とは、単なる1サッカークラブではなく、地域に根付くコミュニティーとなっているのだ。
チームの成長スピードに追いつかない運営
だからといって、課題がないわけではない。2023シーズンのホームゲーム平均観客動員数は1229人にとどまり、J全60クラブ最低を記録してしまった。本拠地のとうほう・みんなのスタジアムは、福島市の外れにあり、しかもJR福島駅からの公共交通機関は路線バスのみ。公式サイト上では、直通乗合タクシーの利用を勧めている有り様だ(しかも、片道4000円!)。福島競馬開催時には臨時バスによるピストン輸送が行われているのとはあまりにも対照的だ。
いくら車社会の地方都市とはいえ、県庁所在地をホームとするクラブとして遠征してくるアウェイクラブのサポーターをガッカリさせるだけではなく、地元のサポーターも不便を感じているに違いない。この事実だけでも、フロントが集客に努めているとは思えないのだ。福島には地元バス会社がスポンサーに付いているのだが、宣伝看板を出す前にお願いするべきことがあるだろう。
今年5月、福島駅西口再開発に伴い新スタジアム建設の陳情があったが、自治体は建設費や整備費の高騰を理由に消極的な姿勢だ。
また、現在、福島にはJ2ライセンス取得に必須となるユースチームが存在しているが、その下部にあたるジュニアユースチームがない状態だ。そのユースチームにしても、J3ライセンスを取得するために2021年、急きょ結成されたものだ。
チーム強化や農業部の頑張りは評価できるが、試合運営のノウハウや選手育成については二の次といった印象を受ける福島。仮にプレーオフに進出し、そこを勝ち抜いてJ2に昇格できたとしても、特にスタジアムへのアクセス面で大混乱になることは必至だ。現状、チームの成長スピードにフロントや運営が追い付いていないのだ。
同県のいわきFCに先にJ2に昇格され、集客力でも後塵を拝している福島。もちろん今シーズンはJ2昇格の大チャンスなのだが、もし昇格できずとも、もっと足元を固め、観客へのホスピタリティーを整備した後に、再チャレンジを図る必要があるだろう。